半径80メートルを一瞬で焼き尽くすという『暴走』は、銀環をつけないバスクの激しい興奮や疲弊で引き起こされるものだ。
話には聞いているが、美弦はその瞬間を実際に目にした事はなかった。
光を伴う強い衝撃は、巨大な爆弾を投下されたような物だろうか。
『暴走の可能性あり』
彰人からのメールで告げられたその言葉に戦慄して、美弦は戦闘真っ只中の廃墟を見上げた。さっきまでズンと地面を震わせていた音が今は止んでいる。
「来るかぁ?」と曳地が何故かテンションを上げて、久志は「急ぎますよ」とフィールドの外へ促す。
「美弦ちゃん、テントまで下がるよ」
「はい、久志さん!」
『大晦日の白雪』で焼かれたのは半径80メートルで、その数字を暴走の基準として話をする事が多い。だから忍の居る廃墟から100メートル離れた今の場所に居ることで油断していた。
データなど過去の記録に過ぎない。
言われるままに二人を追い掛けて境界線の外へ出ると、長官を含めたテント内の施設員は駅の方角へ避難していた。テントは空に近い状態で、制服姿の颯太がベッドに横になる施設員に寄り添っている。
「一応出てってもらったけど、ここまでは来ねぇと思うよ」
「多分だけどな」
曳地が入口を振り返ってニヤリと笑う。
美弦は少し余裕そうな空気にホッとして、一度外へ出た。
観覧車の明かりはまだ点いている。距離が荒を隠しているせいで、綺麗だなと思えてしまう。
中で誰かが戦っているのは分かるが、どんな状態だろうか。
もう少し、もう少しと逸る気持ちに足が境界線を跨いだ。
「そのくらいにしておいた方が良いよ」
背後から久志に注意された時、既に10メートルほど中に入り込んでいた。
「すみません」と振り向いた時が、その瞬間だった。
背中に強い光が襲って、昼の色を見せた風景が全て白に塗り替えられる。
「美弦ちゃん!」
久志の声が耳に届くが、姿は見えない。
沸き上がった気配の量も強さも今まで感じた事のない量で、恐怖に身体が動かなかった。
想像と全然違う。これは爆発などという簡単な言葉では済ませられない。
すぐ側に誰かの気配が迫って、美弦は咄嗟に手を伸ばした。空中を搔いた掌が誰かの手を掴んで、引かれるままに足を動かす。
相手は久志だと思っていた。
なのにすぐに解けた白い闇は、思わぬ人物を美弦に見せつける。
「どうしてアンタがいるのよ……」
「心配だったんだよ」
病院に居た筈の修司が、「間に合ったぁ」と安堵した。
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