スラッシュ/

キーダー(能力者)田母神京子の選択
栗栖蛍
栗栖蛍

240 先に行く4人

公開日時: 2024年7月12日(金) 08:37
文字数:1,500

 ホルスから宣戦布告のFAXが届いた日の夕方、桃也とうや久志ひさしを連れてヘリコプターで本部に帰還した。あまり見ない組み合わせだ。

 一報を受けた時、既に帰国していた桃也は北陸に居たらしい。戦いへ向けて技術部との申し合わせをする為だ。参戦を表明しているマサは、ギリギリまで向こうに居るという。

 来て早々にデスクルームに集まったが、桃也は挨拶も早々に済ませ他の用事で出て行ってしまった。


「とりあえずこれで行こうと思うから、読んでおいて下さい」


 そんな言葉とともに、丁寧に破かれた一枚のノートを置いていく。ヘリの中で書いたのか、走り書きのような字がびっしりと埋められていた。


「作戦メモ……?」


 側に居た修司しゅうじが紙を受け取って、読みにくい字を解読していく。

 横浜の戦いでは事前にホルスから連絡が来ていて、お互いに準備期間が設けられていた。アイドルグループ・ジャスティのプロデューサーである近藤武雄こんどうたけおを間に挟んでいた事もあり、何度か連絡も取り合った上での決行だった。

 しかし今回は向こうからの一方的なFAXのみで、日付以外の情報は何もない。7日は明後日だが、もし0時を指すなら明日の夜中という事になる。


 桃也の紙には、そんな予告への言及が書かれていた。


 もし直接本部へ急襲が仕掛けられたら、全力で迎撃する──それは納得できたが、そうではなかった場合を想定した彼の判断に戸惑ってしまう。

 先日の会議でも決まっていた事だが、戦闘が外になる場合、キーダーを数人本部へ残すという作戦だ。先発隊のメンバーが4人書かれていて、そこに京子の名前があった。



   ☆

 桃也の作戦メモに一通り目を通し、各々が訓練へ戻る。

 久志は作業が終わらないと言って、綾斗あやとを連れて本部にある技術部の部屋へ行っていた。


 京子は暫く動いた後、少し休憩をと壁際でスポーツドリンクをガブ飲みしながら、戻って来た大舎卿だいしゃきょうを「お疲れ様」と迎える。『好きなように戦う』と言った彼も、他のメンバーとの実戦を重ねていた。

 今、ホールの中央では修司と美弦みつるが本気の模擬バトルを繰り広げている。さっき大舎卿と戦って歯が立たなかった修司も、連戦の疲れなど見せずモチベーションを上げていた。


 そんな二人を見守りながら、京子は横でバスタオルを被る大舎卿にそっと胸の内を吐き出す。


「あの作戦で良いのかな?」

「さっきのか? 小僧が決めたんじゃろ? ワシらは従うだけじゃよ」

「まぁ、そうなんだけどね」

「誰が行っても戦える。ワシらはそれだけの訓練をしてきたんじゃろ? ただ、戦いは強さが全てじゃない。何がこうそうするかも分からんからの」

「みんな強くなったよね」

「お前はババアみたいな事言うようになったな」


 ほくそ笑む大舎卿に、京子は「やめて」と声を上ずらせる。ほんの数年前まで、ここは彼と二人きりだったのに、今はもう後輩だらけになっていた。


「仕方ないでしょ」

「まぁな。とりあえず今回の件は小僧が考えて出した答えじゃろ? 綾斗が入っていない事だって、納得してるんじゃろ?」

「……うん」

「導火線をぶら下げたアイツを先に消耗させる訳にはいかんからな」


 松本がどう出て来るかは不明だが、持久力のないバーサーカーはギリギリまで温存させておきたい。

 色々と頭を巡らせる京子に、大舎卿は「バレバレじゃよ」と笑った。だろうな、と自分でも分かっている。


「選ばれたメンバーの中に、小僧が入っているから嫌なんじゃろ?」

「──そうだよ」


 メンバーを見た瞬間、正直やり辛いと思ってしまった。

 本部の迎撃態勢は万全とまでは行かないまでも、きちんと準備してある。忍がアルガス奇襲を選べばいい──そんな事を考えてしまった。


 先発隊に選ばれたのは、京子に桃也、それに彰人あきひとと修司の4人だった。







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