吸い込んだという表現が正しいかどうかは分からない。
隔離壁を盾に見立て、綾斗は松本の放った光を防ぐ。
どちらもバーサーカーとして90パーセント以上の出力だ。暴走が起きる一歩手前、絶妙なバランスで均衡を保った力は、どちらかが気を緩めれば一瞬で大爆発を起こすだろう。
「別にこんな廃墟が無くなっても問題ないだろう?」
「廃墟だけで済む保証なんてどこにあるんですか!」
二つの力がわんわんと音を立てて、波のようにしなっている。松本の威力が徐々に増し、綾斗もそれに合わせて出力を上げた。
このまま耐久レースを続けても、共倒れするだけだ。
残りの力を出し切るチャンスは一回しかない。そこに全てを掛けることが出来れば勝利が見える。
素早く頭でシミュレーションするが、先に攻撃を仕掛けたのは松本だった。
彼の手を離れた光が、ドンと隔離壁にめり込んだ。
松本が地面を蹴り、衝撃を堪える綾斗の懐に飛び込む。振り上げた脚が、今度は綾斗を光ごと宙へ放り投げた。
受け身を取るのに一瞬遅れて、綾斗は空中で「くそ」と無我夢中で軌道を変える。
「綾斗!」
どこからか京子の声が聞こえた気がしたが、確認する暇はなかった。
着地の衝撃に隔離壁がパンと霧散し、光が枷を失って後方にある廃墟へと突っ込んでいく。耳を刺す轟音が地面を揺らし、建物の右半分が粉々になって地面へと沈んだ。
松本の出力を半分以上吸収したつもりだが、それでもダメージは大きい。
辺りに立ち上った砂煙の向こうに海の闇が露出して、綾斗は息を飲む。口の中に血の味が広がって、蹴られた腹がズキリと痛んだ。
けれど、まだ戦えるだけの意識は残っている。
能力に頼り切っている訳ではないが、足技に足技で返す義理もない。
綾斗は腰にある京子の趙馬刀に刃を付けた。趙馬刀の刃は、使う能力者の力に比例する。
いつもの倍以上の長さに伸びる光を構えて、砂靄の奥に隠れる松本に挑んだ。
切っ先が相手の胸部を捕らえるが、松本もまた防御を取ったのは確かだ。
これ以下もこれ以上もない。
全てを込めた一発に視界が消え、暫くの間闇を映す。
ようやく晴れた視界に、松本の姿は残っていなかった。
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