新説・川中島『武田信玄』

――甲山の猛虎・御旗盾無、御照覧あれ!――
黒鯛の刺身♪
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第六話……右翼劣勢

公開日時: 2021年2月4日(木) 19:13
文字数:827

――明け方、徐々に霧も晴れてくるころ。

 越後勢が一丸火の玉となって攻勢をかけてきた。



「越軍一千、我が方の右翼に攻めかかっております!」

「うむ! 各隊、別動隊が駆け付けるまで、持ちこたえよと伝えよ!」


「はっ!」


 百足衆が信玄に状況を知らせる。

 武田軍は防戦の構えを見せる。

 別動隊が加われば数で上回れるのだ。


 ……逆に言えば今は数で負けている。

 辛抱の時だった。


 越後勢の先陣は、まず甲軍右翼に攻めかかった。




「放てぇ!」


――ダダダーン!


 甲軍右翼は新兵器の鉄砲を繰り出し、敵兵を牽制する。

 しかし、霧が濃くあまり効果がない。



「怯むなぁ! 切り崩せぇ!」


 越軍の先陣は柿崎景家。

 越後にその名が通った猛将だった。

 甲軍の右翼めがけて、郎党と足軽を引き連れた騎馬武者が突進する。



「槍隊前ぇ! 退るなぁ!」


 これに対し、甲軍は長柄兵を並べるが、勢いに負け、劣勢が否めなかった。




「御屋形様! 右翼諸隊より、御援軍を乞うとのことです!」

「……ぬぅ」


 信玄のもとへ救援を求める知らせが、次々に届く。



 ……しかし、このころには、中央も左翼も越軍に攻めかかられていたのだ。

 全戦線で必死の防衛戦だったのである。


 ……余裕はないが、このままでは右翼が突破され、敵に背後に回られるやもしれぬ。



「やむを得ぬ、後備えの信廉隊を右翼へ回せ!」

「はっ!」


 ……信玄は思案の末、虎の子の予備を右翼に回すことに決めた。




☆★☆★☆


「敵は右翼に予備をいれたぞ!」

「いまこそ中央を突け!」


 この甲軍の右翼援護をみた越後勢は、一気に中央の攻勢を強める。



「敵、後備えの直江隊、こちらの前備えに突っ込んでまいります!」

「……!?」


 敵は全力で中央突破を試みてきたのだ。

 ……しかし、対する信玄にもう余力はない。



「私が行って参りましょう!」

「うむ!」


 ……まだ勘助が傍にいたのだ。



 本陣の警備としてあった兵50名を引き連れ、勘助が前備えの応援に行く。

 こうして、信玄の周りにはたった6名の警護の者しかいなくなったのだ……。


 まさに総力を挙げた死闘であった……。

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