1日で催眠術師になったのですが ヤラセじゃないかまだ疑っています

催眠術なんてあるわけない!のに、なんでみんなかかってるんだよ…(困惑)
アサミカナエ
アサミカナエ

最終話・2

公開日時: 2021年6月29日(火) 12:07
文字数:1,982

 一ノ瀬先生と合流してから中に入り、受付をすませると、関係者通路を通って教えてもらった控え室へと向かった。

 関係者通路ではインカムをつけた人、スーツを着た人、髪の毛の色がピンクの職業が謎な人……など、いろいろな大人たちとすれ違う。大々的なイベントに出るというのが急にリアルに感じて、身が引き締まった。


 控室は学校の教室よりも少し広めだった。

 会議室のように長机が何列も並び、すでに会場入りしていたアイチューバーの5組ほどが支度をしていた。



「あ、やほぴよー! みんなこっちー!」



 奥のテーブルから金髪ロングヘアの女の子が手を振ってきた。

 少女の着ている純白のミニドレスは、今日、明夢が着ているドレスに似てレースが多めなデザインだけど、誰だあれ。明夢の知り合いか……?



「さざききちゃん! ロリータ似合ってる〜!」



 明夢が女の子に駆け寄って行った。

 あー、メイクがバッチリで気づかなかった。そういうことか……。



「そっか、今日はそっちなのか」


「当たり前じゃん! ワンピースは明夢ちゃんに借りたんだ。これ何かわかる? クソニブの神・多・く・ん?」


「……ウェディングのやつ」


「あれ? なんだ知ってたんだー」



 つか、口悪くない? 正解してもうれしくないし……。なにこいつ。



「わぁ、女の子たちみんなすっごくかわいいよ! あ、日葉ちゃんリップ落ちてるかも?」


「え、うそ! やだぁー」


「薬用の色付きリップじゃん、そりゃ落ちるよ! ほら、ティント貸してあげる〜。この色とか今日のドレスに似合いそうだよ。あ、上からブルーのラメとか塗っていい?」


「ひいぃ、かたじけの〜」



 さっさと女子の輪の中に入っていく佐々崎の違和感のなさだよ。あれは素直に感心するわ……。

 にぎやかな女子(+佐々崎)たちと少し離れたテーブルの端っこで、山下先輩がポータブルゲームをしているのを見つけた。

 佐々崎と一緒に来たけど手持ち無沙汰ってところだろう。軽く手をあげてお互いに挨拶を交わす。

 キョージンとアイコンタクトを取る。

 おれたちの居場所が決まった。

 男は華やかな場では、肩身が狭いものなのだ。



「は〜。グランプリは誰かな〜、ドキドキする〜」



 パイプ椅子で足をぶらつかせながら、明夢が楽しそうに言った。



「パリピッピじゃないかな? あの子たち今かなり人気があるしぃ」



 結局、日葉のメイクを全部直しながら、佐々崎が視線を部屋の中央へと向けた。テーブルを広く使って大声ではしゃぐ、男女女の3人組がいる。

 パリピッピとは、陰キャ3人が大食いしたり、ドッキリ企画をしたり、レジャーに出かけたりして、男女仲良しリア充体験をしてみるチャンネルらしい。

 結成3年目という彼らは、普通に見た目もきれいだし態度もデカい。完全に陰キャのコンセプトは死んでいた。



「でもね、グランプリじゃなくても、審査員の有名アイチューバーがコラボしたい人を選ぶコラボ賞もあるから、僕たちはそっちを狙おうね☆ はい、完成だよ日葉ちゃん!」



 佐々崎に鏡を渡された日葉は奇声を上げると、夢中で自分の姿に見入っていた。おれ的にはどこが変わったのか全然わからん……。



「始める前から志が低いな、おまえ」


「は? ケンジツなだけだけど? キョージンは夢見がちすぎるんだよっ!」


「それで結果出してるからいいだろうがよ!?」



 キョージンと佐々崎のバトルがまた勃発したし……。こいつら一生相性悪いな……。

 メイクが終わって暇になったのか、日葉が控室をきょろきょろと見回していた。



「誰か探してるのか?」


「あ、うん。占い師の夢斗も来てるのかな? 高校生だよね、会ってみたいなーと思って!」


「夢斗さんなら、審査員で出るってパンフレットに書いてあったわ。審査員室は別じゃない?」


「えっ、そーいう感じなの? 残念ー」



 日葉は、拝慈から渡されたパンフレットをつまらなさそうに眺めた。



「彼の登録者数は100万人でダントツですから。優勝候補のパリピッピでも40万人ですから、雲の上の人ですよええ」



 そう早口で言って、山下先輩が眼鏡を光らせる。


 高校生占い師アイチューバー・夢斗……。

 思えばここから始まったんだよな。

 夢斗と同じようなチャンネルを作って有名になって、金稼いでみんなでハワイに行こうっていうノリが楽しくて。共通点もない他人だったおれたちが、ひとつの場所に集まった。



「それより、やらないかのみなさんは、フリータイムに何するか考えました?」



 山下先輩が、おれとキョージンに尋ねてきた。

 今日はただ入賞者の発表をするだけじゃない。前にひと組ずつフリータイムがあり、チャンネルの宣伝ができるようになっている。

 今日のイベントはすべてネットで生配信されるため、いろいろなアイチューブユーザーに見てもらえるのだから、各グループ気合いが入っている。



「ああ、もちろん! うちの得意なやつだよなー!」



 キョージンがおれの背中をどんと叩く。

 おれはテーブルで頭を打たないように、踏みとどまった。

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