――明け方、徐々に霧も晴れてくるころ。
越後勢が一丸火の玉となって攻勢をかけてきた。
「越軍一千、我が方の右翼に攻めかかっております!」
「うむ! 各隊、別動隊が駆け付けるまで、持ちこたえよと伝えよ!」
「はっ!」
百足衆が信玄に状況を知らせる。
武田軍は防戦の構えを見せる。
別動隊が加われば数で上回れるのだ。
……逆に言えば今は数で負けている。
辛抱の時だった。
越後勢の先陣は、まず甲軍右翼に攻めかかった。
「放てぇ!」
――ダダダーン!
甲軍右翼は新兵器の鉄砲を繰り出し、敵兵を牽制する。
しかし、霧が濃くあまり効果がない。
「怯むなぁ! 切り崩せぇ!」
越軍の先陣は柿崎景家。
越後にその名が通った猛将だった。
甲軍の右翼めがけて、郎党と足軽を引き連れた騎馬武者が突進する。
「槍隊前ぇ! 退るなぁ!」
これに対し、甲軍は長柄兵を並べるが、勢いに負け、劣勢が否めなかった。
「御屋形様! 右翼諸隊より、御援軍を乞うとのことです!」
「……ぬぅ」
信玄のもとへ救援を求める知らせが、次々に届く。
……しかし、このころには、中央も左翼も越軍に攻めかかられていたのだ。
全戦線で必死の防衛戦だったのである。
……余裕はないが、このままでは右翼が突破され、敵に背後に回られるやもしれぬ。
「やむを得ぬ、後備えの信廉隊を右翼へ回せ!」
「はっ!」
……信玄は思案の末、虎の子の予備を右翼に回すことに決めた。
☆★☆★☆
「敵は右翼に予備をいれたぞ!」
「いまこそ中央を突け!」
この甲軍の右翼援護をみた越後勢は、一気に中央の攻勢を強める。
「敵、後備えの直江隊、こちらの前備えに突っ込んでまいります!」
「……!?」
敵は全力で中央突破を試みてきたのだ。
……しかし、対する信玄にもう余力はない。
「私が行って参りましょう!」
「うむ!」
……まだ勘助が傍にいたのだ。
本陣の警備としてあった兵50名を引き連れ、勘助が前備えの応援に行く。
こうして、信玄の周りにはたった6名の警護の者しかいなくなったのだ……。
まさに総力を挙げた死闘であった……。
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