「初見だからね。どうしても慎重にならざるを得ないよ」
アンダーテイカー同士の戦いは、ペルソナとの戦いとは全く異なる。ペルソナにはタイプごとに対応すべき戦術があり、そのいずれかの戦術においても、アンダーテイカーや兵士は“集団で行動することが前提”とされている。一対一というのは非常時を除いて推奨されておらず、各戦闘員は各担当部隊との合流が何よりも優先されるため、「能力」の扱い方も自然と“集団”を想定した方向性に強化される傾向にある。そのため、この交流戦で想定される戦いは、「対ペルソナ」の戦術を想定している教育としては、理に反しているように見えた。非常時や緊急時の特殊なケースを除き、一対一という状況が想定されない以上、実践形式とは程遠いシチュエーションになるのではと感じたからだ。しかしこの交流戦では、対ペルソナ戦術に於ける基本的な心構えと、それに準えたガイドラインが盛り込まれているそうだった。それは例えば、SPの扱い方も然り…
相手の生徒、岸谷零士は、合図が鳴ると同時に姿を消した。粒のように空間の中へと分解していき、数秒も経たないうちに見えなくなった。砂粒が風に運ばれていくような、ぼんやりとした“柔らかさ”を伴いつつ。
「変化系の能力者だね」
「わかんのか!?」
いまいち知識が追いつかない。変化系の能力者。ペルソナと同じくアンダーテイカーにもそれぞれ「系統」が存在するが、大きく分けて以下のようになる。
■ 肉体系(身体系)…肉体を強化し、身体能力の向上を主体として戦う者
■ 精神系(生命系)…頭の中のイメージを具現化し、エネルギーを放出して戦う者
■ 変化系(知脈系)…肉体と精神を分離し、周りの環境を利用しながら戦う者
「変化系」とは、わかりやすく言えば肉体と精神を“限られたスペースの中で分離することができる”もので、例えば、自らの体を水に変えたり、鉄のように硬くなることもできたりする者たちのことだった。風香の相手がどんな「タイプ」の変化系かはさておき、何かに“変化”したってことだよな…?
「みたいだね」
「どこに行ったんだ??」
「風香は気づいてると思うよ。消えたように見えるけど、実際は「消えた」わけじゃない」
風香はリズムを崩さない。敵が見えなくなっても、動きは変わらなかった。地面を飛ぶように軽快にステップを踏みながら、全身の力は抜けている。もし俺が彼女の立場だったら、あんなに落ち着いてはいられない。どこに行ったかマジでわかんないんだ。目を凝らしてみたけど、ダメだった。
風。
周囲は無音とは言わないまでも、空気が凍りついたように息を潜めていた。フィールドは広い。たった2人の人間が動くには、十分すぎるほどに。…ただ、なんだろう。目の前にあるフィールドの広さ以上に、空気の流れが透き通っているような感じがした。そこに「息苦しさ」はなかった。変な話だけど、妙に透けていく時間があったんだ。水のような滑らかさがありながら、それでいて——
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