忍の飛ばした光が、閃光弾のように空へ広がる。
それを合図に飛び出した影は、予想を裏切らない数だった。
桃也は「チッ」と舌打ちして、敵へ向かう仲間の背を目で追う。
彰人と修司はそれぞれ別の方角へ駆け出して行ったが、何故か京子は桃也のすぐ後ろに固まったまま動こうとはしなかった。
ここに忍が居るからだろう。
敵の大将と何を話したいのかは分からないが、どうしようか戸惑っているのは分かった。ただ、背後から襲い掛かって来た男を迷いなく趙馬刀で地面へなぎ倒してしまうのは彼女らしい。
容赦ない攻撃に、敵の仲間が尻込んでいる。
「ここは俺だけで良い。そいつらを頼むぞ」
「……分かった」
桃也が「行け」と合図すると、京子は無言で忍を一瞥し、他の二人とは別の方向へと走った。
数十メートル離れた所で光が上がったのは、追手への攻撃だろう。複数の気配が一瞬だけ強まって、すぐに弾け飛ぶ。
「京子らしいな」
桃也が苦笑すると、「そうだね」と忍が口を開いた。
彼に会うのは今日が初めてだ。関係する資料を色々と読み漁って来たつもりだが、小柄で茶髪で金色のピアスという見た目と、非道だと言う性格から構築したイメージより大分大人しく見える。
「京子の事、知ったフリすんじゃねぇよ」
「フリしてる訳じゃないけど、まぁいいか。それより、たったの4人で来るとはね。君も戦いに加わった方が良いんじゃない? 大して役には立たない奴らだけど、数だけは揃えたからさ」
忍を倒せば決着が着く。
このまま力任せに突っ込んでいきたいと思うのに、鎖が絡んだかのように足が重かった。
動きを封じられている訳でも、彼の強さに委縮している訳でもないが、『次期長官』という肩書を背負った自分が、考えなしに動ける立場でない事実がプレッシャーになっている。
「緊張してるの?」と忍は笑った。
「折角始まったんだし、もう少しこの状況を楽しませてよ。俺たちがここで戦ったら、すぐに決着がついちゃうよ? そっちの負けでね」
「はぁ?」
「挑発に乗るんじゃねぇ」と桃也はそっと自分に言い聞かせる。けれどこの気持ちが原動力になる事も多々ある。
鉛のようだった足の鎖が緩んで、桃也は全身に力を込めた。
ただ、忍は一向に戦意を見せない。
「熱くなるなよ。まだ君が死ぬ時じゃない」
忍は暗い空へ高く跳躍する。人波外れた身体能力は、念動力の応用だ。
気配を強めた彼の軌跡を目で追うが、その姿はあっという間に視界から消失した。
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