映画俳優ばりに整った顔立ちをするその男を、忘れる訳はなかった。そして嫌気がさす程に彰人と良く似ている。
4年前のアルガス襲撃を起こした張本人である浩一郎は、戦いの最後に大舎卿が能力を縛り、トールにして地下牢へ入った筈だ。
なのに当の大舎卿と地上へ上がり、今度は仲間として戦うという。手首には銀環まで付けていた。
「どういうことだ?」
平野は苛立ちのままに問う。
大それた行為の遂行は、大舎卿一人が決められることではないだろう。
「彰人は知っているのか?」
「知らないんじゃないかな。監察やサードでは共有されてないみたいだし、せがれには襲撃の時以来会っていないからね」
つまりは極少数で謀られた行為という事だ。
「胸糞悪い」と平野は吐いて、当事者の2人を睨む。
「アルガスのそういうトコに腹が立つんだよ」
「コイツが何かやらかしたら、お前が殺ってくれて構わん」
「あぁ、そうさせて貰うぜ」
きっぱりと言い放つ平野に、浩一郎が「おいおい」と苦笑する。
「二人で物騒な事言うなよ。今更何かをやらかそうなんて思っちゃいないよ。けど、もしそんなことになって、ジイサンに俺が殺れるのか?」
「はぁ?」
「やめろ、浩一郎」
状況を無視して挑発する浩一郎を、大舎卿が窘める。
本来の敵である松本がその様子をぼんやりと傍観する始末だ。
平野は「おい」と浩一郎に詰め寄った。
「ふざけるのも大概にしろよ」
けれどアルガスが銀環をする浩一郎をキーダーと認めるのなら、今怒りの矛先を向けるのは彼じゃない。
腕を振り上げたくなる衝動を抑えると、松本が「終わりか?」と笑った。
「キーダーは相変わらず仲良しごっこが好きなんだな。浩一郎は完全にトールにしたつもりだったけど、何でそっちに居るんだよ。世の中何が起きるか分からないな」
「あの時の事はヒデに感謝しているよ」
浩一郎はにっこりと笑んで、シャツの袖を肘まで捲り上げた。
左の手首に視線が集中して、「笑っちゃうよね」と笑む。
「別にキーダーに戻りたい訳じゃないけど、勘ちゃんがけじめだって煩いんだよ。せがれが世話になってるし、せめてもの罪滅ぼしかな」
「アンタが親とはね。ハナさんを置いていったくせにな」
「痛いトコ突いて来るね」
浩一郎は肩を竦める。
大舎卿の妻であるハナは元々アルガスの施設員で、解放前は浩一郎と恋人関係にあった。外に出る時、彼はハナを連れて行かなかったのだ。
「アンタらはいつだって過去が好きだな」
平野がボヤく。解放前にアルガスに居た人間は、なんだかんだ言って皆仲が良いと思う。
前に浩一郎がアルガスを襲撃した時、大舎卿は浩一郎に止めを刺さなかった。
今度もまた松本を生かそうとするのだろうか──
「笑わせるなよ」
見つめ合う三人を横から眺め、平野はそっと呟いた。
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