「とうちゃーく!!」
ナイが走りながら勢いよくギルドの中に入って行く。
「やっと着いたんだね」
ウェステの村を出て10日程しか経っていないのだが、エヴィエス、ナイ、フィオ、ウタ様々な出会いがあった。
旅立ったのが随分遠い昔のように感じる。
「ギルドの本部なんだからもっと立派な建物だと思ってたけど、私達の宿と大して変わらないのね」
「そうなのよね。でも、動かせない理由があるのよ」
「そうなの?どんな理由?」
「秘密。でもまあ、アリス達はすぐ分かることになると思うわ」
アリスとウタがギルドを見上げながら普通に会話をしていることをシロは不思議そうに見つめていた。
ウタと一緒に居たいと伝えた時、2人は絶対に反対すると思っていた。
それでも謝罪に謝罪を重ねて納得してもらうしかないと決意していたが、実際自分の想いを伝えると拍子抜けするほどあっさりウタを受け入れたのだ。
その後、3人だけで話をしたいというアリスの申し出を受け入れ、シロから少し離れた場所で短い会話をしただけだった。
何の話をしたのかは分からないが、それ以降アリスとウタは普通に会話をしている。
「シロさん、行きましょう」
「うん、リリス。行こうか」
シロはギルドの門を潜った。
ギルドの中はウェステと変わらず、開けたスペースの奥にカウンターが置かれている。
ウェステと大きく違うのは人器使いの人数の差だ。
数十人の人器使いが依頼書を眺めたり、談笑したりしているのでかなり活気がある。
「流石、ケントルムね。ウェステとは偉い違いじゃない」
確かにウェステではいつも閑古鳥が鳴いており、同じギルドとは到底思えない。
「そうだね。えっと……ラウドさんに会うにはどうしたらいいのかな?」
「んー、まずは職員に聞いてみるのがいいんじゃないかな」
「そうだね。行ってみよう」
シロ達がカウンターに数歩進むと、これまで思い思いの行動をしていた人器使い達が一斉に静まり返り取り囲むように視線を向けた。
「え!?なんなの?」
その視線にアリスがビクッと反応する。
注目されることに慣れていないリリスはサッとアリスの背中に隠れてしまう。
さっきまでの活気に満ちた空間とは打って変わって気まずい空気が流れるが、その理由はすぐに判明した。
「……ウタだ」
「ウタ……なんでここに……」
「ウタ……」
人器使い達は皆、ウタに視線を注いでいたのだ。
「そこ……どいてもらえる?」
人器使い達から注がれる無数の視線を気にすることなく、ウタはゆっくり、そして通る声でカウンターまでの道を開けるように促す。
するとカウンター迄の道を塞いでいた人器使い達がサッと退き、道ができる。
「さぁ、ダーリン。行きましょう」
ウタは周囲に見せつけるようにシロに腕を回した。
「ダーリンだって……あのウタが?」
「信じられない……」
「あの男が?何者?」
ウタのその行動で今まで彼女に注がれていた視線が全てシロに降り注ぐ。
「ねえウタ……すごい注目されちゃってるんだけど……」
「当然よ。だってダーリンは最強の私のダーリンなんだから」
「最強って良く自分で言えるわね……まあいいわ。さっさと行きましょう」
ため息混じりのアリスがカウンターに進むようにシロを促す。
「みんなどうしたの?」
異様な空気を察したギルド職員がカウンターへ開いた道へ歩み出る。
その女性は緩やかウェーブがかかった長い栗色の髪で優しげな顔立ちの美人。
シロにとっては忘れる事は出来ない人物の1人であった。
「カーミラさん!」
「あら?シロ君。待っていたわよ」
驚きの声を上げたシロに気が付いたカーミラはいつもと変わらない優しげな微笑みを向けた。
「やあ、カーミラ。久しぶりだね」
「ウタ……この騒ぎはアナタが原因だったのね……」
「私のダーリンを見せつけてやろうと思ってね」
「はぁ、シロ君……とんでもないのに絡まれちゃったわね……」
カーミラは腕を組みながら頬に手を当て、憂鬱げな表情を見せる。
「とんでもないって心外だなぁ。私は女としても超一流だぞ。今夜試してみない?ダーリン」
「あ……えっと……」
「まあ、コイツは放っておいてカーミラさん。何でここに?」
「アリス!この私に向かって失礼だぞ!」
「まあまあ……僕も気になってから……」
ウタに付き合っていたら話が進まないと判断したアリスがカーミラに質問をする。
それが気に入らないウタがアリスに文句を言っているが彼女は気にする素振りすら見せない。
「アリスにリリス。2人とも元気そうでよかったわ。貴方達が旅立ってからケントルムに異動になって今ではここで働いてるのよ」
「えっ!?でも、早すぎじゃ……」
シロ達がウェステの街を旅立って10日。
途中戻ったりしたため、時間のロスはあったが概ね順調な旅路だった。
シロ達より遅く出発したカーミラが早く着いているなどシロには考えられなかった。
「それはね……ヒミツ」
カーミラは人差し指を唇に当てながら片目を閉じた。
ここで長話するのもアレだから、上に行きましょうか。ラウドも待っているわ。
カーミラはカウンターの横にある階段に上がるように促す。
「えっと、シロにアリス、リリスは行くわよね?ウタも来るの?」
「当然!私はダーリンの嫁だぞ!」
「いや、嫁じゃないから……」
これからずっとこのやり取りが続くのだろう。それを感じ取ったシロはため息混じりで答える。
「あとは……えっと……?」
「あっ、私はエヴィエスです。それにこいつはパートナーのナイ。シロと旅を同行させてもらっています」
「ナイでーす!」
いつの間にかエヴィエスの隣に移動していたナイがいつも通り右手を大きく上に上げる。
「カーミラさん。2人もついて行っていいかな?友達なんだ」
「へぇ、シロ君に友達ね……」
カーミラは髪を切ってくれた時と変わらない優しさに満ちた眼差しをシロに向ける。
「分かったわ。じゃあちょっと多いけど5人で行きましょう」
シロはカーミラの後について階段を登る。
もしかしたら自分の答えの手掛かりがあるのかもしれない。
そう考えると嫌でも胸が躍る。
いつの間にか他の人器使いから浴びせられる視線は気にならなくなっていた。
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