スラッシュ/

キーダー(能力者)田母神京子の選択
栗栖蛍
栗栖蛍

343 仲の良い3人

公開日時: 2025年2月3日(月) 09:18
文字数:1,120

 映画俳優ばりに整った顔立ちをするその男を、忘れる訳はなかった。そして嫌気がさす程に彰人あきひとと良く似ている。

 4年前のアルガス襲撃を起こした張本人である浩一郎こういちろうは、戦いの最後に大舎卿だいしゃきょうが能力を縛り、トールにして地下牢へ入った筈だ。

 なのに当の大舎卿と地上へ上がり、今度は仲間として戦うという。手首には銀環ぎんかんまで付けていた。


「どういうことだ?」


 平野ひらのは苛立ちのままに問う。

 大それた行為の遂行すいこうは、大舎卿一人が決められることではないだろう。


彰人あきひとは知っているのか?」

「知らないんじゃないかな。監察かんさつやサードでは共有されてないみたいだし、せがれには襲撃の時以来会っていないからね」


 つまりは極少数ではかられた行為という事だ。

 「胸糞悪い」と平野は吐いて、当事者の2人を睨む。


「アルガスのそういうトコに腹が立つんだよ」

「コイツが何かやらかしたら、お前が殺ってくれて構わん」

「あぁ、そうさせて貰うぜ」


 きっぱりと言い放つ平野に、浩一郎が「おいおい」と苦笑する。


「二人で物騒な事言うなよ。今更何かをやらかそうなんて思っちゃいないよ。けど、もしそんなことになって、ジイサンに俺が殺れるのか?」

「はぁ?」

「やめろ、浩一郎」


 状況を無視して挑発する浩一郎を、大舎卿がたしなめる。

 本来の敵である松本がその様子をぼんやりと傍観ぼうかんする始末だ。

 平野は「おい」と浩一郎に詰め寄った。


「ふざけるのも大概にしろよ」


 けれどアルガスが銀環をする浩一郎をキーダーと認めるのなら、今怒りの矛先を向けるのは彼じゃない。

 腕を振り上げたくなる衝動を抑えると、松本が「終わりか?」と笑った。


「キーダーは相変わらず仲良しごっこが好きなんだな。浩一郎は完全にトールにしたつもりだったけど、何でそっちに居るんだよ。世の中何が起きるか分からないな」

「あの時の事はヒデに感謝しているよ」


 浩一郎はにっこりと笑んで、シャツの袖を肘までまくり上げた。

 左の手首に視線が集中して、「笑っちゃうよね」と笑む。


「別にキーダーに戻りたい訳じゃないけど、かんちゃんがけじめだってうるさいんだよ。せがれが世話になってるし、せめてもの罪滅つみほろぼしかな」

「アンタが親とはね。ハナさんを置いていったくせにな」

「痛いトコ突いて来るね」


 浩一郎は肩をすくめる。

 大舎卿の妻であるハナは元々アルガスの施設員で、解放前は浩一郎と恋人関係にあった。外に出る時、彼はハナを連れて行かなかったのだ。


「アンタらはいつだって過去が好きだな」


 平野がボヤく。解放前にアルガスに居た人間は、なんだかんだ言って皆仲が良いと思う。

 前に浩一郎がアルガスを襲撃した時、大舎卿は浩一郎にとどめを刺さなかった。

 今度もまた松本を生かそうとするのだろうか──


「笑わせるなよ」


 見つめ合う三人を横から眺め、平野はそっと呟いた。







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