観覧車から見下ろす風景は、やたらに暗かった。
「まさかもう終わった……訳じゃないよね。これってまさか……」
耳の詰まるような静けさは、身に覚えがある。
もうとっくに外だとばかり思っていたが、まだ空間隔離の中に居るのだろうか。
ポケットのスマホも圏外だ。
空間隔離が背景を取り込む習性から考えると、忍は観覧車に京子を閉じ込めた上で隔離壁を生成し、自分だけ離脱したという事か。少なくともそれが継続されている以上、彼はどこかで高みの見物でもしているのだろう。
桃也が死ぬわけない。だから、きっと壁の外では戦闘が継続中だ。
ゴンドラの壁に手を這わせると、箱の輪郭に沿って膜が張られているのが分かる。目に映る風景の全てが立体投影されたものなら、今外はどんな状況なのだろうか。
「早く出れると良いんだけど……」
空間隔離の壁は、外からの衝撃に弱い。
誰かが外からそれを破る事は可能だが、バラバラに動いている仲間が京子の不在に気付いて、この場所を特定するのは不可能に近いだろう。
隔離壁を維持できるリミットを30分と考えれば、自然に解けるのを待つ方が賢明かもしれない。
きっとそこで戦っているだろう仲間の姿を、京子は暗い闇に重ねた。
「私は無事だから、みんなも気を付けてね」
京子は綾斗の趙馬刀を胸に抱き締めて、少しの間目を閉じた。
☆
その頃、境界線の外に張られたテントのすぐ側で、桃也が近くに来た彰人を手招いた。
「お前、ここ暫くの間、京子の事見たか?」
「京子ちゃん? 見てないけど?」
「だろ? 居ない気がすんだよな」
「心配性だとは言わないけど、これだけ人が多いと個別に探すのは厄介だね」
朱羽が戦闘に加わり、少しずつアルガスの戦力が増している。能力者の吐き出す気配は全面に広がり、ぐちゃぐちゃに混ざり合っている状態だ。
彰人が「そうだな」と広いフィールドを見渡した。
「さっき一瞬、建物の方で強い気配がしたけど、空間隔離が発動したのなら僕たちで探すのは時間が掛かりすぎる。京子ちゃんなら無事だと思うけど、心配なら確実な線を優先させるべきじゃない?」
「確実?」
「専門家を呼ぶべきって事。そろそろだと思うよ」
京子の気配に気付ける自信はあるのに、痕跡を掴むことが出来ないどころか、一番苦手な相手に頼らざるを得ない状況にイラついてしまう。
「くそぅ、俺がアイツを見つけられねぇのかよ」
「私情は挟まない!」
小さく笑った彰人に「分かってるよ」と溜息を零し、桃也はスマホを取り出した。
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