「アン、初めての共闘なわけですが、合わせられそうですか」
「違う。ナオが合わせる。アンがリードするから、一緒に踊るの」
自身の手札を隠すつもりはないらしく、懐から二丁のリボルバー式ハンドガンを、躊躇うことなく取り出すアン。撃鉄を起こし、戦意は昂るすこぶる絶好調。
「あえて今言いますけれど、アン、日本語上手くなりましたよね。勉強頑張ったのがよく伝わってきます」
「うぅ。本当に今言うなぁ」可愛い可愛い。
「くっちゃべってんな、いくぞ神様!」
「ほいきた!」
そして響くは《レクイエム『怒りの日』》。ひとつちゃんを背負う一華さんの猪突猛進。対抗馬としてアンが銃撃ドンドン。
「《虎狐》」
惜しい。出現した狐色のサークルで塞がれました。幾度も見た光景。苦渋を舐めた情景。しかしてその景色を、負けた《一華》さん自身が、選んだのです。
とどのつまり、その先には《策》がある。
次の《虎狐》を待つのか。《嫁狐》で反撃するのか。はたまた追撃を憂いて身を倒すのか。三択を差し迫られたアンは、《最善》を選択するために、数秒の思考を《強制》される。一華さんはその刹那で、彼女を仕留めるつもりなのです。
「『№28 仕込ま杖』」
ひとつちゃんの能力発動。リターンはポーカーフェイス。一華さんの手には刃を剥き出しにした杖が握られ──、振り下ろす。アンを虎狐ごと、切り裂こうとする。
差し出された三択外の一手。虚をつく速攻。
一華さんは、この世界で唯一、《虎狐》を自在に破壊できる権能、自身の任意能力解除を発動し。刃を振るったのです。
バリアがあるから、《守る》と思う。防御していると思い込んでいるから、《攻撃》がくるとは思わない。彼女は、その心理をついてきた。
アンの回避行動が間に合うかどうかは半々。浅くない傷を負う可能性すらあるでしょう。背に腹は変えられません。明日部を敵に回すのに。僕の命を殺すのに。チビの脳細胞では力不足ならば。さらに先へ、人跡未到へ至れ。
「AI発動! 命大事に行きます!」
僕のレベルはすでに50。人間の限界を優に超えた膂力で駆け、呆けるアンの首根っこを後ろに引きます。先までアンがいた位置に、鋭利な杖が音を裂きました。
「助かった」の一言を落とし、僕を背もたれにアンはさらなる銃撃。
ドンドンドンと、度重なる轟々。シリンダーの中身をすべて撃ち出したのです。上る銃煙の先には──。
「ぐふっ」
全身の至る所に風穴を開けた一華さんが、《号泣》しながら立っていました。
おそらく《仕込ま杖》のリスクです。ポーカーフェイスの代償は、こっちが恥ずかしくなるほどの、泣きっ面。
決まった──、そう確信したその時。
「『№27 華枯れど根死なず。リターン:一度きりの蘇生』」
アンの《治ればいいな》、それよりもなお早い超再生。一華さんは不死鳥の如く完全復活を果たしたのです。とんでもないチート能力ですが、リターンには相応のリスクがつきもの。
「『故意に死にかけなければいけない(糸車の対象外)』。発動条件はすでに満たされているよん」
なるほど、《避けることもできた》が、あえて受けたわけですか。面白くなってきましたね。
「ナオ、後手後手。盤面を加速する。ついてきて」
ハンドガンのリロード時間を考慮し攻め込んでくる一華さんよりも、なお《早く》アンが動いた。アンは手に持つ弾切れの銃を地に《捨て》、懐からさらに二丁の銃を取り出したのです。
「バン!」アンが叫び、「虎狐」一華さんが防御に回る。
しかしアンは、銃弾を撃っていない。彼女は《叫んだ》だけなのです。応用ねこだまし。
「小癪!」
「ダッサ!」
子供騙しのブラフ、子供の一華さんには効果的面。アンはその隙をつき、サークルの内側に潜り込みました。
