****『勝鬨上げろ、ビートも上げろ』****
リスポーンを終えて、《始まりの浜辺》に舞い戻ってきた僕たち。生き返られることは知っていましたが、それでもやはり、我が身のこととなれば驚きです。
死の要因となったヘッドショットも。死を覚悟した大腿部の弾痕も。きれいさっぱり、治っていたのですから。
しばらくしたのち、無事に冷静さを取り戻した僕たちは、すかさず、『ゲームジャンル選択』と声を上げて、コマンドを実行します。能力の取得を、アンは黙って待ってくれています。
視覚情報にゲームウィンドウのような画面が表示され、能力の詳細をタッチパネルを使い書き込んでいき。
僕や一華さんはシンプルな異能なのでわりかし早めに設定を終わらせることが出来たのですが。驚きなのは、ひとつちゃんの複雑怪奇な異能力も、ものの《数分》で設定完了し終えていたことです。さすがですと褒めるよりも、キモイですとおののく気持ちのほうが強かった。
──ひとつ なおかず いちか 以上三名の《異能力》獲得確認──。
ケモミミは、人工音声かのような無機質のアナウンスを聞きました。すると《視界》がおおきく変質。新たな《一文》が付け加えられたのです。
【なおかず あそびにん レベル1】。
「あ、あそびにん……」
勇者でも。戦士でも。僧侶でも。魔法使いでもなく。遊び人。
「あははっ! とってもナオ君らしい職業じゃん!」
「……あまりにもドンピシャすぎて、返す言葉もない。どんまい、カス」
《ロールプレイングゲーム》というジャンルの特徴に、《職業システム》というものがあります。プレイヤーの性格や、特徴をアスアヴニールが査定し、もっとも相応しいであろう職業を自動で選定してくれる、という内容なのですが。
たとえば《勇者》は、勇気がある、正義感の強い人がなるのでしょう。
たとえば《戦士》は、フィジカルゴリラで、なおかつタフガイな人がなるのでしょう。
たとえば《僧侶》は、信仰心が強くて、仲間想いな人がなるのでしょう。
たとえば《魔法使い》は、論理的で、頭のいい人がなるのでしょう。
そして僕を、アスアヴニールは、《遊び人》だと、断言したのです。
「ゲームが根っからの大好きで。学校なんて死ぬほど嫌いなのに、《アタシらと遊ぶ》ためだけに、毎日毎日、欠かさず明日部に顔を出して。《楽しそう》なことには目がなくて。《楽しむ》ために生まれてきたナオ君が。《遊び人》以外の、ならばなんなんだろうね!」
「ぐさ!」
「か、神様、死体蹴りがすぎるぞ。カスの奴、苦しそうに呻いているぞ。たとえ遊び人が適正職すぎて、カス本人も認めざる負えない状況だからといっても。たとえ精神世界でイキッた割に、ダサすぎる結果だったとしても……。すまん、フォローのしようもなかった」
「ぐさぐさ!」
「あちゃちゃー。とうとう砂浜に顔を突き刺してしまったよ。返事がないよ。ただの屍だよ」
撃たれた図星がキラリと堕ちるー。流れ星がお目々にちょう痛い。うぁーん。
遊び人。その特徴は、《レベルアップ》が速いだけ。なんとも悲しいかな没個性。
「茶番はここまで。神様、カス。当初の目的を忘れるな」
「だね」
「はいです」
異能力を得ることが出来た。《戦う》力を手に入れた。なら、やることは一つだけです。
「神様、《アン》を殺す許可が欲しい」
「神はねー。どんな願いだって受け入れるから、神なんだよー」
「ありがとう」
僕達の、大切な人を傷つけた。僕達の、大切な居場所を踏みつけにした。明日部を守るためなら《自死》すら厭わない僕たちへ。
だからアンを殺すのです。目にものを見せてやるのです。
「アン、まずはお礼を。助かりました。おかげさまで知りたいことがしれました。だからこそ、僕達と戦いましょう。ルールにのっとって、活劇しましょう。楽しむために」
「強いのがアン。負けるのがオタクら。それでも?」
「それでもです」
負けるかどうか。殺せるのか否かはこの際関係ないのです。僕達はただ単純に。震えるほどの《報復》と。泣けるほどの《ワクワク》を。あなたにぶつけたいだけなのだから。
「異能力だなんて《楽しそう》なものを手に入れて、試さない手はないもんね」
「楽しそうに、命をかける?」
「「「問題でも?」」」
アタシたちが。ウチらが。僕たちが。明日部の声が重なります。
「いいよ。アン、戦う。ナオカズの《怒り》。もっと知りたいし」
蛇に睨まれたカエルの気分。冷たい視線。アンは無表情だけれど、無感情ではない。好奇の視線が、胸にゾクリと来ます。気持ちいいです。
「ノーリスクで初心者狩り、させない仕様。ポイントを賭けた勝負、公平が必要。オタクら三人のポイント合計《261》。アンの《900》。釣り合わない。転げ落ちるのが分銅」
「ラッパーみたいな話し方するねー。日本語が苦しいね。可愛いじゃん♪ チェッケラ」
煽る煽る。ひとつちゃんは、人を苛立たせる異能の持ち主です。
「アン、ひとつとお話したくない、きらい……。《ハンデ》欲しいのはオタクら。どうする?」
