煌々とヘッドライトを照らす大型のバイクが、護兵のいる正門をするりと通り抜けてアルガスの敷地内へ入って来る。
屋上まで届くエンジン音に眉を顰め、美弦は搭乗する二人に目を凝らした。
横で銃を構えようとする護兵に「大丈夫」と手を伸ばしたのは、ひょいと飛び降りた後部座席の男がヘルメットを外したからだ。
「私、ちょっと下に行ってきます」
そう言って外階段へ走ると、背後で施設員たちが「大舎卿だ」と驚く声が聞こえてくる。大舎卿は京子たち先発組に続いて海の向こうの廃墟で戦っている筈だが、何か異常事態でも起きたのだろうか。
戦いの決着は桃也か忍の死、もしくは朝までのタイムリミットだというが、もし今そんな事になっていれば先に情報が入って来るだろう。
「大舎卿、お疲れ様です」
階段を駆け下りて壁伝いに正面へまわると、建物に入る手前の彼に追い付いた。制服姿の大舎卿は特段乱れた様子もなく、清々しい顔で「おぅ」と答える。
「こっちは何もないか?」
「はい、特に問題ありません。向こうはどうですか?」
「まだ戦っておる。やられたりはせんよ」
「なら、良いんですけど……」
美弦はそっと胸を抑えた。
大舎卿が来たことは100人力だと思えるのに、どこか不安を覚えてしまう。
「向こうは他の奴に任せて、お前は自分の仕事をしろ」
「はい」
大舎卿は装甲モードの本部を見上げた。
いつしかバイクの光は消えていて、闇の奥を黒いシルエットが駐輪場へ移動していくのが分かった。
大舎卿は改めて「美弦」と振り返る。
「もし何か起きたら、わしが戻るまで持たせてくれるな?」
「はい、勿論です。その為にここへ待機してるつもりですから」
「頼もしいな。まぁ何もない事を祈っておるが」
何かが起きる未来を見据えて、彼はここに戻ってきたのだろうか。
大舎卿は静かに笑んで、正門を一瞥する。黙った横顔が良くない相手を待ち構えているように見えた。
「大舎卿……?」
その意味を尋ねようと思ったが、大舎卿は「頼むぞ」と言い置いて、そのまま建物の中へと入って行く。
バイクの男は何か知っているのだろうか。
何か聞き出せたらと思って近付いて、美弦は駐輪場の手前で足を止めた。正門の方向に大舎卿とは別の巨大な気配が立ち上ったからだ。
ハッとして振り返ると、入口に立つ護兵の二人が音もなく傾いでいくのが見えた。
抵抗もないまま、二人は重なるように地面へ崩れる。
側に立つ黒い影に、美弦は息を飲んだ。
只事ではない──建物のライトに入り込んだ相手の顔が見えて、戦慄する。
幾度となく資料を読んで、頭に叩き込んだ顔だ。
髪の長い初老の男──
「松本さん……」
泣きボクロのある目がそっと美弦を捕らえた。
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