金沢の中心部にある広い葬儀場で行われた式には、物々しい警備が敷かれていた。
各支部から集められた護兵の精鋭部隊だ。民間の施設であることに配慮した上でここまでの人員を裂くのは、やよいの死因が特定できないことに尽きる。
けれど心配したような騒動が起きる事もなく、通夜は滞りなく終わることができた。
アルガス代表で霊前に立ったのは長官の誠だ。
事件への怒りを込めた穏やかな口調が、会場の涙を誘う。
普段あまり話すこともなく悪いイメージが独り歩きしていたが、桃也の件以来京子はそのギャップに戸惑っていた。
告別式の弔辞も彼が読むらしい。
「長官ってアルガスの解放前はキーダーの世話役だったらしいよね。そのせいかな、何かちゃんとみんなに目を向けてくれてる気がする」
「京子さんが長官を褒めるなんて珍しいですね。昔のメンバーとは仲が良かったらしいですよ?」
確かに大舎卿が誠と世間話をしているのを見たことがある。
颯太や浩一郎に藤田……と、解放前のメンバーは何人か思い浮かぶが、彼等ともそんなに親しかったのだろうか。
「そういえば京子さん最近、長官の胸像に舌出さなくなりましたよね。結構見てて面白かったんですよ?」
「私の事、そんな風に見てたの?」
確かに昔はイライラの捌け口にしていたが、ここ暫くやった記憶がなかった。
式が終わって参列者が通夜振る舞いの席へ移動する中、棺の前に佳祐が居る事に気付いた。
式の直前に現れた彼とはまだ話をしていない。
声を掛けようと思って一瞬躊躇ってしまったのは、遺影を見上げた彼の目から涙が零れている事が分かったからだ。
「綾斗、先に行ってて貰っても良い?」
それでも、声を掛けずにはいられなかった。
綾斗は京子を察して、「分かりました」と答える。
「扉の陰の所で待ってますね」
「ありがと」
心配しすぎにも思えるが、ここへ来る時話した通り、色々と警戒すべきなのだろう。
今日何人かのキーダーと顔を合わせたが、誰かがやよいに手を掛けたかもしれないなんて京子には考えられなかった。疑うことができないなら、備えなければならない。
「佳祐さん」
「京子か。カッコ悪いとこ見せたな」
「いえ、私も動転してて」
呼び掛ける途中で振り向いた佳祐は、太い親指で涙を拭った。
「そうだよな、何でって思うよな」
「佳祐さんはやよいさんと同期だから、余計寂しくなっちゃいますよね」
「あぁ。まさかこんなことになるとは。妹の時もそうだったけどよ、人が死ぬってのは突然だよな」
佳祐は妹を事故で亡くしている。それを海辺で話した時の事を思い出して、京子は「そうですね」と浅く頭を下げた。
「暗い顔すんなよ。今度九州に来た時は、うまいものたんまり食わせてやるからよ」
「はい、楽しみにしてますね」
彼は京子にとって優しい兄のような存在だ。
「佳祐さんは明日まで居れるんですか?」
「いや、そう言う訳にはいかねぇんだ。告別式に出たかったんだけどな、もう帰らにゃならねぇ」
「忙しいんですね」
「忙しい位が俺には丁度いいんだよ。そういや桃也と別れたんだっけか? 俺も変なこと言って悪かったな」
──『アイツをキーダーのままで居させてやってくれないか』
前に会った時、彼に言われた言葉だ。それが結果に全く影響していないわけではないが、これは自分で決めた事だ。
「佳祐さんが謝る事じゃないですよ」
だからハッキリとそう答えた。
「後悔はしていませんから」
「そうか」と軽く微笑む佳祐。
入口で何やら話し声がして、カツリと中に踏み込む足音が聞こえた。
「佳祐」
苛立つ様子の久志を、綾斗が慌てて追いかけて来る。
久志は物言いたげな顔で詰め寄り、佳祐を睨み上げた。
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