****『アンの嘘』****
「ポーン一号機 №アン。新規プレイヤーのチュートリアルに応じ、《始まりの浜辺》にて参戦。日本人だと思わしき女の子達三人のチーム構成。それぞれ『ナオカズ』『ヒトツ』『イチカ』という名前で、《明日部》というチーム名を掲げて活動していくそうです」
「チュートリアルの初陣戦において、№アンは彼らとの勝鬨に辛勝。明日部から251ポイントを奪取し、№アンはネームドプレイヤーとなりました。このことからも分かる通り、《明日部》はすこし《おかしな》チームです」
「普遍的な初心者とは違い、《ポイント》の価値を重要視していないことからも、《トップ争い》に関わるチームになりうるとは思いませんが、《アスアヴニール》の秩序を乱す可能性は十二分に考えられます。要注意とまではいきませんが、危険因子として取り扱うのが適正です」
「明日部の武力要因『イチカ』は、能力の練度こそ平凡ですが、基礎戦闘能力と闘争本能の高さには目を見張るものがあり、ポテンシャルだけを捉えれば、《サクリファイス》のナイト、いいやビショップ勢をはるかに凌駕していると思われます。のちほど詳細はリストに記入いたしますが、異能も中々の物でした。今後、第一級プレイヤーに追随していく強者に化けるのは、ほぼ間違いないかと」
「明日部の実質的リーダーである『ヒトツ』は、かなり風変りなプレイヤーで、性格が悪……、クレバーです。支配欲が強く、カリスマ性も高い。特にイチカとナオカズからの信頼は絶大で、だからこそ《明日部の弱点》にもなりうるでしょう」
「異能はとても強力、さらに言えば異例です。スペックだけを捉えれば、マイクイーンに比肩しうる潜在能力です。その分、ヒトツ本人の戦闘力は皆無で、なおかつ《両足麻痺》というビハインドもおっています。能力に対する抑止が成功すれば、崩すのは容易かと」
「頭の回転はとても速いようですが、参謀にはなりえないでしょう。なぜなら、これは明日部全体においても言えることなのですが、あまりにも《感情的》過ぎるからです。彼らの優先順位において、《欲求》の占める割合はかなり高く。特に明日部の頭脳であるヒトツはソレが顕著です。強かでいて強情。矛盾を呑み込んだその在り方はとりとめがなく、予想がつかない。折れない心を持っていますが、だからといって強者と見なすのは早計、というのが№アンの所感です。強者ではなく、ジョーカー的な立ち位置かと」
「最後に『ナオカズ』です。身体能力、異能力すべてにおいて凡百。性格面も特筆する点はなく、長所を見つけるのが困難でした。《AIモード》使用時の戦略的な行動は称賛に値しますが、それは別段ナオカズ由来の物ではなく、RPGの特徴なので対処が可能です。あえて言うのなら、イチカとヒトツの緩衝材としての役割が強く、曲者ぞろいの明日部が、それでもチームという形式をとれていられるのは、ナオカズの存在がでかいですね。イチカの衝動を煽り、ヒトツの欲求を受け入れる。《二人の感情》を最優先にしようとする行動指針のおかげで、ガス抜きが成立しており、核が爆発せずに済んでいられるのです。ナオカズの存在意義は、目立つものではありませんが、それでも大きいのです」
「明日部自体は、強力なチームだと現時点では思いません。ポテンシャルはピカイチですから、今後化ける可能性は視野に入れる必要性が十分にあります。が、アスアヴニール最強チームの《天竺》、双璧をなす《サクリファイス》。かつての《仮》のような絶対的強者にはなり得ないかと」
「ただ、前述したとおりアスアヴニールの秩序。現時点での《楽観的和平》を、《崩す》要因になってしまう危険性があるのです。彼らは、《楽しそう》の一言のみで、世界を滅ぼす理由が成立するからです。トリックスターとしての危うさ。№アンはその因子を垣間見ました。もしかすると、三か月後に予定されている《天竺》との《全面戦争》に、何らかの悪影響を及ぼす可能性が懸念されます。その折には№アンが、全力で対処いたします」
「以上で明日部の報告を終わります。№キャーンズ。マイクイーン」
「…………」
「クイーンがお眠りになられた──。さて、ナオカズの《異能》を秘匿にしたことが、どう転ぶのか、今からが楽しみ。鬼が出るか蛇が出るか。どちらにせよ、今後のアスアヴニールは荒れそうだ。いまのうちに日本語の勉強をしておかなくちゃ。早く会いたいな、皆に。彼らとなら、この《クソったれ》な世界を、終らせられる気がするから」
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