【悲報】最強の勇者御一行様、死に損ないの魔王に呪いをかけられ最弱パーティにされてしまう!(略して悲報勇者)

九季さくら
九季さくら

第14話 勇者御一行と炎のアミュレット①

公開日時: 2021年1月10日(日) 17:23
文字数:2,852

 三、四……ざっと数えてみた所、アズキパンの囚人どもは六匹だ。

 トミー曰く、戦力はかなりのモノとの事だが、今の俺達にはセレナがくれたこの炎のアミュレットがある。充分に太刀打ち出来るはずだ。


「いいか、顔だ! 顔を狙え! 灰に、真っ黒焦げなパンにしてやるんだ!!」

 と、俺達を乗せたままトミーは大きく鼓舞し、俺達の士気を上げた。


「おもしれぇ……こちとら最近やれ呪いだ何だで鬱憤も溜まってたんだ。この機会に、存分に暴れさせてもらうぜッ!!」

 言うが早いか、俺は囚人どもにアミュレットを嵌めた左手を翳し、


 ────炎よ燃えたぎれ!!


 心の中で叫んだ。


 すると、光を発したアミュレットから、まるでドラゴンが放つ、火炎放射の如く勢いの炎が放出される。

 前から迫り来るヤツらをしっかりとロックオンした炎は、一直線に飛んで行く。


 そして次の瞬間には────


「ぐわぁあああああ!!」

 火だるまになったパンが一匹、二匹と苦悶の声を上げた。

「っしゃあああ! 魔法って気ん持ちぃいいいいい!!」

 俺は初めて自分の意思で魔法を使えていること、それにより敵を倒せたことに快感を覚えていた。

 何だよ、魔法ってこんなに気持ち良いのかよ。

 1ミリも俺の手柄ではなく、まごう事なく全てセレナが作ってくれたこのアミュレットのおかげなのだが、ここまで気分爽快なら魔法使いに転職したくなってきてしまった。


 そんな俺の後ろから、


 ────ゴォオオオオ!!


 先刻と同様に火柱が飛んでいく。エイオスである。

「もうどうなっても……BANされても知らないからね! 最悪俺だけでも別の作品ででも良いから生き残ってやる!」

 言いながらエイオスも俺と同じくアミュレットを嵌めた手を囚人どもに向け翳している。



「いいぞ、お前達! あの衛兵部隊を一撃とは!」

 と、一時は焦っていたトミーも俺達の善戦を前にすっかりテンションを上げている。

 そんな俺達の耳に、

「きゃあああああ!!!」


 遥か後方、皆が待っている方向から叫び声が届いた。

 嫌な予感と共に反射的に振り返ると、ここと同様に複数の囚人どもが今まさに襲いかかろうとしていやがった。

「ヤツら、あっちにも!!」

「ギル! ニア! アネ! アミュレットだ! 炎のアミュレットで応戦しろ! そいつらは炎が弱点なんだ!」

 俺もやばいと思い声を張り上げた。


 しかしギルは、

「大丈夫です!」

 見当違いな返事を返してくれた。


「いや大丈夫じゃないだろぉおおおお!! 今まさに敵が迫ってきてるっつーの!!」

「ギルちゃぁあああん!! ほら! さっき嵌めたアミュレット! 戦うよ!?」

 エイオスも加わり、ギルに応戦するよう促す。

 が、

「大丈夫です! ちゃんと言い付け通り、僕は微動だにしませんから!!」

「いや今度は動けって言ってんだよぉおおおおお!! 言う事も融通も利かねぇのかお前は!?」

 あの馬鹿! この期に及んで本当に動かない気か!?


 と思っていると、

「あらら!?」

 今声を張り上げたのがワンアクションとカウントされた様で、トミー含め俺達はニアと同じ様に、180℃回転した。


「ちょ、これ以上メチャクチャになってくるとホントにどれが正の向きだったかわからなくなってくる!」

 と、エイオスが喚いた。


 さっきまで俺達の頭上だった部分が、今や俺達にとっての床となり、さっきまで床だった部分は俺達にとって天井となっている。

 ニアと同じ向きになっているから、そう言うことなんだろうが。

 別に逆さまになっているとか、血が頭に昇るとか、そう言った感覚はない。

 上下逆転こそしたが、あくまで重力は従来通り、俺達の足に向かっているみたいで、さっきまで正の向きとして立っていた時と、感覚的には何ら変わらない。

 なんだってんだ?


