戦いが始まってから、ずっと走っている。
足を止めれば狙われる確率は高い。敵に背中を向けて逃げるスキルも乏しい。だからとにかく視界に入る敵を倒しながら、修司は前進した。
駆け引きのない単純な真っ向勝負は、意外と自分に合っているのかもしれない。
キーダーになってから基礎トレーニングを欠かさなかったお陰で、体力も人並み以上についている。
ただその勢いを搔き乱すように、律の影が脳裏にチラついた。どこかで少し大きめの気配が上る度に、彼女ではないかと胸が鳴ってしまう。
実際に会ったらどんな顔をすれば良いのだろうか。彼女との再会で自分がどんな反応をするのか想像がつかなかった。
正面からの光をかわし、修司は刀を振り上げる。趙馬刀の刃は使う人間の個性が出るが、修司のそれは太くて厚みるあるものだ。
木の陰から飛び出した敵は、修司と変わらなさそうな歳の男で、戦闘に臆する事もなく光の球を乱射させた。付け焼き刃にしては動きが良い。
「アンタがキーダーなんだ」
気持ち的にも余裕があるようだ。
彰人のような刃の生成する技はないが、男は軽く修司の刃をかわしていく。
「俺って天才じゃん?」
「何酔ってんだよ。薬で手に入れた力なんだろ?」
「今この状況で、経緯や理由なんてどうでも良いんだよ」
男は自分の力に自惚れつつ、嫉妬心を絡ませた。
「アンタはキーダーなんだろ? 能力持って生まれて来ただけで勝ち組じゃんか。羨ましいよな、どうせ小さい頃からチヤホヤされて生きて来たんだろ?」
「はぁ? ふざけんなよ。俺の気持ちがお前に分かる訳ないだろ!」
それは修司にとって嫌な記憶を思い出させるトリガーだ。半歩下がった身体を踏み留め、修司は趙馬刀を構えて相手へ飛び掛かる。
男の飛ばした光を物理的に跳ね上げ、脇腹に刃を滑らせた。
闇に飛び散った鮮血が、彼のグレーのパーカーを黒く染める。男は患部を左手で押さえ、荒い息を吐き出しながら修司を睨みつけた。
傷は深そうに見えるが、まだ立っている余裕はあるらしい。
──『ふざけんな! アンタにだって私の気持なんか分からないわよ!』
昔、修司は初めて会った美弦に同じことを言て、同じセリフを返された。
「俺もコイツと変わらねぇのかよ」
修司は据えた目で男を睨みつける。
「俺は瀕死で止めてやるほどの経験値なんて持ち合わせてないんだよ。死にたくないなら俺を殺してみろ。その代わり、俺も100の力で行かせてもらうからな」
「何カッコつけてんだよ。キーダー様様ってか?」
男は前屈気味の姿勢から光を振り上げ、修司目掛けて突進してくる。
修司は負ける気がしなかった。それでも、頭の中は律でいっぱいだった。
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