ホルスの戦闘員といえば、大半はノーマルの人間だ。
律の元恋人である高橋がそうだったように、彼等は能力ではなく武器で戦う。
今回の薬の件があったせいで、彼等の存在が頭からすっぽり抜けてしまっていた。
ドンと響いた銃声にハッとして、京子は続く攻撃を見張る。
「ホルスが増援をよこした……?」
敵の人数が減って来てどうなるかと思っていたが、このまま楽には終わらせて貰えないらしい。
どれだけの人数が雪崩れ込んで来るか予想もつかないが、相手が飛び道具を使ってくるのならば、ここからは集中力がものを言う。
「京子」
いつしかフィールドに入っていた朱羽が、余裕の顔で京子と背中を合わせた。
「やっぱり来てたんだ。久しぶりの戦闘はどう?」
「貴女に心配されるほど鈍っちゃいないわよ。去年だって戦ってるし」
銀次が薬を飲んで騒ぎを起こした時に朱羽はキーダーとして戦っているが、その後は元の事務所へ戻っていた。
「まぁそうなんだけど。朱羽ってアルガスに居ないのに、ちゃんと自主トレしてるよね」
「当たり前でしょ。それよりさっき、側でマサさんが戦ってたの。やっぱり素敵だなぁってドキドキしちゃった」
夢見がちな朱羽の声に、京子は「はぁ?」と背中を震わせた。
「こんな時に余裕すぎ。まだそのおかしなフィルター付いたままだったの?」
「フィルターなんて付いてない、正直な感想よ。それと私、今回の戦いが終わったら事務所を畳むつもりだから」
「本気で言ってる? 龍之介くんには言ってあるの?」
朱羽の覚悟に京子は目を見開く。マサとの関係をこじらせて早々に本部を去ったのは、まだ二人が高校1年生の頃だ。
「本気よ。龍之介にも話してあるわ。高校三年生の彼をここまで付き合わせちゃったんだし、ちゃんとけじめもつけなきゃと思って」
「龍之介くんは付き合ってるなんて思ってないよ? 朱羽と居たいから居たんでしょ? 前にアルガスで働きたいって言ってたし、彼なら問題ないんじゃない?」
朱羽の事務所のバイトとして入った龍之介だが、もう大分アルガスの事情通になっている。コネと言ってしまえば聞こえは悪いが、経験で言えば上も採用してくれるはずだ。
しかし朱羽は「駄目よ」とそれを否定する。
「ちゃんと大学で勉強して、実力で入って来て欲しいの」
「厳しいね──けど、朱羽は優しいのかな」
視界の隅に人影が動いた。
廃墟の裏に待機していたのか、建物の両端を回り込んで来る。
銃声が鳴り始め、目の前に飛んできた弾を京子は小さな光の盾で弾き飛ばした。
カンと高い音が響く。
「朱羽、死なないで」
「勿論よ。京子もね。そのネックレスが守ってくれるわ」
──『ルビーは勝利を呼ぶ石よ』
京子の首にぶら下がるネックレスは、誕生日に朱羽から貰ったものだ。
「勝利の石だもんね?」
朱羽は「そうよ」と乱れた髪を耳に掛ける。彼女は余裕だ。それだけの準備をしてきたらしい。
朱羽と同期だと呼び合える関係が嬉しくてたまらない。
京子は「ありがと」とそっと呟いた。
☆
ホルスの精鋭部隊との戦いが始まったフィールドの東の端で、彰人が彼女の行く手を阻む。
「律、会いたかったよ」
これが彼女との最後の戦いだ。
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