京子が空からこの廃墟に降り立ってから、忍は一度も目を合わせてくれない。
『本当に良いんですか──?』
戦闘を始める前に、彼にそう聞いてみたいと思った。
ホルスが予告した今日を迎えてから時間が大分あったせいで、頭はだいぶ冷静になっている。
もう引き返すことが出来ない所まで来てしまったのは分かっているのに、彼を敵だと認識するための一押しが欲しいと思った。全力で戦う為だ。
けれど彼との接触を桃也に阻まれてしまい、その指示に従った。
京子はパシリと自分の頬を両手で叩き、まずは追って来た敵を薙ぎ払う。そこから気配の多い方へ向きを変えるが、先に戦っている修司の姿が見えた。
ならどうしようかと逡巡している間に、解放した京子の気配に気付いた複数の敵が集まって来る。
「囲むつもり?」
神経を集中させて、綾斗と交換した趙馬刀に力を込める。少し遠い位置も含めて、明らかな敵意を向けて来るのは6つだ。動きが連携しているようにも感じられる。
数と勢いでどうにかしようとしているのだろうか。
斜め前から飛び込んで来た少年が「行くぞ」と合図して、同時に全員が光の球を飛ばしてきた。
「良い作戦だとは思うけど、それだけじゃダメなんだよ」
相手は必至だ。キーダーを前にして死に物狂いなのは分かるが、力と技が伴っていない。
攻撃が空回りして戦闘にはならない状態だ。
敵の大半は薬で能力を得たばかりなのだろう。
京子は「もぅ」と困惑気味に呟いて、飛んできた光の球を趙馬刀の刃で順番に叩き落とした。最後にふわりと飛んできた光をキャッチした掌で握り潰すと、白い光がシュウと断末魔を上げて消えていく。
彼等に本気で相手したら、一瞬で殺してしまいそうだった。力の加減がうまく行かない。
圧倒的な力の差に、少年たちが「マジかよ」と委縮する。「どうする?」と目くばせをし合うこの瞬間を狙う事もできるが、敢えて出方を待つ。
彼等が答えを出すまで5秒かかった。
肉付きの良い少年が他のメンバーの意見に「えぇ」と不本意な声を上げるが、誰もそれを聞こうとはしない。「やるぞ」と一人が発破をかけて、五人が同時に踏み切る。
彼等の精一杯だ。けれどさっきの攻撃と威力に差はない。
「ごめんね、逃がしてあげたいけどそうはいかないんだよ」
京子は左手をそっと胸に当てて心を決める。趙馬刀で一人ずつ足を狙った。
6人全員が地面に倒れるまで10秒もいらない。
「ここで貴方たちを見逃したら、他の誰かが貴方達に傷つけられるかもしれない。だから私は全力で行かなきゃならないの」
そんな意思を突き付けて、京子がその場を離れようとした時だった。
白くて丸い車輪のような光が、京子の視界を横切ったのだ。
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