異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

321話 洞窟の調査 -2-

公開日時: 2021年12月19日(日) 20:01
文字数:3,533

 ナタリアが肩から提げていた大きなカバンから、いつものメイド服が出てきた。

 嵩張るよなぁ。あのふわふわのスカートとエプロン。荷物のほとんどがメイド服だ。

 

「……おや?」

 

 メイド服を手に、ナタリアが首を傾げる。

 

「どうした?」

「いえ、カバンの中に下着が入っておりませんで……」

 

 あぁ、いるいる。

 水着を着てきちゃって下着忘れてくるヤツ。

 下に水着着てきちゃったあるあるだな。

 

「……ヤシロ様…………じぃ~」

「取ってねぇわ! つか、俺はそのカバンに指一本触れてねぇだろうが!」

「ヤシロ、君……ついに触れることなく下着を……」

「出来るわけねぇだろ!? え、バカなの主従揃って!?」

 

 そんなことが出来るなら、今頃俺の部屋は街中の巨乳美女の下着で溢れ返っていることだろうよ!

 

「仕方ありませんね。水着の上から着るとしましょう」

「今日一日、ずっと気持ち悪いと思うぞ」

 

 水着と下着は似て非なる物。

 やっぱり快適さは雲泥だ。

 

 ……というか、メイド服の下が水着だと思うと、なんか……ちょっとエロいな。

 今日一日、ナタリアのことを変な目で見てしまいそうだ。

 

「では、時間もありませんので――」

 

 と、おもむろにメイド服を着始めるナタリア。

 

「いや、待て待て! ここで着替えるのかよ!?」

「はい? いけませんか?」

 

 いけませんかって……

 いけなくはないが、なんだかとってもイケナイ気がしてしまうわけなのだが!?

 

「脱ぐわけではありませんし、それに、水着はすでにここにいるすべての人が見ているわけですから、問題はないでしょう」

「お……おぉ、そういうもん……か?」

 

 本人がいいというのならいいのだろう。

 規律や風紀にうるさいエステラも特に苦言を呈する様子もないし。

 女子的には「着る分にはOKみたいな~?」って感じなのだろう。

 むしろ「そんなことでいちいち意識するとか、エッロ! 思春期~!」な感じなのだろう、きっと。

 よし。気にしない。

 俺は気にしないぞ!

 

 しゅるしゅると、衣擦れの音をさせてナタリアの体がメイド服に包まれていく。

 なるほど。

 なかなか見慣れない光景ではあるが、肌が少しずつ隠されていくのだから、別にエロくはないのか。なるほど、なるほどねぇ~。

 でもなんでだろう、チラ見が止まらない。

 この胸の高鳴りはなに? これがロマンティック?

 あぁ、ロマンティックが止まらない。

 

 メイド服を着込み、襟元をピシッとさせたナタリア。

 次は黒いストッキングを手に取り、前屈みになって右のつま先をその中へ入れる。

 そこから「すすす~」っと、ストッキングを滑らせて、太もも付近まで手を移動させる。

 その際、ふわっとしたロングのスカートがたくし上げられて、細くしなやかな脚線美がむき出しになって――

 

 

「「「エローい!」」」

 

 

 世界の中心でエロと叫ぶ。

 

 俺以外にも、その場にいたメンズの半分以上が声を揃えて歓喜と感謝を叫んだ。

 

「なるほど。どうやら着衣であっても、変態紳士たちの前ではエロスに相当するようですね。以後気を付けるように致しましょう」

「ヤシロ……」

 

 なんでか俺だけが怒られた。

 

「ヤシロさん。……帰ってきたら懺悔してください」

 

 だから、なぜ俺だけが!?

 

 そんな理不尽に世の不条理を嘆いていると、マグダについてにっこにこ顔のアルヴァロがやって来た。

 

「軍師~!」

 

 なんでか懐かれてんだよなぁ。

 

「ご指名ありがとうだゼ!」

「お前はホストか」

「なんだゼ、それ? 強いって意味か?」

 

 うん、全然違う。

 

「……アルヴァロ。洞窟の中は何が起こるか分からない。いつも以上に集中して、ヤシロたちを守って」

「おう! 任せておくだゼ、マグダ!」

「……マグダ『さん』」

 

 おぉう!? マグダがさん付けを強要している!?

 

「あはは、なに言ってんだゼ、マグダは。オモシロ娘だゼ~」

 

 片や、一切気にしていない様子!?

 なだろう、トラ系獣人族って、良くも悪くも自分を崩さないよなぁ。

 

「おっ! 給仕長も一緒に行くんだゼ? こりゃあ、ラッキーだゼ!」

 

 ナタリアを見て、嬉しそうに尻尾をぴーんっと立てるアルヴァロ。

 え、まさか、お前ナタリアを狙ってんのか?

