「ルールは分かったわ。エステラさん、武器を貸してくださる?」
「やるつもりですか、マーゥルさん!?」
「あら? だって、とっても楽しそうよ?」
「いやいやいや! あの惨状を見てましたよね!?」
と、ベッコを指差すエステラ。
しかし、マーゥルは意に介さない様子でおっとりと微笑んでいる。
「平気よ。ヤシぴっぴ、女の子には優しいもの。ねぇ?」
「まさか、自分をそのカテゴリーに入れてないだろうな、マーゥル?」
誰が女の『子』だ?
戸籍謄本を取り寄せて出生年月日を百回書き取りしてこい。
「ヤシロ! …………分かってるね?」
「任せろ! …………まだまだあるぞ、クサネバ液」
「ナタリア! 今すぐこの危険人物を縛り上げて!」
縛られたらセクシーな声でも上げてやろうかと思っていたのだが、ナタリアの提案でマーゥルの対戦相手がジネットとミリィに決まってしまった。
……ちぃ。エグい罠が仕掛け難い。
ジネットは鈍くさいのレベルが違うからなぁ……罠を回避するように誘導しても罠にきっちり掛かりそうなんだよな。
「わざとか!?」ってくらい的確に罠にはまりそうな気しかしない。
仕方ないので、粉系の軽~い罠だけにしてやったのだが、それすらもエステラに撤去された。
ハズレ無しの超接待ゲームになってしまった。
……こんな接待、むしろマーゥルがつまんないんじゃねぇの?
と、思わなくもないが、体験版だと思えばこんなもんでいいか。
けどまぁ、みんなアタリじゃさすがにつまらないので、中に一つだけ大当たりを作っておいた。こっそりと。
さて、誰が引き当てるかなぁ~。
「マーゥルさん、キツくないですか?」
「えぇ、平気よ。けど、本当に何も見えないのねぇ」
参加者三人の目隠しが完了する。
三人ともきょろきょろしている。
「本当は、目隠しして三回回ってもらうんだが……これが意外とキツイんだ。な、ウーマロ、ロレッタ?」
「そうッスね。三回くらい余裕って思ったッスけど、結構目が回って方向感覚なくなったッスよ」
「あたしも、足下ふらふらして怖かったです」
「というわけで、ジネットにそんなことをさせると非常に危険だ」
「そんなことは、ない……と、思うんですけれど?」
「自分を過信するな、ジネット! お前ならその場で倒れたり、下手したら足の骨を折るかもしれない。『えっ!? なんでそんな転び方を!?』ってすっ転び方をして!」
「そこまで運動音痴じゃありません!」
「……店長。自分を過信しちゃ、ダメ」
「はぅ……っ、マグダさんまで……」
俺の言いたいことが伝わったようで、フロア内に「ジネットちゃんには危険だなぁ」みたいな空気が流れた。
「そこで、どうだろう? ハンデじゃないが、ジネットは回るのをやめてその場で十回ジャンプにしてみては」
「それくらいなら出来そうです。ありがとうございます、ヤシロさん」
回るより危険が少ないと確信して、ジネットがその場でぴょんぴょん飛び始める。
わはぁ~、ぽぃんぽぃんしてる~!
「ジネットちゃん、止まって! まんまと策略にハマってるよ!」
「へ? …………はっ!? も、もう! ヤシロさん! 懺悔してください!」
胸を押さえて蹲るジネット。
ちっ! 気付かれたか。
「ヤシロ……いい加減にしないと『わるいこ惨殺棒』でトドメを刺すよ?」
「『退治棒』だったはずだろう、そいつは」
物騒な進化を遂げてんじゃねぇよ。
で、各々の準備が整ったところでゲームが始まる。
「じゃあ、ヤシロをテーブルに縛りつけたから、安心してゲームに集中してね」
爽やかに言うエステラ。
俺はというと、本当にテーブルに縛りつけられてしまった。
ジネットをすっごいそばで応援していただけなのに!
顔が埋まりそうなくらい近くで!
マーゥルにはナタリアが、ミリィにはノーマが、ジネットにはエステラがヒントを出し、誰が一番にくす玉を割れるかの競走が始まった。
……ナビがナタリアって、接待が過ぎるだろう、おい。
「ミリィ、前方15度右、1.6メートルの高さにくす玉がいるさね!」
「このへん? ぇ~い! ……ゎっ! ぁたった~!」
接待なのだが、性能のいい二人があっさりとくす玉を割ってしまった。
地味に負けず嫌いなんだよなぁ、ノーマ。
しかし、15度右を的確に修正してみせたミリィもすごいな。
「マーゥル様。シンディさんのお尻一個分左です」
「じゃあ、この辺ね。えい! あら、手応えがあったわ」
何基準だ!?
で、よく的確に捉えられたね、そのヒントで!
あと、割と大きいね、シンディのお尻!
「ジネットちゃん、もう少し前!」
「……そして、その場で一回転」
「こ、こうでしょうか?」
「違うよ、ジネットちゃん! 今のはマグダの声だから、惑わされないで!」
案の定、ジネット・エステラチームが苦戦している。
マグダは意外と、ジネットがわたわたしている様を見るのが好きなんだよなぁ。ちょっかいをかけて、楽しそうにしている。
不思議なもので、目隠しをすると誰の声なのか一瞬迷うことがある。だから惑わされてしまうんだろうな。うんうん。
「ジネット、ジャンプ!」
「懺悔してください、ヤシロさん」
ちっ! バレたか。
「ジネットちゃん、そこだよ!」
「え~いっ!」
「……うん。まさか横薙ぎに振るとは……」
ジネットの振るスウィングは、くす玉のぎりぎり下を通過していった。
逆に器用に見えるぞ、ジネット。
「えっと、頭の上に構えてまっすぐ振り下ろして」
「は、はい。こう、ですか? あ、何かに当たりました!」
「まだ割れてないよ! 同じところを、もっと強く叩いて!」
「はい! えーい!」
同じ軌道でと言ったのに、振りかぶった拍子に思い切りブレるジネットの体の軸。
勢いよく振り下ろした棒は床に激突し、ジネットの指をしびれさせた。
「……痛いです」
「……ヤシロ、どうやら店長には難し過ぎる模様」
「そうだな。対象年齢四歳以上だからな、これ」
この娘はよく今まで大きな怪我もせずに生きてこられたものだ。
「店長さん、ここで~す! この辺ですよ~!」
くす玉の向こうでロレッタが騒ぎ、音を頼りにジネットが恐る恐るくす玉を叩く。
薄い紙製の、ガキでも一刀両断できるもろさのくす玉を、ジネットは六回の攻撃でようやく破壊した。
攻撃力、低っ!
「はぁ……やっと割れました」
ほっとして目隠しを取るジネット。
そして、くす玉の下に落ちている景品のお菓子を拾い上げる。
それはそれは、見事なDカップサイズのおっぱいマシュマロを。
「ヤシロさん!?」
「営業時間外に作ったからセーフだ!」
「もう!」
よかったなジネット。そのくす玉が大当たりだったようだぞ。おめでとう。
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