「プライスレスのボコ試合がはじまるぜ!」
「シッ──」
近接戦闘の開始。前回はアンが勝利しましたが、今日の一華さんは、はるかに異能力の《練度》をあげてきています。生半可な攻防では墜とせない。
一華さんはアンの発砲を臆さず|躱《かわ》し、続く二撃を虎狐で防ぐ。さらに嫁狐で反撃。攻撃モーションを視認するよりも早く保険として虎狐を再展開。流れるようなコンボは芸術さながら。
加えてひとつちゃんの「『№29 泣く子も黙れ』」能力発動。
吸血蓮如の一華さんが泣き止み、と同時にアンが声にならない叫びをあげました。
「ッ!?」
「言葉を封じられましたか」
リターンは数十秒間対象を黙らせる。そしておそらく、リスクは自身も押し黙る。アンは窮地に立たされています。なのに「助けて」の声が上げられない。
だからどうした──。
「その声でさえ、めんどうくさがるのが、アンでしょうに」
アンの早撃ちが轟きました。標的は、《僕》です。喋ることが《できない》を、超克する、アンにはオリジナルの《伝えたい》があるのです。
脳髄にバレットが食い込み、神経系に愛が鳴る。
「届きましたよ、アンの思い」
近接戦闘を繰り広げるアンと一華さんの、僕は《裏》に回る。裏とはつまり、背負われひとつちゃんの、《背後》を取ったことを意味し。アンはその隙を作るためだけに、無理な格闘劇に臨んでいたのです。
アンは教えてくれました。『ヒトツを叩けば明日部は脆い』と。
本来彼女の足は僕の役目。僕がひとつちゃんを守り、一華さんが戦闘に注力するスタイルだからです。それが今回は立場が入れ替わっている。つまり、一華さんはひとつちゃんを守らなければいけない分、十重二十重と思考のリソースが陪乗されている。
馬鹿な彼女にそれはキツイ。ならば、疑似二対一の状況下において背後を取るのは容易で。レベルの上がった僕は一華さんとでも対等に殺り合えるほどのフィジカルを有し──。
「なっ!?」
だけれど一華さんの背中に、《ひとつちゃん》は、いなかったのです。どういうことだと周囲に首を振れば──、見つける。
地に倒れるも、上体を起こして、僕に《銃口》を向けているひとつちゃんの、《してやったり顔》を。
「アンと戦うのは二回目。なら、《アタシ》を狙ってくるであろうことは推察可能」
ひとつちゃんは事前に、僕が背後をとり、自身を狙うであろうと予測を立てていたのです。そして選んだ対抗策は、一華さんからあえて離れることで、背後を狙う《僕》を取ること。
トリッキーな戦法を選んだひとつちゃんに、特別な驚きはないのです。《彼女ならそれくらい、普通にしてくるだろう》と、納得できるからです。それに、奇怪な戦法は得てして正攻法に弱いもの。戦闘能力皆無のひとつちゃんなら、僕であっても|殺《や》れるでしょう。
ならば何ゆえの吃驚か。その理由はただ一つ。
ひとつちゃんの握っている、《ハンドガン》であるのです。
「捨てた銃では──」
アンは先ほど、弾切れになった銃を捨て、新たな銃を取り出すという立ち回りを演じました。
ひとつちゃんはおそらく、そのとき地におとされた銃を、拾い上げていたのです。
ですが、アンが銃を捨てたのは、弾丸がつき、無用の長物と化したからであって。殺傷能力はゼロのハズ──。
しかし、理屈では説明できない《確信》が、僕の肺を掻きむしる。
撃てない銃など、玩具にも劣ると言った彼女が、このような愚行を犯すはずがない。つまりは必然──、《弾》がある。
理屈ではなく、本能でそう恐怖する。
「一発ぐらい、当たればいいね」
まずい──。ドンと、鼓膜が破れるほどの、超量デシベル。
