確かにこれは無理かもな。
1体でも到底勝てない上位魔獣が2体。絶望するのも当然だよな。
「ごめんよネル。守ってあげられなくて。」
「私、どっかで自分のこと強いと思ってたんだ。それが今はただ泣いてるだけ。私の方こそ、ごめん。」
氷のドラゴンが着陸したのを確認すると、炎のドラゴンも動き始めた。
そっか、ただ仲間を待ってただけなのか。
ゴウッと炎を吐くドラゴン。
諦めたはずだったのに、体が咄嗟に動いた。地面に寝そべり、ギリギリで炎をかわす。
「魁斗、諦めてないんだね。」
泣きながらヘラが笑った。
諦めていても死ぬのは怖い。泣き笑いの表情をしているヘラを見て、なんだか笑えてきた。
「そうだね。諦めてないかもしれない。」
死ぬまで抗ってやるさ。諦めないって決めたから。
目の前に迫る氷のブレス。防いだのはヘラの魔法だった。
「私も諦めない!絶対に2人で生き延びよう。」
ヘラはもう泣いていなかった。
そうだ。諦めるのなんて、いつだってできる。
ヘラが背中から降り、再びルデビトに向けて走り出す。
「でも、どうやって逃げる?俺、魔法なんて使えないし..」
「そんなん分かんない!とにかく走ろ!」
魔獣は微塵も本気を出していない。迫る炎や氷も、かわすか防げるレベルだ。
俺らをいたぶって楽しんでいるんだろう。
それでもこちらにとっては致命傷。逃げ道などない。
「あぁっ!」
ヘラの悲鳴。振り向くと後ろを走っていたはずのヘラがいない。
「魁斗!魁斗ぉ!」
上だ。氷のドラゴンの手に捕まっている。
「くそっ!ネル!」
氷のドラゴンの足元へ走り、剣を引き抜く。
「離せ!ネルを離せよ!」
ドラゴンの足を無我夢中で切りつける。が、傷1つつかない。
そりゃそうだ。魔法も何もない、ただの剣を振り回しているだけなのだから。
「ぐあぁぁ!」
真上から聞こえる悲鳴。このままじゃヘラが握りつぶされる。
「離せ!離してくれよ..」
涙が出てきた。なんて無力なんだ。こんなに近くで苦しんでいるのに剣を振り回すことしかできない。
「ネル、ごめん。ごめんよ..」
ヘラの目の前でドラゴンが大きな口を開き、ブレスのエネルギーをためる。
とどめをさすつもりだ。
「魁斗、勇気づけてくれて、ありがとね。」
ヘラめがけて、氷のブレスが放たれた。
くっそ!
ごめんごめんごめん。
助けられなかった。目の前で苦しんでいたのに。
ボトッと落ちてきた黒焦げの物体。
直視なんて、できない。
「やっぱり魁斗だよな?ごめんな、遅くなった。」
は?
生まれてから、これほど驚いたことはないだろう。
どういうことだ?見間違いか?
いや、俺が見間違えるわけがない。
その声とその顔。絶対に忘れることなんてない。
そこに立っていたのは、中野悟だった。
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