つい数時間前まで戦闘音と光に溢れていた廃墟周りの戦場は、全てが息絶えてしまったかのように静かな闇に包まれていた。
観覧車は相変わらず不自然に光を灯し、数台のゴンドラが戦闘の衝撃で下に落ちている。
曳地と久志、マサと朱羽の二組がそれぞれに辺りの捜索へ散っていた。アルガスの施設員にも何人か負傷者が出ていて、颯太と銀次はテントでの対応に追われている。元々トールの颯太に薬の影響が出るのかと心配したが、思ったほどの症状はないらしい。
忍の姿も見付けることが出来ず、京子は近くに居た桃也達と合流した。
「これでアルガスが勝利したわけじゃねぇよな?」
ぽっかりと空いたフィールドの真ん中で、桃也が病院から戻ったばかりの彰人を相手に両腕を組みながら唸る。
「敵の大将の首を取るまでは油断できないよ」
「まさか朝まで隠れてるんじゃねぇだろうな」
「それもあり得るだろうけど、たとえ最小限の範囲で空間隔離を張ったとしても、耐久時間に限度はあるよね」
「だよな」
桃也と忍は境界線の外には出られないルールだ。アルガスの勝利条件は、忍の死か降参だ。朝7時を迎えると引き分けになってしまう。
「タイムリミットを過ぎての休戦は避けたいよね」
彰人が風の音に耳を澄ませて辺りを見渡す。荒れた廃墟は最初ここへ来た時に見た原形を留めてはおらず、京子たちの足元も戦いの衝撃で土がボコボコと盛り上がっていた。
そんな時ふと3人のスマホが同時に震える。
一通のメールが伝えたのは、アルガス本部での松本の死だ。
「松本さん……? 本部に行ってたの?」
綾斗との戦いの後から姿が見えなかったが、外へ出ていたというのか。
「元々薬の影響で弱ってたみたいだし、あの戦闘で限界がきたのかも」
「そう言う事なのかな。けど、向こうに美弦が居てくれて良かっ……あれ?」
メールに一通り目を通した所で、京子は末尾に添えられていた被害報告の欄に眉を顰めた。
敵の数が『1』というのは松本の事だろうが、何故かキーダーの数が『4』になっているのだ。
「4人も本部にいたの?」
「一人は大舎卿だろうな。暫くこっちで見てないだろう? 平野さんも応援に来て貰ってる筈だぜ」
「平野さんか。それと爺に美弦……あと1人は誰かが他支部から応援に来てくれてるのかな?」
「…………」
珍しく怪訝な顔を見せる彰人とは対照的に、桃也は「後で聞けばいいだろ」と特に気にもしていない様子だ。
「僕の考え過ぎってだけなら良いんだけど」
彰人は納得のいかない様子で「まさかね」と呟いた。
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