瞬時にとった回避行動が功をそうしたのか。はたまた近距離とはいえ、素人が弾丸を命中させるのは難しいからなのか。
幸運にも、肉穿つ銃撃は、《一つ》のみで済みました。
「ったい!」
左肩口を貫通した銃痕からドロドロとした血が漏れ出し、熱を伴う痛みが傷口を炙る。
そして脳内に広がるのは、なぜ銃に弾が込められているのかという、困惑。
「アタシは前回の勝鬨で、アンの銃から弾丸を抜き取っていたよね。そのときに盗んでいた弾、いつか役立つかもと、ずっと隠し持っていたんだ。イェイ」
「さすがです……」
ですがひとつちゃん。貴方は本当に、運が悪い。急所を撃ち抜けていれば、勝負を決することもできたはずなのに。よりにもよって左肩──。
「僕の《喜々》は、まだ生きている」
「殴るの?」
僕を仰ぎ見る、ひとつちゃん。涙を讃える、その瞳。嫌だ、やめてと乞う愛しのつぶら。
「殴ります」
命に変えても守りたい人が彼女だから。命を賭して殴るのです。
僕の右ストレートは、彼女の頬を捕捉する。
「だと思った──、『№11 『雷来楽々』」
《雷来楽々》、ひとつちゃんが有する四十四枚のカードのうち、単体においては最も《攻撃力》の高い異能。
その威力はおそらく、《電気銃》、テーザーガンの数倍にも迫るのでしょう。
僕の振るった握り拳は、《いかづち》を受け取るための、格好の雷針となったのです。
さらに言えば左肩の出血口。体内へ直接電撃を流し込むための血道はすでに開拓されており。
バリバリと閃光が駆け抜け、肢体を蹂躙。稲妻模様の雷紋が煙を放ち、来るは激痛。
「ッ────!??」
叫び声すら上げられなかった。神経のすべてに重苦が走った。アンへの愛が、咀嚼された。
血管に溶鉄を流し込まれ、生きながらにして標本にされるような叫哭。
苦しい。痙攣。気持ちが悪い。痙攣。身体が裂ける。痙攣。けいれ、けいれ、けいれん。
泡を吹き、眼球が裏返り、失禁し、息が出来ずに、脳が焼かれ、脳が死ぬ。
「何勝手に死にそうになってんだ。まだお前には、神様に懺悔し、ひれ伏し、小便垂れ流しながら、謝罪する仕事が残っているだろうが。ん? いや、小便はもう垂れてたか」
アンと戦っていたはずの一華さんが、僕の側へ。一華さんが喋れているということは、アンへの《泣く子も黙れ》も解除されたことを意味しますが、彼女の声は一向に聞こえてこない。
貴方はアンと戦っていたはずだ。それなのにどうして。なぜそこにいる──。
「『№13 カチカチ。リターン:対象に狸火を灯すことが出来る』」
肉の焼ける匂い。命の焦げる香ばしやか。鼻孔をつつく、絶望。茫々に広がる金色の只中に、矮躯を燃やす人がいた。アンと、一華さん。
「ギャァアアア──」アンの叫び、「『リスク:自身の背中も発火する』」ひとつちゃんの解説。
諸刃の炎は、爛れる皮膚をも執拗に燃やし続ける。
一華さんは、自身も大火傷を負うことを承知の上で、アンを炎で包み込んだのです。そこまで。そこまでして、貴方は僕を──。
「一番敵に回してはいけない神様が誰なのか、忘れたわけじゃないだろう。ウチを見習え、カス野郎。爪の垢でも煎じて飲んどきな」
一華さんは、僕の喉口につま先をねじり込み──。
「『№14 カラシ。リターン:あらゆる傷を癒す。リスク:傷口にカラシを塗りたくられたような痛みが走る』」
異能の力で背中の火傷を癒し、激痛を噛み殺し──。
「イッチー、もうそいつにお口はいらないでしょ」
「確かに」
「やっちゃえ」
「応」
僕の下顎を、踏み砕く──。ゴリ、ゴリと、骨が砕け、歯牙が散らばる音を聴いた。
「がぃああがざが!!」
舌が潰れ、吐瀉に似た絶叫を吐く。
