順調だと思っていたおれたちの活動が「おかしい」と気づいたのはそれから2週間後のことだった。
大雨が降っていたのをよく覚えている。
秋に変わるにはまだ早い肌寒さに、終わる様子を見せない雨。
雨は嫌いではないけど、この日は湿度が高くて不快感しかなくて。
恨めしく部室の窓から空を見上げていたときだった。
「あっれぇ……また減ったな」
デスクでキョージンの独り言が聞こえた。
PC画面を覗き見ると、右肩下がりの折れ線グラフが出ている。
「登録者数の推移? 最近不安定よね」
廊下側のソファ席で本を読んでいた拝慈が顔を上げた。
「それに最近、またアンチがわいてるわ」
「僕じゃないからね!?」
拝慈の向いに座っていた佐々崎が慌てて、おれとキョージンへと振り返る。
そうだな。もしおまえがアンチやってたら次こそは血祭りだもんな。
「それ、なにか影響あるのか?」
キョージンに尋ねると、わざわざ振り返って睨んできた。
「むっちゃあるわ! ようやく登録者数が6000超えてたんだよ。この調子なら9月末までになんとかギリギリ1万いけると思ったのに……このままだと怪しいぞ」
キョージンはイラつきながら、最新動画のコメントをチェックしている。
「やっぱおれのモーニングルーティーンのせいじゃん」
「……」
「いや、そこ黙るなよ。シンプルに傷つくんだけど」
「……」
気の毒そうな目もやめろ。
「いをりくんが悪いわけじゃないと思うわ。だって、個人SNSの方はうまくいってるのよ。今朝はBBDのフォロワーも2724人だったし」
数字の把握、細かいな……。
拝慈が言うように、SNSの運営は調子がいいらしい。
なぜならおれは関わっていないから。
おれのSNSセンスがなさすぎたために営業妨害という意見が出て、催眠術師用の新アカウントを開設することになった。
運営は明夢と拝慈が担当している。
「神のSNS、自撮りが下手でかわいいって、微妙にバズってるよぉ〜」
「は、自撮……り? え、一体なに載せてるの……」
サラッと身に覚えのない怖いこと言われたんですが……?
「それよりおまえら、登録者を減らさないためになんかアイディアねーの?」
キョージンがPCを見つめたまま声を荒げる。
余裕のない声に、空気が一瞬でピリついた。
「ねえキョージンー、もしかして、あるとき一気に登録者数増えたりしたぁ?」
ソファの肘掛けに悠々とあごを乗せながら、動画経験者の佐々崎が言った。
キョージンは手を止め、背もたれに身を預け考える素振りを見せる。
「……そういえば、急にドカッと増えたんだよな。割と最近」
「んじゃ、もしかしたらそのときにどっかに晒されたのかもよ? ばんちゃんが数字見てるはずなのに、なにも連絡なかったの〜? 僕聞いてみよっか?」
スマホを触り始めた佐々崎が、すぐに顔をしかめる。
「あれ。3日前にばんちゃんからURLだけのメッセ来てたの今気づいた。てへ」
「うおい! で、なんだって?」
「アイチューブだー。って、えぇ……」
佐々崎が真剣な顔で、開いた動画のタイトルを大声で読み上げた。
「【淫猥】高校生占い師・夢斗の二番煎じチャンネルを神多剛鬼の息子が開設【エロ目確定】」
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