異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

無添加94話 ハロウィンナイト -1-

公開日時: 2021年4月6日(火) 20:01
文字数:3,244

「あら、ジネットちゃん、ヤシロちゃん」

「おぉ、ムム婆さん。似合ってるな、その砂かけ婆の仮装」

「うふふ。私、何も仮装してないのよ、これで」

「もう、ヤシロさん」

 

 東側をぐるっと周り、大通りで昼飯を軽く摘まんで、今俺たちは西側の道を歩いている。

 日は徐々に傾きかけ、間もなく夕方になる頃合いだ。

 

「はい、これお菓子。頑張って作ってみたのよ」

「ありがとうございます。……ふふ。ムムお婆さんからお菓子をもらうのは久しぶりですね」

「そうねぇ。ジネットちゃんがまだ小さかった頃はよくあげていたものねぇ」

 

 ムム婆さんが作ったというお菓子は小さな箱に入っていた。

 蓋を開けてみると、中には小粒で硬そうな四角いお菓子が複数入っていた。

 全体的に薄茶色で、若干香ばしい香りがする。

 

「おかき!?」

「そうなの。余ったお餅をね、小さく切ってから煎ってみたのよ。お醤油で味を付けてね」

「わたし、おかき大好きです。あとでいただきますね」

 

 そういえば、正月に餅つきをやった後、ハムっ子どもが餅つきにハマってアホみたいに大量の餅を量産しやがったんだよな。

 で、無駄にしちゃもったいないってことで、乾燥させてせんべいやおかきを作ってお茶請けにしたんだっけ。

 ムム婆さん、密かに気に入ってたのか。

 

 一つ摘まんでみる。

 うん。美味い。

 今度、ザラメとか塩とか、バリエーションを教えてやるかな。たまに食いたくなるんだよなぁ、こういうの。

 

「くすくす。食いしん坊さんですね、ヤシロさんは」

 

 さっそくおかきを摘まんだ俺を、ジネットが笑う。

 

「んだよ。一個食ったくらいで」

「いえ。さっきから、いただいたお菓子はすぐに一口召し上がってましたから」

 

 そりゃお前、アレだよ。

 ……俺らが広めたお菓子がきちんと受け継がれているかとか、とんでもない味に変化してないかとか、確認する責任があるからだな、言い出しっぺとしては、つまりそういう責任感からだ。

 

「食べ過ぎて太っちゃったら、一緒に体操しましょうね」

「この程度じゃ太らねぇよ」

「そうなんですか!?」

「うん、モリー。お前は一日一種類までな」

「そんな!?」

 

 地蔵盆でお菓子をもらった時は、一日一個ってルールが大人の横暴のように思えていたのだが……必要な配慮だったんだなぁ、あれ。

 なきゃ無尽蔵に食い散らかすな、ガキって生き物は。

 ……モリーはそこまでガキじゃないはずなんだが。

 

「お~い、デリアちゃ~ん! やほ~☆」

 

 生花ギルドに寄った後で木こりギルドへ向かうと、そこにマーシャがいた。

 

「見て見て~! 四足歩行~☆」

 

 マーシャがオオカミの仮装をしていた。

 水槽に毛皮を被せて体と一体化しているように見せている。

 水槽をオオカミの胴体に見せているのだが……それじゃケンタウロス(オオカミバージョン)だな。

 オオカミの胴体からマーシャの上半身が生えている。

 四足+二本腕だ。

 足が六本だと、昆虫だな。

 

 ただ、イヌ耳マーシャはすごく可愛い。うん、可愛い。

 

「ねぇねぇ、聞いて聞いて! 『オオカミさんの口はどうしてそんなに大きいの?』って!」

 

 カンタルチカの影絵の説明の際、俺が教えた赤ずきんの話がマーシャにまで伝わっているようだ。……が、『オオカミさん』って問いかけたら、それもう正体バレてるから。正体バレてちゃマズいんだっつの。

 

「やだよ、メンドクサイ」

「そんな~! デリアちゃんを食べるための大きな口なのに~!」

「食わせねぇよ。逆に食っちまうぞ!」

 

 デリアとマーシャが本気で戦ったら、どっちが強いのかねぇ。

 普通に考えたらデリアなんだけど、マーシャって、なんか隠された力とか持ってそうだからなぁ……

 

 それはともかく、デリアが聞かないなら俺が代わりに聞いてやろう。

 

「オオカミさんのおっぱいは、どうしてそんなに大きいの?」

「質問が違うよ~、ヤシロ君☆」

「『それはね、お前を挟むためさ!』」

「目的がよく分かんないね、そのオオカミ☆」

 

 プリーズ!

 遠慮せず! さぁ! さぁさぁさぁ! いざっ!