「ナオは、アンが守る」
それでも彼女は。自身の損傷よりも、僕の治癒を優先してくれたのでした。《治ればいいな》の弾丸を、炭化した指で握りつけ、発射、発射、発射。脳天に三撃。
「あ? なに邪魔してんの」
けれどもその献身は、一華さんの殴打で無為な物へと下された。
顎先を横一文字。脳震盪で自律神経を崩されたアンは、しばらく立つことすらままならない。
「アン、お前は後でゆっくり殺してやるから。な。今は寝とけ」「うぐっ」
たかが三発の弾丸、それでも止血と鎮痛作用は果たしてくれたようで、なんとか正常な意識を取り戻します。前回あれほどにまで僕達を苦しめたアンが、こんなにも容易く落とされた。
ひとつちゃんの手札の異能が、いつにもまして攻撃的だったことももちろん要因ではありますが。なによりも《一華》さんが、強くなっている。僕達に、何もさせてくれないほどに。
「ナボとの殺し合いで成長したのネ……」
勝鬨を静観するワンさんの呟き。くそ、間が悪い。
「カス、ウチとのタイマンで勝ったことあったっけ」
「ないですね」
「それでもやるのか?」
「やらなきゃ勝てないでしょ」
「そりゃそうだ」
一華さんは、仰向けに倒れ伏す僕に、手を差し伸べる。僕はその手を取り、力任せに起こされた。目が合うと、彼女は珍しく、ニコリと笑った。
「カス、面白いことを教えてやるよ。ウチが太鼓の超人好きなのな。めいいっぱい、面をぶん殴れるからなんだ。本気で、全力でぶん殴れるからなんだ。スカッとするから、気持ちいいんだ」
音楽ゲーマーの風上にも置けませんね。臭うので風下に捨てたいです。
「太鼓の超人にハマったのは、家出してから。なら、ウチはそれまで、どうやって衝動を押さえつけていたと思う?」
「仇花家、たしかジムも経営していましたよね。サンドバッグとかですか?」
「大正解。花丸。なら、このお話からお前が得るべき教訓は?」
「太鼓の超人を強く殴りすぎれば、故障する」
「どうにかなってしまうほどに、ウチは殴ることが好きだということだ」
一華さんは手を離さない。ぐっと、ぐっと握りしめる。情熱てきなまでに。照れますね。
「歯、食いしばれ♪」
「食いしばる歯は折れました」
ボコ、ボコ、ボコ、ボコ。鼻が砕け、口内がズタズタに引き裂かれ、脳が揺さぶられ。
グラ、グラ、グラ、グラ。意識が飛んで。殴って戻され。またもや見事にぶっ飛んで。
「『№5 イッチーのバチバチ』発動よん」
威力の増し増した殴打は、僕の命を、お手本通りに殺していった。余命を告げる火を灯す、僕という名のロウソクに対し。
一華さんは火を決して吹き消さないように。慎重に、丁重に扱いながら。《下》からガリガリ喰ってった。これはきついですね。イカれるほどに。
僕の前頭葉は馬に鞭打ち、記憶の渦を呼び起こす。それは、一華さんとの馴れ初め──。
「神様が見つけたっていう、自分殺しちゃんは君のこと?」
「はい。戒名は直一です」
「ふーん。で、君、強いの?」
「自分には負けたことがありませんよ。致死率百パーセントです」
「じゃー試しに」「ぶべ」
「ふむ。どうしてよけなかった?」
「貴方が二発殴ったとして。避けたら一発しか受けられないからです」
「君はウチを救世したいのか?」
「? もうちょっと殴らないと、急逝できませんよ」
「んー。ウチには君のことがよくわからない」
「女の趣味でも語ればいいですか?」
「拳で語り合おう」「ぶべ、ぶべ、ぶべ……。自分語りが好きですね」
「君は語らないのか?」
「僕は聞き上手なもので」
「なるほど。今日から君をカスと呼ぶ。ウチ専用のお話し相手だ」
「僕はひとつちゃんの玩具です」
