異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

116話 轟雷 -3-

公開日時: 2021年1月22日(金) 20:01
文字数:2,429

「とりあえず……望むと望まないとにかかわらず、領主の娘を強要されてきたエステラと、当時はギルド長でもなくなんの責任もなかった、がむしゃらに無茶をやれた一般人を同列で語るのはフェアじゃない。それは、分かるよな?」

 

 間に割って入ってきた俺を見て、メドラが目を細める。

 

「状況が違えば、甘えが許されるとでも言うのかい?」

「甘えじゃねぇ。制約だ」

「違うもんかい」

「まったく違う」

「ガキじゃあるまいし……、やる気になって出来ねぇことなんてぇのがあるのかい!?」

「じゃあテメェは、『絶対に死ぬな』という条件付きでもう一回同じ人生歩めんのか!?」

 

 メドラが、黙った。

 

「命を顧みず、無茶を出来る人間はそりゃ強ぇさ。弱点がねぇんだからよ」

 

 それは、命を顧みず無茶をやり続けた俺がよく知っている。

 

「エステラが躊躇うのは、悩むのは、こいつが女だからじゃない。弱いからじゃない! ましてや甘えでもなければ中途半端だからでもない!」

 

 一歩、大きく足を踏み出す。

 俺より一回り以上デカいメドラに、こっちから喰ってかかる。距離を詰める。顔面を近付けて、至近距離で睨みつける。

 

「こいつの背中には領民の暮らしと、幸せと、穏やかな時間が守られてんだ。テメェみてぇな身軽な人間と一緒にすんじゃねぇ!」

「…………ぐぅ」

 

 ぐぅの音しか出ねぇか?

 だが、まだあるぜ。逃がさねぇぞ。

 

「お前は言ったな? リカルドをガキの頃から知っている、あいつは意味なく人を憎むしみったれじゃない」

「あ、あぁ。言ったさ。それがなんだい?」

「しみったれじゃないから……なんだ?」

 

 テメェが省略した言葉を言ってみろよ?

 まぁ、言わなくても分かるから無理して言う必要はねぇけどな。

 

 リカルドはしみったれたヤツじゃない…………だから――

 

 ――どうせ、お前が何か悪いことをしたんだろう? そうに違いない。

 

「テメェは、エステラのことをどれだけ知っている?」

「…………」

「言えよ。どれだけ知ってる?」

「……知らないよ。何もね」

「俺も、リカルドのことは何も知らねぇ。だが、エステラのことはよく知っている」

 

 そうだとも。テメェがリカルドを知っているというくらいには、俺はエステラのことを知っている。時間的な積み重ねでは負けるかもしれんが、俺はこいつといくつも修羅場をくぐり抜けてきた。テメェはあるか? リカルドと二人で、自分よりデカい組織に立ち向かったことが? 街を破壊し尽くすような絶望的な災害に立ち向かったことが?

 

「エステラは、テメェの身可愛さに自分を正当化するようなくだらねぇヤツじゃねぇ。俺がこの目で直に見たリカルドの態度は、明らかにヤツの落ち度だ! 相手に敬意を払えないしみったれのすることだ! こいつは俺が実際この目で見て感じたことだ、その場にいもしなかったテメェに反論させる気はねぇ!」

 

 散々偉そうに語ってくれたよな、クソババア。

 だがどうだ?

 結局テメェも一緒じゃねぇか。

 自分で見たものしか信じられない、視野の狭い唐変木だ。

 

「メドラ。お前は自分の目に相当自信を持っているようだな。だってそうだろう? 幼い頃から見てきたリカルドがどんな人間なのか、相手の意見を叩き潰してまで自分の意見を押しつけ、叱責までしたんだ。いい加減な気持ちじゃここまで出来ねぇよな?」

「何が言いたいのかは知らんが、アタシはこの腕だけでここまで上り詰めた女さ。逃げも隠れもしないよ。自分の発言、行動、それらのすべてに責任を持っていると断言してやるよ」

 

 潔し。

 ならば……

 

「筋が通ってないのはお前の方だ」

「どういうことか説明をしてもらおうか」

 

 この話は長くなる。

 俺は一度メドラの前から離れ、少し距離を取る。

 張り詰めていた空気がほんの少しだけ緩和される。

 

 エステラと目が合う。……そんな顔すんな。

 お前は間違っちゃいない。俺はそう思っている。

 だから、お前の正しさを、俺が証明してやる。

 

「狩猟ギルドの構成員を、四十二区へ寄越したのはお前か? それともリカルドか?」

「アタシだ。だが、その前に。他区の領主には敬意を払いな。呼び捨てにするヤツがあるかい」

「リカルドが尊敬に値する人物だと証明してくれたら、考えてやるよ」

「ふん…………で、ウチの連中がなんだって?」

「街門の視察に来たんだよな? そして、その結果、ウッセ・ダマレたちに圧力をかけた」

 

 こいつははっきりさせておかなければいけないことだ。

 そうでなければ、この話は終わらない。

 

「あぁ、そうさ。視察の結果、四十二区の街門は四十一区を脅かすと判断された。だから、ウッセの坊やに待ったをかけたんだ」

 

 あのウッセが坊やって……

 

「判断基準を聞いてもいいか?」

「トルベックが絡んでいやがったからね。どう見たってありゃあ、四十区と四十二区が、四十一区を除け者にして建設している門だった。そこから生み出される利益は双方に分配され、間に挟まれた四十一区は搾取されていく。バカでも予想できることだ」

「それはっ!」

「エステラ」

「…………うん」

 

 違うと訴えたかったのだろうが、今は黙っていてもらう。

 そんなことじゃないんだ。正論じゃ、納得しないヤツだっている。

 こいつは、自分がこうと思い込んだら周りが何を言おうと聞きゃしない、そういうヤツなんだ。

 

「それで、ウッセに圧力をかけ、門の建設を中止させようとした……」

「中止でなくとも、きちんと筋を通して、話し合いの場が持たれれば、協力してやってもいいとは思っていたさ」

「カエルになりたいのか?」

「……どういう意味だい?」

 

 メドラのこの反応……やはりそうか。

 こいつの性格はきっと、見たまんま、表も裏も無いのだろう。

 だから引っかかっていた。なぜこいつがあんなことをしたのか……でも、今の反応で納得だ。

 

「お前は話し合いなどする気はなかった。ご自慢の武力で四十二区をぶち壊したかった。そうだろう?」

「決めつけんじゃないよ! アタシがいつそんなことをしたってんだい!? 武力ってんなら、あんたらの方だろうが! 軍備を拡張なんぞして……!」

「その情報……どこから得た?」

「え?」

 

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