「イチカ、どうなった?」
「わからない。それでも、生きていると信じるしかない」
生命活動を終えていないことは、依然音楽が鳴り続けていることからも悟れるが。それはただ、《死んでいない》だけかもしれないというネガティブが、胸の奥で座していた。
「ネガ禁止だぜ、アタシ──」
眼前で繰り広げられていた先の神話に、圧倒される気概すらなく。人知を超えたナオ君や。もとより人畜有害であったイッチー。人口怪物のアンならまだしも、ただの人間であるアタシには、なにがなにやら。
それでも感想を絞り出すのなら、『怪獣バトル』みたいだったなと、そう思った。
「我のチームメイトながら、恐ろしすぎるネ、ナボの奴」
まぁアタシとしては、そんな最強を、人の身でありながら追い詰めてみせたイッチーのほうが、よっぽど恐ろしいんだけれどね。
「あと二十秒時間を稼ぐ?」
イッチーの透明化が解除されるまで、耐えるのかとアンが効く。
「のんのん。十秒もあれば十分さ。アタシは言ったよね。ナボを倒すための《式》は、すでに編んであると」
ナオ君が下されて。イッチーが堕とされて。それで《怒れる》心があれば、どれほど人生が楽だったのだろうか。でも不幸かな、アタシ今、とてつもなく、《楽しかった》。
ほくそ笑む。ほくそ笑む。この戦場を、《支配》していたという事実に、打ち震える。
イッチーがやられたのはさすがにキツかったけれど。彼女の人身御供の甲斐あって、用意すべき鍵がすべて出そろったのだから。勝つためのルート、ビジョンが明確になったのだから。
アタシは最強に。アタシ達はナボボに──、《勝つことができる》。
ではいよいよもってして、アタシ達の《勝利》を、獲りにいこう──。
「アン。君はただ、良き観客であってくれ。したらアタシ、とても嬉しい」
ナボボが【神殺し】を発動し。アタシの命を|屠《ほふ》る猛攻を仕掛けてくる──。
「『№31 お座り。リターン:相手にお座りさせる。リスク:効果発動中なにもできない』」
《最強》一秒を、膝つかすことで乗り切って。《お座り》の効力が切れるとともに、ワンちゃんの力でナボボの側に移動する。
「『№32 お手』」
右手を掴むも。能力をわざと切り、ナボボの攻撃を誘発。アンの銃撃を牽制とし距離を取る。
「『№33 ふせ』」
同様に能力を解除。うつぶせ状態のナボボは追撃を恐れ、バックステップで後退。
「『№34 待て』」
ナボボの動きを封じ、十秒経過。【神殺し】が、来る──。
アタシを背負うアンは、回避行動などとてもではないが取れない。ワンちゃんの異能なら何とかなるのかもしれないが、アタシはその一手を選ばない──。
「まずっ!?」
大丈夫だよ、アン。君はまだ明日部に入って間もないから、分からないのかもしれないけれど。それでもアタシ達は──、大丈夫なんだ。
だってアタシ達には、どんな逆境であっても乗り越えて。アタシ達の為に《根性》燃やす、《イッチー》がいるのだから──。
アン。君が成ろうとする怪物を、とくと見るがいいさ──。
ナボボの一撃必殺、それを阻むのは、《アタシを守るために産み出した》、最強の盾。
「『虎狐』」。虎の威を借る、狐。アタシの威を示す、可愛い狐。
よくやってくれたぜ──。
イッチーは生きていて。なおかつアタシを守って見せた。大好きだ。
そしてアタシは、《最後の一枚》を、選択する──。
「『№35 よし。リターン:真っ向勝負をすることが出来る。リスク:《お座り》、《お手》、《ふせ》、《待て》の上記四枚を連続使用することによって、はじめて使用できる』」
つまり。今回の勝鬨、ここから先は、《異能》の存在しない《ステゴロ》よん♪
一週間という期間を取ったのは。ナボボへ連続アタックするためではなく。もちろん、《睡眠不足》を狙うためですらなく。
すべては、《手札にこの五枚をそろえるため》の、猶予期間だったというわけで。そしていつものアタシ流!
つまりはこの勝鬨。始まる前から──、アタシ達明日部が、《勝っていた》!!
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