「ウチは神様の所有物だ。共に切磋琢磨するとしよう」
「自分磨きに余念がないですね。切り磋かれる僕も楽しいです」
「はじめまして。ウチの名前は仇花一華」「ぶべ、ぶべ、ぶべ、ぶべ」
「ところでカスは、Mなのか?」
「はい。モンスターなドMです」
ありし日の思い出。僕の大切な宝物。
なんだこれ。ろくでもない始まりですね。ならば終わりもきっと、ろくでもないのだろうと、そう憂います。終始カス、徹頭徹尾、クソったれ。
ならば僕も、そろそろ昔の様に、怪物性を解き放とう。仮面被りは、うんざりだから。
「ぶべべべべ!」「なっ!?」
僕の吐血、もとい血霧毒霧を、一華さんの顔面に吹きかける。視界を失った彼女は、それでも僕の手をはなすことなく、より握力の強さを増した。
「アン、そろそろお目覚めの時間です」
「ごめん、寝坊助だったのがアン」
ドンと、僕の《手首》がはじけ飛ぶ。アンの《千切れればいいな》が、掌を断捨離させてくれたのです。
と同時に、《再生》も始まるのです。胎児の成長過程を記すタイムラプス映像さながら、僕の拳も、《届く》ころには、玉鋼に鍛錬されているのでしょう──。
一華さんは反応できていない。視力を奪われていることもそうですが、なにより彼女は未だ、《僕の手》を握っているから。その先がないとも知ぬまま。
もちろん感触が異なる違和はあるでしょう。が、答えが導きだされるよりも先に、僕の拳がデリバリー。
「反撃の開始です」
「狼煙をバンバン」
一華さんの膝小僧は撃ち砕かれ、上半身が自然落下を始めます。僕よりも背の高い彼女が落ちる時、僕の拳は一華さんの麗しき顔面を打点とするのです。
インパクト──、できず。
僕は彼女を殴れなかった。代案として髪の毛を掴み取る。
「どうして殴らない?」アンの問いかけ。
「可愛い子は殴れません」
「アタシのことは殴ろうとしてたよね……」
それは情けではなく、僕のポリシー。可愛いは絶対。正義。
「殺すことはできますが」
何が起こったのかわからないご様子の一華さん。彼女が状況把握をするまえに、ケリをつけたいところです。一華さんは上半身のみで、僕を殺すことすらできてしまえる人ですからね。では──。
「死ねばいいなの弾丸バン」
こめかみに血の通り道が鋪装され、脳漿溢れる、ドババババ。
「顔を撃ったのは当てつけですか?」
「イチカに一番似合うコスメは、血だと思うのがアン」
「なるほど、いい趣味してますね」
血化粧彩る一華さんの死体をそっと寝かします。死に面でさえ、至高の域に達する美貌……。
一華さんに捧げる|鎮魂歌《レクイエム》は、荘厳なコーラスと共に、余韻となって消えてった。
「僕達の勝ちです」
「んー、こりゃまいったな。どうすることもできないや」
らしいといえばらしいです。ひとつちゃんの手札、ものの見事にハズレばかり。運が悪い。
「どうしてアンが息を吹き返したのか。それを聞くのは野暮かなん」
「気合で」
「なるほ」
一華さんの敗因はただ一つ。根性論の使い手であるくせに、他人の根性を策に食い込めなかったこと。アンが一華さんと同列の《アホくさ》であると、予想できなかったこと。それだけ。
「時には潔いサレンダーもひつようかなん。優しく殺してくれるかい?」
「そりゃもう。アン、しばらく二人にしてほしいです」
「嫌……」
「ワンさん、たのみます」
僕のお願いに、黙って頷いてくれたワンさんは、アンの治療もかねて、彼女を遠い所へ指し運んでくれました。
最後に一言、「…………、君らこわすぎヨ」という言葉だけを残して。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!