追憶の誓い

~時渡りのペンダント~
退会したユーザー ?
退会したユーザー

ルシアルート

六章 帝国ザハルへと (共通ルート ルシアルート)

公開日時: 2022年4月18日(月) 03:00
文字数:6,389

 ザハルの帝王を倒すため旅を続ける私達。もう間もなく帝都に辿り着くけどその前に買い物と武器の手入れをするために大きな町へと向かい森の中にいた。

 

「ドロシーちゃん疲れてない?」

 

「大丈夫です……」

 

アンナさんの問いかけにドロシーさんは機敏に振る舞う。どう見てもその顔には疲れの色が出ているので皆にはバレバレなのだが、彼女が大丈夫だというのだから私達は何も言わずに黙っていた。

 

「今日はここで休み、明日町で買い物などを済ませるぞ」

 

もう直ぐ町だけれどもドロシーさんが疲れている様子なのでジャスティンさんがそう提案する。私達はこの森で野営することを決めた。

 

「さて、と……フィアナ少しお話があるのちょっと来てもらえる?」

 

「はい」

 

夕食も終わり一段落付いている時にアイリスさんが私に声をかけてきた。これは二人で決めた合図だ。皆に怪しまれないように未来へと戻る為の作戦である。まぁ、戻る時は彼女一人で皆の元に戻るのだが、アイリスさんがなんて伝えているのか分からないけれど今まで誰にも疑問に思われず済んできたのできっとうまいこと話してくれているのだろう。兎に角アイリスさんのおかげで未来と過去の行き来が楽にできるようになって有り難い。

 

そうしてそっと皆の下を離れると森の奥へと向かう。

 

「ここまで来れば大丈夫よ」

 

「アイリスさん何時も有り難う御座います。それでは……」

 

「また後でね」

 

笑顔で見送ってくれるアイリスさんの姿を見ながら私はペンダントへと手を当てた。時計型の魔法陣が現れると次の瞬間視界がぐにゃりと歪む。そうして見えてきたのは見慣れたリビングで……

 

「あれ?」

 

「何を呆けた顔をしているんだ?」

 

「フィアナ、お帰りなさい。ふふ、何時もこうやって未来と過去を行き来しているのね」

 

見慣れたリビングではなく王立図書館の館長室で驚いていると呆れた顔で腕を組みこちらを見やるルシアさんと、なぜか瞳を輝かせ微笑むアニータさんの姿があってどういうことかと思った。

 

(そう言えば以前アニータさんに過去に行く時にどんな様子なのか見せるねって約束して、それを果たす為に今回は王立図書館で転移したんだった)

 

過去の世界で過ごしているうちに忘れていたがそう言えばそうだったと思い出し納得する。

 

「お前がいない間アニータが騒いで大変だったんだ。フィアナ、またすぐに過去に行くのか?」

 

「はい、もう直ぐ帝国ザハルに到着します。そうしたらお母さん達が帝王を倒すと思うので、そのお手伝いをしてきます」

 

「そうか……側で手伝ってやりたいが、フィアナが一人でやりとおすと決めた事。もどかしいがここでお前の帰りを待っていてやる。俺がいるところに必ず戻って来るだろう?」

 

「勿論です」

 

「あらあら、ご馳走様」

 

私達の会話ににやにやと笑い彼女が言う。私は恥ずかしくて頬が赤くなっているのをごまかそうと口を開いた。

 

「そ、それじゃあ皆に怪しまれるといけないから私はもう行くね」

 

「あぁ、気を付けろよ」

 

「行ってらっしゃい」

 

私の言葉に二人が微笑み見送ってくれる。再び過去に飛ぶためにペンダントへと手を当てた。

 

「……ふぅ、アニータさんたら変なこと言うんだもの焦っちゃった――っ!?」

 

「やぁ、フィアナお帰り」

 

「いつもいつもどこに向かっていたのかと思えば、こういう秘密があったんだな」

 

深い森の中に再び戻って来ると野営地へと向けて体を反転させる。すると目に飛び込んできた三人の姿に私は硬直してしまう。変な汗出てたりしないよね?