なるほど。僕達が《有利》になる状況を設定することで、僕達とアンの戦力差を埋めなければいけないのですが。でなければ《運営》は、僕達の《勝鬨》を、認めてくれないのです。アンは、その《ハンデ》をどのようなものにするのかと、僕達に尋ねているのでしょう。
選択権の譲渡も、一種のハンデに相当するのかもしれませんしね。勝負は、始まる前から、始まっているのが常であると、RPGが教えてくれましたし。なにせ僕、世界の半分、貰ったこともあるのです。
「まずはハンデ内容を僕達が決めること。次に試合形式もコチラで裁定すること。あとはそですね、僕達が勝利した場合、僕達の賭け金の倍額をアンが支払うとかでどうですか」
明日部がニ十ポイントを賭け、勝つことが出来たのならアンは四十ポイントを支払わなければいけない。
「かまわない。でも、まだ少しだけ足りないみたい」
900と261の彼岸が遠い。
「なら、こうするのはどうかな? アタシたちの《異能》を、アンに対して秘匿にする。だけれどアンは、アタシ達に異能の詳細を教えなければいけない」
さすがひとつちゃん、面白そうな条件を提示します。
「別にいい。わずかな差。それでちょうど消える。異能は八十パーセントがテンプレ。隠す意味は少ないから」
《普通の人》に対しては、ですが。
本当にさすがですよひとつちゃん。確かに普通の人に対しては、異能力の秘匿はあまり意味をなさないのかもしれません。だけれど、こと僕達リスクとリターンの使い手、《邪道》に関して言えば。その条件はかなりのアドバンテージに繋がるのです。
1.2倍どころか。数倍の。知ることよりも、隠すことの意味がでかい。
「アンの異能。遊ぶのは《FPS》、その亜種《サバイバルモード》。プレイヤー本体に対するダメージ比率が高い。半面、《身体能力》が上昇する特徴の設定。【シシリアンディフェンス】が、アンのオリジナル。FPSプレイヤーが苦手な近接格闘、ドシドシするのがデメリット。ハンドガンという《縛り》のせいで、ドカドカ殴り合い。かわりに、《弾丸》がアンになるのがメリット。アンの《思い》。アンの《記憶》。アンの分身が弾丸なの」
まとめると、FPSのサバイバルモードがアンのゲームジャンルで。ハンドガン《縛り》を施す代わりに、《弾丸》を強力かつ、特殊なものにしている、ということですか。
「……。リスクとリターン。あはは、いきなり《同じ器》と出会えちゃったわけね」
あれほど新機軸なのでは、と驚きを与えてくれた《邪道》が。まさか初めての敵になってしまうとは。知ったことの価値が高騰中です。
上には上がいる、というよりも。上には上の理由がある、といった感じですかね。ならば下には下の矜持があることを、示さねば。殺すことで。
「アンの《当たればいいな》。アンの《死んでほしいな》。アンの《思い》が弾丸なの。だから、当てられる。当たればいいなって思ったから、なおかずに当たった」
エイムアシストですか。《標準が定まらなくても》。異能力が軌道を正してくれる。だからこそ、一見、ひ弱そうなアンでも。高威力、高反動なハンドガンを扱えて、なおかつ当てられる。
「アンの《知ってほしいな》。アンの《感じてほしいな》。アンの《記憶》が弾丸なの。だから、教えられた。《しゃべらなくても》伝えられた」
その力は先ほど、身をもって体感しましたとも。
「チーム戦だったら、会話を交わさずに、《記憶》の弾丸で、作戦や、戦況、仲間に伝達できる。《思い》の弾丸で、《傷が治ればいいな》と思うと、傷も治る。アン、強い。分かった?」
リスクに対するリターンは、確かに強力な物でした。一華さんの能力予想は的を外してはいません。アンは、強力なデ・バッファーだったのです。ただ、それが予想以上の強さだっただけで。
「わかったよん。それじゃ、始めよっか」
「殺してやる」
「殺しましょう」
アンの異能力を詳らかにし、ようやっと《殺し合い》の準備が整いました。
──《勝鬨》可能。開始するためには、《チーム名》と、《勝利時のポイント譲渡数》、《試合形式》。最後に《思いの丈》を述べてください──。
「チーム名《サクリファイス》。戦うだけのアン。ポイント譲渡数は敵に合わせる。試合形式もまかせる。アン、勝つよ」
「チーム名《明日部》。尺直一 仇花一華 そして天目一が相手取ろうかなん♪ 試合形式は一回殺したら生き返らなくて。全滅させたら終わりの《サドンデス》。そんでもってお二人よ。明日部の部長はいったいだれかな!?」
「神様」
「ひとつちゃん」
「なら、アタシについてきてくれるよね!」
揺り籠から墓場まで。屋上から地獄まで。どこまででも。どこであっても。
「ポイント譲渡数は《オールイン》。261ポイント、その全てを賭けちゃうよん。トリプルアップを狙っていこう!」
は、はは。何度目でしょうか。それでも言いますよ。さすがです、ひとつちゃん。たったの1ポイントでもされど一年分。馬鹿にならないその数値。大いに馬鹿にするのが、彼女です。
「代表してナオ君。思いの丈を述べるがいいさ」
「一直線に、楽しみましょう」
──以上をもって勝鬨とし、《殺し合い》を開始します──。
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