スラッシュ/

キーダー(能力者)田母神京子の選択
栗栖蛍
栗栖蛍

288 頼らざるを得ない相手

公開日時: 2024年10月16日(水) 09:20
文字数:1,008

 観覧車から見下ろす風景は、やたらに暗かった。


「まさかもう終わった……訳じゃないよね。これってまさか……」


 耳の詰まるような静けさは、身に覚えがある。

 もうとっくに外だとばかり思っていたが、まだ空間隔離くうかんかくりの中に居るのだろうか。


 ポケットのスマホも圏外だ。

 空間隔離が背景を取り込む習性から考えると、しのぶは観覧車に京子を閉じ込めた上で隔離壁かくりへきを生成し、自分だけ離脱したという事か。少なくともそれが継続されている以上、彼はどこかで高みの見物でもしているのだろう。


 桃也とうやが死ぬわけない。だから、きっと壁の外では戦闘が継続中だ。

 ゴンドラの壁に手をわせると、箱の輪郭りんかくに沿ってまくが張られているのが分かる。目に映る風景の全てが立体投影されたものなら、今外はどんな状況なのだろうか。


「早く出れると良いんだけど……」


 空間隔離の壁は、外からの衝撃に弱い。

 誰かが外からそれを破る事は可能だが、バラバラに動いている仲間が京子の不在に気付いて、この場所を特定するのは不可能に近いだろう。

 隔離壁を維持できるリミットを30分と考えれば、自然に解けるのを待つ方が賢明かもしれない。


 きっとそこで戦っているだろう仲間の姿を、京子は暗い闇に重ねた。


「私は無事だから、みんなも気を付けてね」


 京子は綾斗あやと趙馬刀ちょうばとうを胸に抱き締めて、少しの間目を閉じた。



   ☆

 その頃、境界線の外に張られたテントのすぐ側で、桃也が近くに来た彰人あきひとを手招いた。


「お前、ここしばらくの間、京子の事見たか?」

「京子ちゃん? 見てないけど?」

「だろ? 居ない気がすんだよな」

「心配性だとは言わないけど、これだけ人が多いと個別に探すのは厄介やっかいだね」


 朱羽あげはが戦闘に加わり、少しずつアルガスの戦力が増している。能力者の吐き出す気配は全面に広がり、ぐちゃぐちゃに混ざり合っている状態だ。

 彰人が「そうだな」と広いフィールドを見渡した。


「さっき一瞬、建物の方で強い気配がしたけど、空間隔離が発動したのなら僕たちで探すのは時間が掛かりすぎる。京子ちゃんなら無事だと思うけど、心配なら確実な線を優先させるべきじゃない?」

「確実?」

「専門家を呼ぶべきって事。そろそろだと思うよ」


 京子の気配に気付ける自信はあるのに、痕跡こんせきを掴むことが出来ないどころか、一番苦手な相手に頼らざるを得ない状況にイラついてしまう。


「くそぅ、俺がアイツを見つけられねぇのかよ」

「私情は挟まない!」


 小さく笑った彰人に「分かってるよ」と溜息を零し、桃也はスマホを取り出した。







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