 

そこにいたのは笑顔が怖いジュディスさんと威圧感しかないアルスさん。彼の横で申し訳なさそうな表情でこちらを見詰めているのはロウさん。どうしてここに三人がいるのか分からないけれど、時渡りしてきた姿を見られてしまった事に私は冷や汗を流す。

 

「さぁて、ぼく達が納得できる理由を教えてもらおうか?」

 

「嘘をついたり逃げたりしたら分かってるよな?」

 

「すみません……」

 

笑顔が怖い二人に迫られる中一人だけ頭を下げて謝るロウさん。これはもう逃げられない。私は事の経緯といきさつを話した。

 

「……つまり両親の手紙を読み過去の時代の二人を助けるため、未来が変わらないようにするために時渡のペンダントだっけ? それを使ってこの時代に渡ってきた……ってことでいいのか?」

 

「はい、そうです……」

 

アルスさんの言葉に私は小さく頷く。全ての話を終えると彼等は考え込むように黙る。

 

「そっか、つまりフィアナは過去の時代でお父さんとお母さんを助けるために未来から時渡のペンダントを使って来て、そしてタイムリミットが迫ってきたら未来へと戻っていたってことなんだね」

 

「そんな理由があるとは知らずザハルの関係者なんじゃないかと疑い内通者だと勘違いしていてすまなかったな」

 

「信じてもらえるのですか?」

 

二人の言葉に私は驚く。いや、信じてもらえるのは有り難いのだけれど、我ながらこんなこと言って信じてもらえるとは思っていなかったのでつい尋ねてしまう。私だったらこんな突拍子もない話信じられるかっていったらちょっと自信がないからね。

 

「フィアナが嘘ついていないことは目を見ればわかるし、こんなあからさまな嘘なんてついたところで何の得にもならないだろう」

 

「それに実際に時渡してきたところをこの目で見ているからね」

 

「ははっ……ごもっともです」

 

アルスさんとジュディスさんの言葉にぐぅの音も出ないと小さく笑う。

 

「さて、それじゃあそろそろ皆の所に戻ろう」

 

「そうだな。黙って出てきたからいないことが知られると騒ぎになるかもしれない」

 

二人の言葉に動き出そうとしたその時、複数の足音が聞こえてきて、私達はザハルの兵士に取り囲まれる。

 

「「「「!?」」」」

 

「お前達の正体は分かっている。おとなしく付いて来てもらおうか」

 

警戒し身構える私達へと隊長だと思われる兵士が口を開き言う。しかし剣を抜き放った状態で言ったということは従わなければここで斬り殺すということなのだろうか?

 

「アルス様。私がここを食い止めますので貴方はお二人を連れて皆さんの所へ!」

 

「っ、ロウ!? ……二人とも行くぞ」

 

その時ロウさんが私達の前へと出ると剣を抜き放ち兵士達へと飛び掛かる。いきなりの事に相手は驚き彼へと意識が向いた。

 

彼が剣戟を繰り出しながら叫ぶとアルスさんが何事か言いたそうな顔をしたが、言葉を飲み込むと私達へと声をかける。

 

私はこの場にロウさんを残していくことに躊躇ったがジュディスさんに無理やり手を引かれ駆け出す。すぐそこには野営地がある。皆を連れて戻ってくれば大丈夫だと言い聞かせながら私は走ることに集中した。この後彼だけを残して行った事を後悔することとなる。

 

「はぁ……はぁ……ぅ」

 

前を走る二人に置いていかれないようにと必死に足を動かし、荒れる呼吸を落ち着かせることもなく走り続けた。

 

「はぁ……はぁ……っ!?」

 

もう少しで野営地だと気が緩んだ瞬間。私は誰かに腕を掴まれ引っぱられる。

 

(誰?)

 

誰なのか分からないけれどその人物の顔を見る間もなくハンカチが口に当てられる。その瞬間強い睡魔に襲われ私の視界は徐々に暗闇の中へと落ちていった。

 

「「フィアナ!!」」

 

アルスさんとジュディスさんの叫ぶ声を遠くで聞きながら私は意識を失った。

 

「……ん?」

 

再び意識が浮上してきて目を開くと心配そうな顔で見詰めるアルスさんとジュディスさんの顔が目の前にあり飛び起きる。

 

「あれ、ここは?」

 

見渡すと石畳の壁と床。鉄格子が嵌められた窓から射すのは夕方を告げる西日。ずいぶんと時間が経過してしまっていることに驚いていると二人に大丈夫かと聞かれ慌てて答える。

 

