「アンタはあの人とは違うでしょう? あの人は死ぬ気ですよ」
平気そうに見えるが、松本の身体はもう長くはもたないだろう。
目の前で起きている戦いは、それでも進もうとする松本と、それでも止めなければならないキーダーの葛藤だ。
「私はキーダーだもの、死ぬ覚悟はできてるつもりよ。けど、今はまだ死ねないわ」
本心のまま呟く美弦に、田中は「はい」と頷いた。
隕石落下から日本を救った大舎卿、アルガスを襲撃した浩一郎、そしてバスク上がりの平野が三人がかりで戦う相手は、元キーダーでホルスの松本秀信だ。
平野の横から跳び上がった大舎卿がぐるりと回した趙馬刀を派手に振り下ろすが、一度目は弾かれた。
二度三度とスピードを上げて繰り返すと、今度は刃の動きを片手で阻止される。
趙馬刀はアルガスの技術部が作った武器で、能力で刃を生成する柄だ。
抜き取られた趙馬刀が大舎卿の手を離れて一瞬刃を失うが、瞬く間に松本の力で白い光を灯す。
「懐かしい感覚だな」
松本は満足そうに刃を眺め、しかしそれを遠くへ投げ捨てた。
「使わないのか?」
「刀で戦うのは苦手でね」
「なら別の方法で終わらせてやるぜ」
次の攻撃をしようとした大舎卿の前に出て、平野が光を放つ。小ぶりでバレーボールほどの大きさは、速さを重視して松本を狙った。
「怪我した俺が逃げられないと思うか? たかが知れた威力で粋がるなよ」
松本は素早く広げた両腕で軽く光を受け止めるが、平野は手放しの状態でそこに力を込める。
気力と能力で押さえつけていた傷がミリと開いて、松本は「くそ」と痛みに表情を歪ませた。
渾身の力で跳ね退けた光は、反動で大きく頭上へと軌道を変える。
装甲に包まれたアルガスの壁を駆け上がる速さは、キーダーの念動力が追い付かない程だ。屋上までの距離があまりにも短く感じた。
「よけろよ」と平野が叫ぶ。
その瞬間、光の進む先に黒い影を見つけて、美弦はハッと息を飲んだ。予想もしなかった男がそこに居たからだ。
「駄目だ、宇波さん!!」
アルガス長官・宇波誠の姿をそこに見つけて、松本が悲鳴に近い声を上げながらキーダーの制止を振り切って壁へと飛び上がった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!