「なぁ、魁斗は進路どうすんの?」
前の席に座っている悟が、椅子の背もたれに肘をかけながら振り返り、尋ねた。
「えっと、俺はしょうぼ..」
「え、魁斗も消防士になりたいの!?俺もだよ!」
嬉しそうにニコニコ笑う爽やかなこの男は、俺の親友の中野悟。容姿もさることながら、その明るい性格も相まってまぁまぁモテる。いや、結構モテる。
「あ、いや、どうしようかなって。はは、まだ進路決まってないわ。」
危ない危ない、悟には消防士になりたいなんて言えない。なにせ俺と悟では運動能力も筋肉量も違いすぎるからな。
陸上をやっているため、ゴリゴリすぎない美しい肉体の悟に対して俺は部活に所属していないヒョロヒョロ。そんな奴が消防士になりたいとか言ったら笑われるだろうな。
「そっか、まぁゆっくり悩めよ、俺らまだ高2なんだし。俺は魁斗がどんな夢でも応援する!」
うん、前言撤回。こいつ、かなりモテる。
「でも、魁斗は消防士とか向いてると思うけどな。格闘技とかやってたし。」
「いや、父さんがやってたから無理矢理教えられただけで、習ってたとかじゃないし..」
そう、俺の父さんは現役の消防士なのだ。その姿に憧れて、こんな俺でも消防士になりたいと考えている。
まぁ、からっきし根性のない俺には無理な話だろうが。
「うーん、そっか。でも魁斗、とりあえず進路希望の紙は早めに出さないと..」
「ねぇ魁斗!進路希望調査票出したの!?」
突然、目には美少女、鼻にはいい香りが乱入してきた。
こいつは幼馴染の真白聖羅。名前の通り真っ白な肌をしている美少女だが、性格はちょいきつめで俺の世話をガンガン焼いてくるお節介。
「ごめん、魁斗。紙早く出さないと真白に怒られるって言いたかったんだが。」
「悟、そういうことは早めに言おうねぇ。もう怒られちゃってるからねぇ。」
「やっぱりまだ出してなかったんだ!もう~出してないの魁斗くらいだよ。」
さすが学級委員長。クラスの提出率を把握済みってわけか。え、てかもう俺だけなの?提出明日までだよね?高2で進路聞かれるのも驚きなのに、この学校優秀すぎないか。
「わかったよ。ちゃんと明日には提出するって。」
「絶対だからね。じゃあ私、部活行くから。」
そう言うと真白は弓道の道具を持ち、教室をパタパタと出ていった。
「真白、今度でかい大会あるんだってな。じゃあ俺も部活行くから。また明日な!」
真白に続いて悟も教室を出ていった。まさか、そのいつも通りの明日が訪れないとは思わなかった。
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