丑三つ時を過ぎた病室に、窓を叩く風の音がうるさく響く。
律の所から戻って再びベッドへ横になってみたものの、眠れるわけはなかった。
少し前に一斉メールが入り、松本の死を知った。廃墟で戦っていた彼が、何故かアルガスの本部で息絶えたという。
身内の被害は書かれていないが、そこには美弦が居た筈だ。彼女は今どうしているのかと不安ばかりが募っていく。もしもを考えての待機が、実は最初から分かっていた未来なのではと勘繰ってしまう。
修司は再び立ち上げたメール画面の『4人』というキーダーの数を睨みつけた。
「何が起こってるんだよ」
スマホを握り締めたまま椅子でうとうとと眠る龍之介に気付かれないように、そっとベッドを下りた。
数歩先の窓際まで歩いて、高層からの景色に目を凝らす。視界を遮るものはあまりないが、生憎海とは逆側で、すぐ近くに『大晦日の白雪』の慰霊塔が見えた。
窓は施錠されており、開ける事は出来ない。
それでも遠くで起きている戦いの気配を感じる気がしてしまうのは、気持ちが急いているからだろうか。
ここを抜け出して再び倒れるような失態はできないが、朝になって結末だけ聞かされる終わり方など耐えられそうにない。
「美弦──」
せめて本部に行って彼女の顔を見たいと思ってしまう。
飛び出したい衝動のまま入口まで歩いて、龍之介を振り返る。彼に見張りを頼んだのは颯太だ。颯太のがっかりする顔を浮かべると、ドアノブを掴みかけた手が下へ落ちた。
それでもじっとしていられずに部屋をウロウロと彷徨った所で、横から大きなため息が聞こえてきた。
いつから起きていたのだろうか。
「どうしてそう往生際が悪いんですか」
「本部で戦闘があったらしいんだ。美弦の事が気になるんだよ。別に廃墟へ行こうとしてる訳じゃないんだぜ? 頭打ったのも、もう平気だし」
「俺は、修司さんをここに留めなきゃならないんです」
龍之介は椅子から立ち上がり、ムッスリと修司を睨みつけた。
「今がどういう状況か分かってますか? 彰人さんにだってまだ早いって言われてたじゃないですか」
「まぁ、そうなんだけど……」
「大体、今の自分の恰好がちゃんと理解できてない位に冷静じゃないって事ですよ」
言われて初めて病院の寝間着姿だという事に気付く。病室の温かさで気にならなかったが、外はだいぶ冷え込んでいるだろう。
土まみれの制服は、壁のハンガーに掛かっている。
「着替えたら行かせてくれる?」
「俺は行って欲しくないです。頭を打った影響だってない訳じゃない」
強めに言って、龍之介は「けど」と躊躇いながら肩を落とした。太眉をぐっと眉間に寄せたまま距離を詰めて、思わぬことを口にする。
「修司さんが抜け出すのなんて、颯太さんにはお見通しなんですよ。もし三時過ぎて動けるようなら、外へ出しても構わないって言われてます」
「まじか」
「それに美弦さんは本部じゃありません。廃墟へ向かっているそうですよ」
右手に掴んでいたスマホの画面を見せつけて、龍之介が溜息を零した。
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