「フィアナがザハルの兵士に捕まって睡眠薬で眠らされてしまったんだ。それで、お前の命を助けたければ大人しく従えって言われてみんな仲良く馬車に乗せられ連れてこられたのはザハルの城。今は牢屋に入れられているが明日の朝には見せしめのために公開処刑されるそうだ」

 

「フィアナが目を覚ましてくれてよかったよ。このままタイムリミットになってしまったらどうなってしまうのか恐くて……」

 

「タイムリミット?」

 

アルスさんの説明で自分が気を失ってしまった後に起こったことは理解できたが、ジュディスさんの言葉に何の事だろう? と首を傾げる。

 

「お前が言ったんだぞ。一日を過ぎると時の迷い人とやらになってしまうってな」

 

そう思っていると呆れた様子でアルスさんが説明する。そ、そんなに時間が経っていたの? 確かに夕方になっているのは分かったけれど。

 

「一度未来に戻った方が良い。話はその後だ」

 

「は、はい。見つからないうちに戻ってきますので」

 

彼に促される形で私は一度未来へと戻る。でもここからどうすればいいんだろう。そう思いながらペンダントへと手を当てた。

 

「フィアナ、お帰りなさい」

 

「如何した、何かあったのか?」

 

未来に戻った私はすぐに過去の時代へと帰ろうとする。その様子に異変を感じ取ったルシアさんが尋ねて来た。そうだ、彼なら頭がいいから何かアドバイスを貰えるかも。

 

「ルシアさん。今私達ザハルの帝王に捕まって牢屋にいるの。明日の朝見せしめのために公開処刑されるって……何とかして助かる方法はないかな?」

 

「あれほど危険な目に合わないように気を付けろと言っておいたのに……いや、今は説教をしている場合ではないな。良いか時間が無いから一度しか言わないよく聞け。フィアナこういう時は周りをよく観察しろ。そうして使えるものは使え。俺が言えるのはこれだけだ」

 

周りをよく見て使えるものを使う? よく分からないけれどこのアドバイスを胸に私は再び過去へと飛んだ。

 

私が戻って来ると二人は何事もなかったから大丈夫だと教えてくれて、どうやら兵士達に気付かれずに済んだようだ。騒ぎになっていたら彼等の命は今頃なかったかもしれない。そう考えるとぞっとしたけど、何事もなくてよかったと胸を撫で下ろした。

 

「それで、その……俺達のせいでフィアナまで巻き込んでしまったな」

 

「君だけでも何とかして逃がしてあげたいのだけれど……武器を取り上げられてしまった以上何も出来なくて」

 

「大丈夫ですよ。私達なら絶対に助かります。ですからそんな顔をしないでください」

 

申し訳ないと頭を下げる二人に私は笑顔を意識して言う。

 

「どうしてかな。フィアナが言うと本当にどうにかなりそうな気がしてくる」

 

「あぁ、そうだな。元気を貰えたよ」

 

二人が前向きになってくれてよかった。でも大丈夫だといったけれど正直私もどうすれば助かるのか全くもって分からないし不安で仕方ない。ルシアさんは周りをよく観察して使えるものを使えって言っていたよね……私はぐるりと牢の中を見渡す。冷たい石でできた牢獄は無機質で、とくに逃げられそうな道もなく。鉄格子が嵌められた窓は大人の男の人でも届かないような位置にある。換気が目的のためだけのものだろう。

 

その時吹き抜けの窓から風の音と共に鳥のさえずりが聞こえて来る。……鳥? そうだ鳥だ!

 

私はそっと鉄格子の嵌められた窓の下へと向かう。その様子を二人が不思議そうな顔で見ていたが、何か名案が浮かんだのだろうと思っているのか黙って見守ってくれる。

 

「小鳥さん、小鳥さん。私の声が聞こえたらこちらに来てはもらえませんか?」

 

私がそう外に向かって声をかけると羽ばたきが聞こえ窓の縁に白い色をした小鳥が止まる。

 

『わたしを呼んだのは貴女? どうしたの?』

 

「小鳥さんにお願いがあるんです。私達がここにいる事を伝えてもらいたい人達がいます。その人達の中の一人は私と同じで動物の言葉が解る人です。その人に私が言うことを伝えて下さい」

 

『何かよほどの事情があるのね。分かったわ。伝えてあげる。動物の言葉が解る人はいい人だって聞いたことあるから、その人が困っているんなら助けなくちゃね』

 

「有り難う御座います」

 