 

 ……ちぇ~。

 

「じゃ、デリアちゃん。押してって☆」

「やっぱそうなるのかよぉ……あたい、今日は赤ずきんなのに……」

「赤ずきんちゃんは村一番の力持ちなんでしょ?」

「あれ、そうだっけ? んじゃ、いっか」

 

 金太郎がミックスされてるっぽいな。

 さしもの金太郎も、四十二区のクマ人族には到底敵わないだろうけどな。

 

「みなさん、ご覧なさいまし! これが、木こりの本領を発揮したハロウィン飾りですわ!」

「「「「デカっ!?」」」」

 

 木こりギルドの前には、樹齢数百年かというような巨木を削って作ったと思われるオバケが立っていた。いや、建っていた。

 デカいな……二階建てのイメルダの家よりも高さがある。

 

「これ、一本の木から出来てるのか?」

「そうですわ。ワタクシがデザインして、ベッコさんに削らせましたの」

 

 ベッコ……お前、なに作ってんの?

 奈良の大仏を超えるサイズの彫刻をこんな短時間で完成させたのか?

 他の飾りと並行して?

 あぁ、そうか。お前、バカなんだな?

 

「これだけすごいものを作り上げたんだから、もう少し敬意を表してあげてもいいんじゃないのかい?」

 

 イメルダの「ベッコに削らせた」という表現に待ったをかけたエステラ。

 確かに、こんなデカい物を作ったんなら、少しくらい労われてもいいだろう。

 少~しくらいはな。

 

「そうですわね。では――、ワタクシがデザインしてくださり、ベッコさんに削らせましたわ」

「そこじゃないよ、敬意表するとこ!?」

 

 自分で自分に敬意表しちゃったよ、このお嬢様。

 

「この像、顔のところまで登れますのよ。今度是非お試しあれ」

「ますます大仏だな」

 

 登れるのは鎌倉の方だったっけな。

 観光名所に出来そうな巨大な像を見上げていると、オバケの目の辺りに人影を発見した。

 窓のようにくり抜かれているオバケの目の中からこちらに手を振っている者がいる。

 

「ヤシぴっぴ~! 見てくださ~い、私の、だ・い・た・ん・な、この仮装~!」

 

 遠目なので勘違いだと思いたいのだが……シンディに見えるし、シンディの声に聞こえる。

 

「イメルダ。この像、事故物件なの?」

 

 凄惨な事件とか、過去にあったの?

 なんか亡霊みたいなのが見えるんだけど。

 

「シンディさん、素敵な衣装ですね。ひらひらしていて可愛いですよ」

「衣装はな」

 

 何が嬉しいのか、にこにこと手を振り返しているジネット。

 マグダとロレッタでさえ「うわぁ……ないわぁ」みたいな顔して目を逸らしてるってのに。

 

 遠目だから分かんないよ?

 分かんないけど、たぶんあれ……天女の羽衣的な仮装だよね?

 で、見えてる腕の部分が結構なシースルーなんだけど……全身は濃~~~い色が入ってるんだよな? もちろんな! なっ!?

 

「よし、オバケに取り憑かれる前に逃げるぞ」

「でも、マーゥルさんとモコカさんもいらっしゃるようですよ?」

「……店長、ぼやぼやしてはダメ」

「はしゃぎ過ぎた人の相手は損することの方が多いです! ここは逃げるが吉です!」

「え? あの、マグダさんもロレッタさんも、え? あの?」

 

 ジネットの両腕をがっちりと掴んで強制的にその場から離脱させる。

 ジネット一人が取り憑かれただけで、そいつはもれなくこのグループに付きまとってくるのだ。

 チームワークが問われる場面だな、これは。

 

 すたこらさっさと逃げ出して、教会までたどり着く。

 

「オバケは、外~!」

 

 教会の前で、頭に矢が貫通した寮母たちにラッピングされた飴をぶつけられた。

 ……地味に痛いし、節分と混ざってるし、矢が貫通してる時点でおまえらもオバケだろうが。

 いろいろツッコミたいが、ガキどもが飴をぶつけてほしいとばかりに寮母の前に群がったのでツッコミは空振りに終わった。

 

「あ、ラムネが混ざってる」

「はい。ヤップロックさんのところでコーンスターチをいただいてきて、教会のみんなで作ったんですよ」

 

 ジネット、いつの間に?

 みんな張り切ってたんだなぁ、知らないところで。

 

 ひとしきり飴の雨に晒された後は、口溶けのいいラムネを頬張りながら、大通りへ向けて出発する。

 建物の陰や木陰が暗さを増し、通りに点在するカボチャのランタンが存在感を増していく。

 

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