出来損ないの人器使い

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第1章

0話「プロローグ」

公開日時: 2021年1月24日(日) 16:13
文字数:937

 約20年前、世界は激変した。

 それは、魔物と呼ばれる存在が東の果てから現れ、人々の生活を脅かしたからだ。

 争いのない世界で暮らしていた人々は戦う力を持たず、いくつもの国や街が魔物に蹂躙された。

 世界は住む場所を追われた難民にあふれ、人々は魔物に襲われる恐怖に震えていた。

 しかし、滅ぼされることを待つことしか出来なかった人々に希望の光が現れる。

 それは、後に救世主と呼ばれる4人の少年少女。

 救世主は自らを武器に変えることで超常的な力を振るい、多くの魔物を討伐した。

 そして、この戦いを終わらせるために東の果てへ旅立った。


 人々は救世主が世界を救ってくれると信じて待ち続けた。

 そして数か月後、その時が訪れる。

 ある日、人々は東の果てから天に上る光の柱を目撃した。

 その柱から漏れ出た光の粒子が雨のように降り注ぎ、世界中を覆う。

 光の粒子は人々の体の中に吸い込まれ、消えていった。


 それがこの世界に生きる人々の転機となる【救済の光】と呼ばれる出来事である。


 その光が人々にもたらしたもの、それは【人器化】という能力。

 救世主が用いた戦い方と同じく、自らを人器に変換し他者がそれを行使する。

 この能力によって、ある者は人々魔物に対抗する力を、ある者は大切な人を守る力を手にしたのだ。


 しかし、旅立った4人の救世主は誰一人として帰ってこなかった。


 救済の光とは何なのか。

 なぜ人々が人器化の力を得ることになったのか。

 そしてあの日、東の果てで何が起きたのか。

 誰も知る由もない。


 これは、この世界に住む人間であれば誰でも知っている物語。


 人々は、4人の少年少女を創生の女神ティーレが遣わした救世主と称え、今の生活があるのは救世主が起こした奇跡のお陰であると信じている。


 でも、僕は救済の光が奇跡とは思わない。

 救世主に感謝もしない。


 人々が自らを形作る人器は、その人自身の魂が反映されると言われている。

 ある人は、人器の能力はその人の潜在能力が反映させていると言った。


 そんなことはどうでもいい、僕には関係ない。


 ……だって、僕には人器がないのだから。


 でも、僕はここにいる。意志を持ち日々を生きている。

 人器が魂を形作るものだとしたら、僕の魂はどこにあるのだろうか。


 だから僕は旅に出る。

 何者でもない僕が、いつか何者かになれることを信じて。

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