「ではこのクエストを受けますね」
「このクエストですか……いいんですか? ちょっと危険ですよ?」
今日もフォルトーナはクエストを引き受ける。今の場所は風邪をひいた姫君の父親が治める国とは別の国だ。今回は探し物で、近くの廃村で暮らしていた老婆が思い出の品物を代わりにとって来てほしいという依頼だ。
「廃村の周辺で戦争が行われているので日にちをずらしたほうがいいと思いますよ?」
「んー、でもおばあちゃん老い先短そうなんでしょ? だったらすぐにでも取りにいかないといけないでしょ? それに剣はある程度自信はあるから」
フォルトゥーナ(と、その双子の兄)の両親は共に元冒険者で父親は戦士、母親は錬金術師だった。
彼は父親から兄程ではないがそれでも人並みよりかは優れた剣の才能と、母親から錬金術師の才能を引き継いでいた。
兄にとっての剣の腕、のような代名詞とでも言えるほど特別秀でた能力は無いが、複数の才能を持つことで総合力や汎用性では兄に勝っていたのだ。
廃村についてしばし……指定された家で探していると彼女が自分のために書いた自作の詩集を見つけ、それを見つけ出して懐にしまった。
後は帰ってギルドに報告するだけと思っていた……その時。枯れ井戸から男数名が出てきた。彼らはみな武装していた。
「ふぅ。狭かったな」
「致し方ありません。何せ緊急用の脱出通路ですから」
(あれは……魔王!? いや、彼は戦場に出ているはずだ……)
「影武者のアイツには私が死んだあと詫びを入れないとな。私が負け戦をしたせいで死ぬことを強いてしまった」
「彼も閣下のために死ねるのなら本望でしょう、さぁ行きましょう」
(なるほど影武者か……ってことは本物の魔王って事か!?)
目の前に急に特大の大物が飛び出てきた! もちろん逃がすつもりはない。いつでも戦えるように準備はしていた。
「とっておきだ!」
お手製の爆弾……クギや金属片が無数に埋め込まれており、爆発の衝撃でそれらが飛んで身体に突き刺さり食い込むという凶悪なもの。それをあるだけ全部、投げつける。
「!? な、何だ!?」
「とにかく閣下を守……」
雷鳴のようなけたたましい爆発音が6回、辺りに響き護衛4人は戦闘続行不可能なほどの重傷を負うかまたは死亡。護られていた魔族の王も足に金属片が何本も突き刺さり、動けなくなった。
「お、おい! しっかりしろ!」
「……」
王は部下に声をかけるが、返事は無い。
「魔王だな。拘束させてもらうぞ」
「クッ。ここまでか」
フォルトゥーナは魔王の腕を縛り、拘束する。
「フォルトゥーナと言ったな! よくぞ本物の魔王を捕まえたな!」
魔王と戦争をしていたこの国の王は倒した魔王は影武者だとは見抜いていた。では本物の魔王はどこに? 探していたところをフォルトゥーナが見つけ出したのだ。
「お前にはいくら礼をしても足らない位だな」
「いえいえそんなことはありません。陛下のお役に立てれば幸いです」
「謙虚だなお前は。まぁいい、これが報酬だ。小切手で良いな?」
「構いません。私には過ぎた額ですけどね」
こうしてフォルトゥーナは平民の年収2年分にもなる大金を魔王を引き渡すカネとして受け取った。
【次回予告】
今のパーティリーダーには何かある。賢者はそう思っていた。それは自身に起きた出来事で確信へと変わる。
第6話 「賢者 牢獄送りにされる」
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