「マグダ、青組は?」
「まもなく討伐完了」
マグダが指差した先では、青組の騎馬がリベカ&ソフィー騎馬とマーシャ&ロレッタ騎馬に挟み撃ちに遭っていた。
「お姉ちゃん! 青組最後の騎馬はわしらの手で討ち滅ぼすのじゃ!」
「そうですね、リベカ! 私たちの姉妹愛で敵にトドメを刺しましょう!」
「そうはさせないよ~☆ その騎馬は私たちの獲物だよ☆ ロレッタちゃん、全速力~!」
「行くですよぉ~! しっかり掴まっててです!」
意気揚々と突っ込んでいく白組の騎馬二組。
よく見ると、挟み撃ちに遭っている青組の騎馬はトレーシーとネネの組だった。
「きゃっ!? ネ、ネネ! 来ましたよ! なんかいっぱい来ましたよ! 避けなさい!」
「そ、そう言われましても、どちらに逃げればいいのか……!?」
「エステラ様、どうか私をお守りください!」
騎馬の上で神に、いや、エステラに祈りを捧げるトレーシー。
その顔が不意に持ち上げられる。
「エステラ様……そう、そうよ。私もエステラ様と同じ、領主――エステラ様のように強く気高くありたい!」
拳を握り、後輩領主に憧憬の念を抱くトレーシー。
それでいいのかと思わんではないが、とにかく気合いが入ったらしい。
「ネネ! 速度の速いマーシャギルド長への防御を徹底なさい!」
「かしこまりました!」
迫りくる白組の騎馬。
そのうち、ヒューイット姉妹の俊足を脅威だと判断したトレーシーがマーシャたちに向き直る。
リベカたちに背を向けることになるが、まずは最初の襲撃を確実に回避することにしたようだ。
だが。
「総員~ん! そのまま、全速前進!」
「へっ!? いいですか?」
「いっけぇ~☆」
「みんな、マーシャさんの言うとおりにするです!」
「「うん! お姉ちゃん!」」
どぎゅーん! ――と、マンガみたいな速度でマーシャがトレーシーの横を通り過ぎていく。
すれ違いざま、マーシャがトレーシーに向かって投げキッスを飛ばしていた。
「へ?」
「えっ!?」
上下に並んでトレーシーとネネがおんなじような顔で異なった声音を漏らす。
トレーシーは呆気にとられたような、ネネは本能が嫌な予感を感じ取っているような。
その直後。
「取ったのじゃ!」
リベカがトレーシーの背後から鉢巻を奪取した。
あまりの驚きに無理な体勢で体を捻ったトレーシーのサラーシーが……………………弾けろよ!? 空気読めよ!
ここでもう一回「いりゅぅぅーじょぉぉーーーん!」の流れだろう!?
なに持ち堪えてんの!?
え、なに? 「俺、レベルアップして耐久力上がったんすよ」って? やかましいわ!
いらんいらん、そんな耐久力!
折角のびっくりハプニング&無理な体勢なのに!
弾けろよさらし! 飛び出せよイリュージョンバストっ!
「納得できん! やり直し!」
「ヤシロさん。めっ」
つむじをぺこっと押された。
ジネットにも伝わったらしい、俺が――この会場のすべての男子が何を望んでいたのかが。
No Illusion No Life!
「はぁ……これだからお約束を守れない無粋者は……くそぅ、運動会の後のカレー食ってる時になんの前触れもなく急にイリュージョンしねぇかな。『えっ!? このタイミングで!?』みたいな」
「怒りますよ」
つむじがぐりぐりされる。
どうせ押しつけるならもっと大きくて重量のある膨らみの方がいいんだけどな。
……とか言うと騎馬のまま懺悔室に連れて行かれそうだな。
イネスたちを道連れにするわけにはいかないか。あとでうるさそうだし。
「……ヤシロ。これで青組は全滅。残るは黄組と赤組」
「黄組は誰が残ってるんだ?」
「……ベッコが…………今死んだ」
マグダの指差す先で、今まさにベッコが騎馬から転げ落ちた。
落馬したんじゃない。「テメェ、何取られてんだ!?」と騎馬に振り落とされたのだ。……怖ぇ、あの騎馬。どこの連中だよ? あぁいう連中もまだいるんだなぁ。関わらないようにしよう。
「……残るは、赤組の二騎だけ」
「そうか。白組は?」
「……残り四騎」
ってことは、俺たちとマグダたち、マーシャんとことリベカんとこか。
「バルバラは?」
「……さっき、モリーにやられた。『うわーこわーい』とか、意味不明な戯れ言を宣いながら」
何やってんだ、あいつは……
パーシーを前にして舞い上がりやがったな……ったく。
「で、そのモリーは?」
「……デリアに敗れた」
デリア強ぇなぁ……
「勝てそうか?」
「……平気。マグダは勝つ必要がないから」
マグダの耳がぴくぴくと動く。
「……ヤシロと店長が生き残っているなら、引き分けでも勝利」
玉砕覚悟で突っ込んで、最悪相打ちでも白組の勝ちになる。
デリア相手ならそれくらいの覚悟は必要か。
とはいえ、「まぁ勝つけども」と顔に書いてあるぞ。
勝ちたいんだろう。お前の思うようにやればいいさ。
「しかし、よかったな。メドラが不参加で」
「……仕方ない。メドラママを持ち上げられる人類など、数えるほどしかいない」
今回は狩猟ギルド本店の連中は来てないし、ウェイトレスや乙女が多い黄組じゃ難しいか。
仮に担げても……メドラの足となって戦場を駆ける覚悟のあるヤツはそうそういないだろうな。
「……では、行ってくる」
「おう。頑張れよ、マグダもウーマロたちも」
「うぉおう!? まさか、ヤシロさんから激励がもらえるとは思ってなかったッス! ちょっと驚いちゃったッス!」
「優しみ~……」
「ちょっ、ヤンボルドさん……気味の悪い薄笑いやめてくれませんか? 冗談なのかどうか分かんないですから」
冗談に決まってんだろう。
でなきゃ追放してやるよ、この街からな。
「マグダ、相手はあのデリアだ」
「……うむ。分かっている」
俺のアドバイスに、マグダは理解しているという表情で頷く。
そう、気を付けなければいけないことがある。
「グーズーヤをしっかり監視しとけよ」
「……裏切れば、マグダが直々に折檻を与える」
「マグダたんの手を煩わせるようなことがあれば、オイラが社会的に殺してやるッス」
「ちょっとぉ!? みなさん、揃いも揃って怖過ぎですよ!?」
「オレだけは、グーズーヤの、み・か・た☆ むふっ」
「ヤンボルドさんが一番怖いっすわ!」
デリアにべた惚れなグーズーヤが裏切らないかが心配ではあるが。デリアはそういう工作をしてくるタイプじゃないから大丈夫だろう。
相手がマーシャとかならかなり危険だったけどな。
「じゃ、頼んだ!」
「……武運を祈っていて」
マグダたちが駆け出す。
最後の強敵を討伐するために。
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