「んもぉ! 何で戦いづらい私まで戦わなきゃいけないのよ!?」

 依然として逆さまになっているニア(今でこそ俺達もニアと同じ向きになっているが)は、上を向き、頭上を移動する囚人どもに向かってアミュレットを向けている。

 さながらその姿と来たら、天井に現れた虫をどうやって潰してやろうかと悩んでいる様だ。

「アネも戦うよぉおおお!!」

 言いながらアネモネは躊躇なく火柱を出現させる。

 しかし、それがカウントされた様で、空を飛んでいた本達が、アネモネをターゲットに切り替え、一直線に突っ込んできた。

「痛い痛い! 本の角痛い!」



「ギルバートさん! 来てます!」

「すみません、セレナさん。僕は誓った。絶対にここを動かないと」

 と、一番貧乏くじとなる、最悪なパートナーと共に取り残されたセレナがギルの体を揺する。

「ギルバート! あんたいい加減にしなさいよ!?」

 と、痺れを切らしたニアが今一度炎のアミュレットを使うと、それがカウントされた様で、ギルとセレナの立つ向き。本来の正の向きへと帰還する。

 そして、


 ────ドゴォオオオ!


 向きが戻るや否や、カウントなんかお構い無しにギルの頬を殴った。


「ギルバートさん!!」

 ギルの体はその場から吹き飛ばされ、毎度の如く地面に何バウンドかして倒れ込む。

 突然の仲間からの攻撃にセレナはビックリしているが、致し方ない。

 俺も近くにいたら一発ぶん殴っていた所だ。代わりにニアが殴ってくれたと言うだけの事。グッジョブである。


 しかし今の一撃が部屋にワンアクションとカウントされた様で、ニアの体は再び、ニアにとっては最早慣れた位置。定位置となっていた上下逆転した向きに戻ってきた。

 ホントただ殴りに戻っただけみたいになったな。アイツ、この短時間でカウントを使いこなしてやがる。



「あの囚人どもを相手になかなかやるじゃないか。暗殺者」

 言って、トミーは俺がモノローグでギル達サイドの解説をしている間、一人こちらサイドの殲滅を行っていたエイオスを褒め称えた。

「まぁ、勇者には勇者の一人称小説特有の仕事があるからね。俺はその間に自分に出来ることをしたまでさ☆」

 と、エイオスはエイオスで未だ煙を上げているアミュレットにフッと息を吹き掛け、キメて見せる。



 とりあえず、こちらは片付いた。

 トミーがあんな言うもんだから、どんな強敵かと思ったが、セレナのアミュレットのおかげで呆気なく終わらせる事が出来た。

 炎が弱点と言う事もあり、会心の一撃も出やすくなっていた様だし。

 まだ後方では攻防を繰り広げている音や声が聞こえてくるが、あいつらなら大丈夫だろう。

 俺達は俺達でやる事をやっちまおう。


「よし、行くよ!」

 トミーの声に、俺とエイオスは再びがっちりとしがみついた。

「もうこれ以上遠退いてくれない事を祈るだけだ」

 言って、トミーは再び地面を蹴って跳躍した。


 先程の場所から、トミーの三度の跳躍を持って、俺達は本棚で出来た螺旋階段の元へと辿り着いた。

 この三度の跳躍の間、運良くカウントされる事もなく、部屋や俺達の身に変化はなかった。何事もなくただ移動出来たと言うのは俺達にとっても作者にとっても好都合。ラッキーである。

 あのアズキパンの囚人どもを倒した事で、部屋が万策尽き果てた……って事はないだろうが、次はどうしてやろうかと悩んでいるかの様にも思える。嵐の前の静けさと取る事も出来るのだが……

②につづく!(1話が長いので今回から①、②に分けました)

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート