ふぅ、なんとかカレーを食べ切った..緊張で全然入っていかねぇ。
アリサもなんとかパスタを口に運び終えていた。苦しそうだ。
なんでミゲルはカツ丼2杯に春巻き3つも食べてんだ。デザートのジェラートまでいきやがった。
「よくそんなに食えるな。」
「見てるこっちまでお腹いっぱいになるわ..」
アリサと2人でジッとミゲルを見る。
「筋肉の維持には、食べ物が欠かせないからな!」
ミゲルが得意げに答える。
なんでそんなに嬉しそうなんだ。
「2人は出身どこなん?ルデビト?」
唐突にミゲルが聞いた。
この質問はまずい..
「私は北のシロドウから来たの。」
「えぇあの寒いとこから!俺はキオサ村から!こっからずっと西だな!」
いやわからんわからん。北海道とか大阪しか知らんぞ。
「魁斗は?」
悪気なく、ミゲルがこちらに話を振る。
どう答えるべきか。
「あーっと、ち、千葉っていう国ってか県ってか..」
「チバ?聞いたことないなぁ。どのへん?」
ミゲルの真っ直ぐな目が眩しい。
アリサ助けてぇぇ
「まぁ、なんていうか、その..」
なんて言えばいい。
異世界の日本から来ましたなんて、初対面の人間が言い出したら俺はドン引きだ。
「言いたくなけりゃ、いいんだぜ。」
「人生色々あるもんね。」
訳ありだと気がついたミゲルとアリサが言う。
ほんとに優しいやつらだ。
なんか、隠しごとするのも嫌だな。
今日会ったばっかだけど、俺を受け入れてくれる気がした。
「実はさ」
2人がこちらに視線を向ける。
やばい緊張してきた。変なやつと思われて距離置かれたら、結構きついな。
「異世界から来たっていうかさ。その、俺もよくわからないんだけど、日本っていう違う世界にいて、気づいたらここに..」
言葉がうまく紡げない。
反応が怖くて、2人の顔を見ることができない。どう伝えれば..
「なんだそれ。」
ドキッとした。
初めて聞くミゲルの低い声。
言葉が胸に刺さる。サーっと血の気が引いた。
初対面のやつが、突然こんなこと言って受け入れてもらえるわけがないだろ。
俺は何を舞い上がっていたんだか。
表情が怖くて、うつむいた顔を上げることができない。
アリサの声は一切聞こえなかった。
「めっっちゃすごいなぁそれ!魁斗はすごいやつだと思ったよ!はは、まじかよ!」
ガバッと顔を上げる。
満面の笑みでミゲルがこちらを見ている。いかにもワクワクしている輝いた目で。
チラリとアリサを見る。
口元に手を当て、こちらを期待ギンギンの目で見ながら、コクコク頷いている。
正直、ミゲルよりもワクワクしているように見えた。
なんでこんなにいい人達を、少しでも疑ってしまったんだろうな。
「え、魁斗?なんで泣いてんの?」
「食べ過ぎて苦しくなっちゃった?」
2人に言われるまで気が付かなかった。
俺はなんで泣いているんだろうか。
恥ずかしい、人前なのに抑えることが出来ない。
「いや、なんでもない!向こうの世界の話、聞いてくれるか?」
俺の面白くもない現実世界の話を、2人はうんうんと楽しそうに聴いてくれた。
一切疑っていないのが、痛いほど伝わってきた。
こっちの世界で素敵な仲間ができたことが、何よりも嬉しかった。
『試験の合否を張り出します。志願者はお集まりください。』
楽しい時間はあっという間で、緊張も薄れながら合否の時間を迎えた。
アナウンスで再び現実に引き戻される。
「行くか。」
2人に声をかける。同時に頷いた2人と共に大広間へ向かった。
すでに大勢が集まっていた。みんな表情が強張っているのがわかる。
「まずは、魔法使いから発表する。」
王家の者だろうか。50歳ほどの男が大きな紙を持ってきて、壁に張り出した。
なんだか日本の受験のようで、妙に親近感がある。
魔法使いの合格者は、4名だった。
歓声とため息が一気に溢れ出す。300人ほどいて、4人しか受からないのか。
しかし、一向に戦士の発表がない。
会場もざわめき始めた。大広間の大きな扉の向こうからは、揉めている声すら聞こえてくる。
「どうしたんだろうな。」
ミゲルが声をかけてきた。さすがに緊張の面持ちをしている。
魔法使いの合否が発表されてから、10分ほど経っただろうか。
ようやく先ほどと同じ男が、大きな紙を持って張り始めた。
ついにか。
鼓動が速くなる。何もできなかったとは言え、やはり期待してしまう。
頼む頼む頼む。
戦士の合格者は7名だった。
その中に【449】はなかった。
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