 

「あんたはすげぇ強いって噂だゼ。いつか手合わせ願いたいと思ってたところなんだゼ!」

「それは光栄ですが、今回はそのような時間も余裕もありません。後日、日を改めてお誘いいただければ一考致します」

「やっただゼ!」

 

 まるでデートの誘いに成功した男子高校生みたいな喜びようでアルヴァロが諸手を挙げて吠える。

 ……バトルマニアめ。

 

「なんでもいいが、ナタリアに怪我させんなよ」

「ははっ! 給仕長はちょっとやそっとじゃ怪我なんかしないだゼ」

 

 お前が言うなよ。

 ろくにしゃべったこともない程度の関係のくせに。

 お前がそんな認識なら、ナタリアが怪我する確率上がるじゃねぇか。

 

「……俺も見に行くかな」

「おぉー! 軍師も来てくれるだゼ!? くぅ~! 給仕長のパワーに軍師の頭脳が合わさったら、オレじゃ歯が立たないかもしれないだゼ! ワックワクするだゼ~!」

 

 俺の参加も喜んでやがる。

 というか、ナタリアにOKもらった時より喜んでないか?

 お前、どんだけバトルマニアなの?

 しかも、自分が不利になるほど楽しそうで……え、ドM?

 

「私を心配してくださるのですね、ヤシロ様」

「ん? ……まぁ、お前に怪我をされると、いろいろ仕事が滞るからな」

「夜のソロ活動などが、ですね?」

「おぉーい、アルヴァロ。とりあえず、一発殴って黙らせてくれ」

 

 お前はどんどんレジーナゾーンに踏み込んでいってるよな!?

 自己肯定が高くて行動的なレジーナとか、迷惑極まりないからな!?

 レジーナはすでに手遅れだが、出不精で人見知りだからまだ被害が抑えられてるってところあるからな?

 お前が完全レジーナ化したら、それもう討伐対象だからな!?

 

「そうそう気軽には出来ないだゼ、軍師」

 

 両手を広げて「ちゃんと準備してから挑まないとなぁ~」と肩をすくめるアルヴァロ。

 ナタリアの評価って、そこまで高いのか?

 純粋な戦闘力ならアルヴァロの方が上だろ? だって、狩猟ギルドトップ5に入る実力者だよな?

 

「給仕長は、ママが『手強い』って認めた人なんだゼ」

「メドラのメガネに適うレベルなのか、ナタリアは!?」

「そうだゼ! 四十二区に行く度に『あの給仕長は手強い』『油断すればやられる』って言ってるだゼ」

 

 そこまでか!?

 メドラを凌駕するほどなのか、ナタリア!?

 

「なんでも、『顔もスタイルもよくて、何より乳がデカい。その上、そのデカい乳の使い方を熟知しているあの給仕長が一番手強い相手なんだからねっ!』だそうだゼ」

「なんで最後ツンデレ入れたんだ、あの魔神!?」

「軍師の好みなんだゼ?」

 

 あぁ……また変な噂が既成事実化されている……

 

 っていうか、『手強い』の意味が違うし、そもそもナタリアはそういう武器を使って何かしてきたりはしてねぇよ、お前と違ってな!

 

「あぁ……水着で締め付けられて、胸が苦しいです……誰かさすってくれる人はいないでしょうか……」

「しょうがないな、さぁ、こっちを向いてごらん」

「ヤシロ、刺すよ?」

「……加勢する」

 

 まて!

 エステラだけでも必死かならずしぬなのに、プラスでマグダはオーバーキルが過ぎるだろう。

 

「もう、ヤシロさん。船の上でも懺悔してください」

 

 なんか、懺悔の時間が延長された。

 この流れ、俺に非は一切ないと思うんだが……

 

「アルヴァロさん。ヤシロさんたちを、よろしくお願いしますね」

「おぅ、あねさん。任せておくだゼ! オレがちゃんと守り切ってやるだゼ」

「では、今日の夕飯は是非陽だまり亭にお越しください。感謝の気持ちを込めてご馳走させていただきます」

「そりゃあ、楽しみだゼ!」

「好きな物があればなんでも言ってくださいね」

「じゃあ、お子様ランチを食べてみたいだゼ!」

 

 子供か。

 

「では、……今回だけ特別にご用意しますね」

「やったぁー! オモチャもつけてくれだゼ!」

「はい。旗も、狩猟ギルドの旗をご用意しますね」

「やる気出ただゼ! さぁ、早く行くだゼ、軍師!」

「俺らは、こんなお子様脳に守られるのか」

「まぁ、腕は確かだから、信用しようじゃないか。……それに」

 

 こそっと、エステラが俺に耳打ちをしてくる。

 

「この無邪気な感じが、四十二区女子の間でウケているようだよ」

「モテてやがるのか!?」

「みたいだね。ボクはよく分からないけれど、生花ギルドの大きなお姉さんたちが騒いでいたよ」

「あぁ、あの層に人気なのか……とはいえ、小舟に乗る時に足踏み外して海に落ちればいいのに」

「それはないんじゃないかなぁ。運動神経がボクらとは桁違いにいいからさ」

 

 エステラの言うとおり、アルヴァロは「どうなってんだ!?」というくらいに体幹が整っていて、小舟の上でも危なげなく立っていた。

 なんか悔しいから、クリームコロッケの中身をからしに変えておいてやろうかと、密かに画策する俺なのであった。

 

 

 

 

 

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