私の言葉に快く承知してくれた小鳥さんに心から感謝すると彼女は羽ばたいていってしまった。きっとお母さん達に私達の事を伝えに行ってくれたのだ。

 

「なぁ、フィアナ。一体何をしていたんだ?」

 

「さっきの小鳥さんに私達の事を伝えてもらえるように頼んだのです。今はこれしか方法がありませんが……きっとみんなに私達の事を伝えてくれるはずです」

 

「フィアナは本当に不思議な人だね。動物とお話ができるなんて」

 

アルスさんの問いかけに答えるとジュディスさんが目を丸くして呟く。兎に角今は小鳥さんに賭けるしかない。私達は信じて待つことになった。

 

*****

 

アンナ視点

 

 昨夜アイリスがフィアナを連れて森の奥へと行ってしまい、戻ってきた時は一人だったので疑問に思い尋ねるとちょっと頼み事をしたから帰って来るのに時間がかかるといわれて2、30分ぐらいすれば戻って来るからと話していたのでそのまま気にせず眠ったのだが、朝起きてみても姿がどこにも見えず、一緒に寝ていたはずのアルスやジュディスやロウまでいなくなっていた。夕方まで四人の帰りを待っていたが一向に戻ってこない様子にこれは如何したことなのだろうかと皆して話し合う。

 

「フィアナが森の中で迷子になったとか?」

 

「それとも獣に襲われたかもしれないだ」

 

「目が覚めてアルス達がフィアナの姿がないことに疑問に思い探しに行ったのかもしれないな」

 

ハンスが顎に手を当てて呟くとアンジュも心配そうな顔で話す。ルークも姿の見えない三人について仮説を唱えた。

 

「……まさか、まさかとは思っていたが、やはりフィアナはザハルの関係者で、今頃帝国に俺達の事を知らせているのでは?」

 

「違うわ! フィアナは内通者なんかじゃない。どうしてそんなひどいことを考えるのよ」

 

ジャスティンの言葉にアイリスが食って掛かる。私だってフィアナが内通者で私達の事を騙していたなんて思いたくない。いいえ、考えたくもないわ。でも……複雑に揺れる心をごまかそうと必死に両手を握りしめた。

 

「それじゃあ、どうして戻ってこないんだ? 命を狙われていたアルス達の姿もないとなると考えられるのは俺達が眠っている間に三人をひそかに連れ去ったとしか考えられないだろう」

 

「ジャスティン、言葉が過ぎるぞ! 俺はアイリスの言う通りフィアナが内通者であるとは思わない。きっと困った状況になって帰るに帰れなくなっているんだ」

 

そんな私の前でなおも彼女を疑い続ける彼へとロバートが声を荒げて否定する。

 

「でも、もしそうだとしたら様子を見に行っただけのアルス達はどうして戻ってこないの?」

 

リックの言葉に皆答えれずに困ってしまう。っと、その時遠くから鳥の羽ばたきが聞こえてきて白い小鳥さんが私達の前を浮遊する。

 

まるでついてこいと言わんばかりにこちらの様子を窺う小鳥さんにアイリスさんが驚いた顔をした。

 

「小鳥さん、それは本当なの? フィアナが私達に……お願いすぐに連れて行って」

 

「アイリス?」

 

まるで小鳥さんと会話しているかのような彼女の言葉にルークが怪訝そうに声をかける。

 

「この小鳥さんはフィアナに頼まれて私達の所に来たんだって。今フィアナ達は帝国ザハルの牢獄にいるそうよ。明日見せしめのために処刑されるって……」

 

「それって、もう猶予はないってことじゃないだか」

 

「ここから帝国まで急いで行っても間に合うかどうか……」

 

アンジュが複雑な心境で呟くとジャスティンが難しい顔で説明した。そんな、急いで向かったところで処刑に間に合わないだなんて……

 

「一つだけ間に合う方法がある。わたしは魔法使いだ。転移魔法という魔法で移動する方法を知っている。それを使えばぎりぎり間に合うかもしれない……確証はないがな」

 

「それしか方法がないなら……ハンス。頼めるか?」

 

「分かった。皆わたしの側に寄ってくれ」

 

ハンスの言葉にルークが頼む。それに了承した彼が意識を集中し魔法陣を構成し始める。これで間に合わなかったらと嫌な考えに支配されそうになる頭を振って否定する。お願い間に合って……

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート