「きょっ、今日はいい天気ですねっ」
「う、うむ! 肉じゃがが得意なのじゃ!」
「いいからお前ら、ちゃんと向かい合ってしゃべれ」
「「そんな、破廉恥な!?」のじゃ!?」
目を見て話すことの、何が破廉恥か。人類総破廉恥か。
なんだかんだとあって、晴れて婚約者となったフィルマンとリベカ。
……が。いざ二人で話をしてみろと向かい合わせたところ。
「は、はぅわぅあぅやぅ……」
「はわゎ……」
こうなった。
「まったく……」
ソフィーも呆れた様子で、そんな二人を見ている。
「先ほどは、随分と立派なスピーチをされていたというのに……急にどうしたというのでしょうか」
あ、ごめん。ソフィー。
あれ、俺のカンペだったんだ。
「話したくないのでしたら結構です。私がリベカとおしゃべりします!」
「割り込むなよ、小姑」
「こっ、小姑とはなんですか、失礼な!? 私はただ、リベカのためを思って婚約は認めたものの、イマイチあの頼りない、不甲斐ない、いてもいなくてもどっちでもいいようなあの男が気に入らないだけです。いちいちケチをつけて精神的に追い込んでやりたくなるほどに」
うん。それを小姑というんだよ、ソフィー。
「まぁまぁ、ソフィー様。しばらくは温かく見守ってあげましょうではありませんか」
ウサ耳を毛羽立たせるソフィーを優しくたしなめたのはバーサ。
さすがに、大人の余裕というか、保護者のような目で見ているのかもしれない。
「恋というのは、不器用でもどかしいことすら幸せに感じるものなのですから。――ね、ヤシロ様」
「話を振らないでもらえますか」
思わず敬語になってしまった。
心が拒絶したがってるんだ。
「ソフィーにはいないのか、好きな男」
目にゴミが入ったのかと思うほど片方の目をバッシバッシ開閉し続けるバーサを無視して、ソフィーに話を振る。……あんな不気味な片側瞬きを、俺はウィンクとは認めない。
「わ、私は……シスターですし、アルヴィスタンですから……こ、恋などというものは……」
「あ、いるんだ」
「この反応は間違いなくいるですね!」
「……堅物に見えて、実際は……」
「いいことだと思いますよ。誰かを大切に思えるというのは、それだけ心が豊かだということですから」
「な、ななな、なんですか、みなさんで!? だ、誰もいるなんて……っ、そ、そんなんじゃないです……もん」
分かりやすく照れている。
そうか。ソフィーにも好きな男がいるのか………………あれぇ? 候補者がいねