「もう1度お願いします、アレクさん。」
その後も幾度となく剣をふるい続けた。しかし、やはりアレクの剣には傷1つもつかない。
ふらりと飛びそうになる意識を繋ぎとめ、なんとか前を向く。
朦朧とする中でなんとなく、隙のようなものが見えた気がした。
あ、切れる。
無意識に、アレクめがけて真一文字に剣を振り切る。
「うわ!」
アレクが初めて声を出した。その瞬間にアレクの剣は炎をまとった。
ガキィンという鋭い音がグラウンドに響く。自分の剣がアレクの炎で焼き切れるのが見えた。
焼き切れた剣の先端が、かなりのスピードでミーサの顔をめがけて飛んでいった。
「ミーサさん!危ない!」
アレクが叫んでいた。
そう認知した瞬間には、俺の拳は飛んでいる空中の剣先をとらえていた。
自分の手に穴が開いてもミーサを助ける。頭にはそれしかなかった。
時間が遅くなったように感じる。ゆっくりとミーサの方へ飛んでいく剣先に狙いをすまし、拳を振りぬいた。
グラウンドは激しい光に包まれた。
「魁斗さん、ミーサさん、大丈夫ですか!」
慌てているアレクの声が遠くから聞こえてきた。
「私は何ともないわ。魁斗平気?」
「あぁ、大丈夫だ。ミーサが無事で良かった。あれ、剣先は?」
見渡すがそれらしきものはない。自分の手も無傷だ。どこかに逸れたのか。
「魁斗が殴った瞬間に、消滅したわ。」
「え、俺が?」
空中の剣がスローになったところまでは覚えているが、そのあとはよく覚えていない。
俺が破壊したのか?素手で?
「アレクの炎で燃え尽きたのかもしれないわね。ものすごい光が出てたし。そんな魔法見たことないもの。」
そうか、俺が殴った瞬間に運よく燃え尽きて、手も無事だったわけか。こりゃラッキーだったな。
「でも吹っ飛んだ剣先に追いつくなんて、とんでもないわ!魁斗、こんな力を持っていたのね!」
嬉しそうにミーサがピョンピョンと跳ねる。
正直、無意識すぎてすごいのかどうかもわからないんだが。
「それはそうと、アレク。」
「は、はい..」
声から、アレクが怯えていることがすぐにわかった。
「素人相手に、あなた魔法を使ったわね?」
「す、すみません。想像以上の太刀筋とスピードで、つい本気で防御してしまいました..」
俺としてはこれ以上ない誉め言葉だ。口に出せる雰囲気じゃないけど。
「言い訳をするのかしら?アレク。」
「い、いえ!決してそんなつもりでは!」
すんませんアレクさん。なんか悪いことしたかも。
「まぁ、幸い誰にもケガがなかったから良かったわ。とりあえず、グラウンド100周行ってきなさい。」
ひゃ、ひゃくしゅう!?お嬢さん、そりゃちょっと言いすぎじゃ..
「かしこまりました。150周行ってまいります。」
いや、行けんのかい!てかなぜ増やす!
「いい心掛けね。じゃあ早速、200周スタート!」
なんでさらに増えるんだよ!結局倍じゃん!
心の中でツッコミを入れながら、80キロに及ぶアレクの長い長いマラソンが始まった。
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