出来損ないの人器使い

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14話「リリスの憂鬱4」

公開日時: 2021年1月25日(月) 01:36
文字数:1,860

 リリスの想いを聞いた時、シロはまるで頭をを殴られたかのような衝撃を感じていた。


 人器がなく、差別された過去。

 自分が誰かも分からず、ただ居場所を探していた。


 リリスの想いは誰よりも分かるはずだったのに、それに気が付けない自分が悔しかった。


 そんな自分に出来る事は何か?


 気が付いたらリリスに手を差し出していた。


 彼女の手が触れた瞬間、シロの中にリリスの感情が流れ込む。


 予感はあった。


 シロは魂を注ぎ込む時、相手の魂の器の形が僅かに見える。

 それは揺れ動く感情そのもので、ことあるごとに形を変えるのだ。


 しかし、アリスとリリスはその器の形が似ている。そう思うことがあった。


 今、シロの目の前にはアリスとリリス2人の心の形がある。


 これを1つにするんだ……


 あんなに心優しいリリスを……

 あれだけ妹想いのアリスを……


 泣かせるわけにはいない!


 じいさんに与えてもらったものを……今僕がリリスに与えるんだ!


 幼馴染みの少女を想う少年は見た。

 鈍色の髪の少年の人器が形を変えていくのを。


 シロの両手に握られていたのは。

 アリスとリリスの魂。

 シロには見たこともない人器であったが、2人が教えてくれる。


 それは、銃という失われた兵器。

 その銃身は金。持ち手は青。

 アリスとリリスが融合して誕生した人器、二丁の銃であった。


 シロは静かにその銃口を少年に向け引き金を引く。

 打ち出された弾は少年に当たり、光り輝く水となって足を覆う。


「え!?」


 一瞬リュバルは驚いた表情を見せるが、すぐに足の痛みが消えていくことに気が付く。


「大丈夫。ちょっと待ってて」


 少年が不安にならないように優しい口調でシロは語りかける。


 周囲を囲う狼はシロのただならない気配を察したのか、茂みの中に身を潜めたまま姿を見せない。


 シロは両腕を広げながら2つの拳銃を構え、気配のする方に数発引き金を引いた。


 ダンダンダンダンダン!!


 雨音を掻き消すかのように銃声が響く。

 リリスによって生成された水弾はアリスの雷によって加速し、雨の滴を切り裂きながら狼を襲う。


「ギャッ!ギャッ!キャンッ!」


 茂みの中から狼の悲鳴がいくつも聞こえてる。


「……行ったかな」


 予想外の攻撃を受けた狼の群れは逃げていったのだろう。

 もう気配は感じられない。


「すごい……」


 シロの背中を見ていたリュバルは感嘆の声を上げる。


「大丈夫?もう立てるね?」


 リュバルにとって、そう言いながら振り返るシロの姿は、言いようがないくらい美しく、カッコ良く見えた。


 ◆◆◆◆◆◆


 その夜ーー

 アリスとリリスは教会の礼拝堂の椅子に座っていた。

 正面には蝋燭によって照らされたティーレの石像がゆらゆらと影を作り出している。

 既に雨も上がっているため、聞こえるのは微かに響く虫の鳴き声だけ。


 2人に会話はなく、沈黙が2人を包んでいた。


「リリス……アンタがそんなこと思ってるなんて知らなかった…… 」


 沈黙をアリスが破る。

 アリスはただ、蝋燭に照らされるティーレの石像を見つめている。


「姉さん……ごめんね」


 リリスは極度の恥ずかしがり屋であるが、姉と2人の時は普通に喋ることができる。


「私、恐かったの……姉さんが居なくなったら私には何も残らないから……」


「リリス……」


「分かってる。分かってるの……これは私の我がままだって。それに、人器になった時に感じたの。姉さんがどれだけ私を大切にしてくれているか……」


 リリスも揺れる石像に視線を向ける。


「私達……ずっと一緒ににはいられないんだよね……」 


「そんなこと!!」


 アリスはリリスに視線を向ける。リリスの長い前髪から大きな瞳が覗く。


「ううん……いいの。でも、シロさんが私に居場所をくれた。ここに居ていいって言ってくれた」


 リリスはゆっくりと立ち上がる。


「私、シロさんが好き」


「!?」


 アリスは目を丸くする。


「だから……姉さんには負けない」


 リリスのその言葉には強い意志が込められていた。

 シロに出会ってアリスが変わったように、リリスもまたシロに出会って変わったのだ。


 それを感じ取ったアリスは口元が一瞬緩む。


「……いい度胸じゃない!」


 アリスはバッと立ち上がり、リリスに向かって仁王立ちをする。


「私に勝負を挑むなんて百年早いってこと思い知らせてあげるわ!」


「えー、でも姉さん……私にその胸で勝負を挑むのは百年早いと思うんだけど……」


 リリスはアリスのささやかに膨らんだ視線を向ける。


「ぐっ……煩いわね!!大体あんたは……」


 その夜、遅くまで2人の笑い声が礼拝堂内にこだましていた。


 いつまでも3人一緒にいる事は出来ないかもしれない。

 でももう少しこのままで居たい。

 リリスはそう願っていた。

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