1日で催眠術師になったのですが ヤラセじゃないかまだ疑っています

催眠術なんてあるわけない!のに、なんでみんなかかってるんだよ…(困惑)
アサミカナエ
アサミカナエ

18話・風評被害はとまらない

公開日時: 2021年5月17日(月) 11:11
文字数:2,545


イメージ:京村 行人きょうむら ゆきと

イラスト:あままつさま

 ど、どうも。

 催眠術師の#モーニングルーティーン、です……。


 7時にスマホのアラームを、布団の中から手だけ伸ばして引きずり込んで止めている。こうやって見ると恐怖なヅラだな……。

 それから下に降りて洗面台をのぞくと、まあこの時間ならたいがい兄貴とバッティングする。

 色気づいてるのか知らないけど、兄貴長いんだよな……。

 はあ。

 んでおれは諦めて、リビングに行く。



「おはよう、いをり」


「うん。おはよ」



 あぁ、その辺で声がするのは父な。

 事務所に入ってるから顔は撮ってないよ。

 写さないって言ったんだけど、父っぽいことをしたいって駄々をこねて声だけ出るって……。

 なんか面倒でごめん……。

 そしておれはキッチンへ。



「いをり、また?」


「誰かが長くて洗面台使えないんだよ……」



 ここでキッチンに頭を突っ込み、顔を洗う。

 一緒に歯磨きもして、頭も濡らしておく。



「朝ごはんあるから、食べなさいね」


「ありがと……」



 声は母。

 母も化粧ができていないから顔出しNGってことで……。

 え、別にいいだろ。家族のことは深堀りしなくても。


 自分の分の皿を受け取って、ダイニングテーブルについたとこ。

 いつもテレビのニュース番組を見ながら朝飯食ってる。

 向かいで新聞を読んでいるのが父で、あれがもう少ししたら話しかけてくるから。



「なあ、いをり」


「うん」



 ん? 剛鬼ごうきとも話すけど。

 別に、普通に親子の会話ぐらいする。



「1から4の数字の中で、好きな数字をどれか思い浮かべてごらん、当てようか」



 この人、そういうのが好きなんだよ。

 数字クイズって知ってるか?

 これは多くの人が直観的に3を選ぶという心理学が絡む。

 セオリー的には「3」が出題側の答えだ。



「考えるのもいいが、ゆっくりしすぎて遅刻しないようにな?」



 ……思考の邪魔をするんだよ、こうやって。

 長く考えるほど3である確率が下がるからな。

 おれはこのとき、裏の裏をかいて3にしていた。

 ここまで考えて、わざわざ3を選ぶとは思わないだろう。


 今新聞が動いたけど、これ、新聞の上から父が顔出したところ。



「……困っているならもっとハンデをあげようか? 1〜9の中で選んでいいぞ」


「……え」


「さっきと同じ数字でもいいし、もっと大きい数字に変えてもいい。さあこれなら1/9の確率だな?」



 急に変えられたんだけど、どういう意図なんだろう。

 しかもこのとき、大層余裕ぶった顔をしていたんだよ……。

 うわ、おれ絶妙に不機嫌そうな顔してる……いいよ、ここは写さなくて。


 さてと。

 数字を9まで選ぶとなると、話は変わってくる。

 ちなみに人は無意識に7を選びやすいと聞いたことがあったんだ。

 1/9の確率なら、危険な7はそもそも避けておこう。

 で、おれはここで5を選ぶことにした。



「……決めたよ」


「さて、ではその数字は?」


「5……」


「そうか。じゃあおまえの後ろを見てみなさい」



 ……これが、おれのブラフだった。



「と思ったけど、やっぱ1に変えたー」



 勝った。

 おれは確信して素早く振り向いたんだ。



「最近、催眠術をやっているそうだな。まあなんでも経験してみるのは大事だ。がんばりなさい」



 父が新聞を折って立ち上がり、そのあとに兄貴が座った。

 兄貴はおれが背中を向けていることが不思議だったんだろうな。



「なにやってんのおまえ。急いでるんじゃなかったの?」


「……なあ、お兄。これどういうトリックだ?」


「ん? あはは。また父さんにやられたのか」



 ……なにがそんなに楽しいんだ。

 おれの後ろのチェストの上にあった鏡の面には、なぜかマジックで「1」と書かれていたんだよなぁ……怖い怖い。




……


…………


………………




「……で。#モーニーングルーティーンってなんだよ。男の朝の様子なんて誰が見るんだ……」



 アテレコ用のマイクをオフにして、じろりとソファ周りに集まった部活メンバーの顔を見渡した。



「はっあ〜? “普通の親子の会話くらいする……キリッ”じゃないからね!? 一般のご家庭では朝から心理戦なんてし・な・い・か・ら! 朝は頭起きてなくてだいたいアホみたいな顔してアホみたいなことしか言わないからぁー! あっ、でも僕は朝から超絶かわいいけどね☆」



 隣に座った佐々崎が、勝ちほこったようにアピールしてくる。

 かわいさは別に譲るから、離れてくれ暑苦しい……。



「ぶふっ! いやぁ、ウケんだけどかんちゃん。これ普通にコンテンツになるわー。またよろしくな!」



 キョージンはそう言って、ローテーブル上のパソコンを自分の方に向けてまた再生し始めた。ほかのみんなも席を移動してその周りを囲む。まだ見るんかい。

 もう二度とこんな撮影は嫌だ……。

 動画を見ながら、キョージンの真後ろにいた明夢が不思議そうに首をかしげた。



「でもお父さん、なんで神の考えた数字がわかったんだろうねぇ〜?」


「知らん……。でもあいつインチキだから、絶対になにか仕込んでるはず」


「いをりくんのお宅って、とてもご立派なのね……」



 なに関係ないところ見てんだよ、拝慈。それ普通に恥ずかしいんだけど。



「それにお兄様のこと、おにいって呼んでるのね。萌え……」



 だから、そういうとこ見る必要なくない!?

 見られるほどボロが出そうな気がして、変な汗が出てきた……。

 げ。日葉もソファの後ろから身を乗り出してるし。やめて?



「んー? 久々にかほるくん見られるかと思ったけど、顔写ってなーい! 高校生になってから遊ばなくなっちゃったんだよねぇ。今どこの高校だっけー?」



 日葉の呼び方で距離感はお察しのうちの兄……。

 小中は一緒だったし、日葉とも仲が良かった。

 ……けどちょっとムカつくので。



「もうおれのはいいよ、次は誰?」


「え? ないよ?」


「なんで? 出演組の課題、だったろ」



 嫌な予感でおれの声は意図せず震えていた。

 日葉がやばいという顔をする。



「だって、そうでも言わないといをりくん撮らない……って、キョーくんが言ってた!!」


「あっ、にっちゃん汚ねっ!」



 指をさされたキョージンは、ささっとデスクへと逃げた。



「……たばかったな……」


「あはは。神、真面目だよねぇ〜♡」



 明夢にも言われるとかすげーへこむし、隣で爆笑している佐々崎うざい。

 ……おれの代わりにデータを消してくれ……と頼みの綱である拝慈にアイコンタクトを送るが、パソコンに顔を近づけて一心不乱に動画を見ていて、気づくよしもなかった……。なんとなくわかってた……。

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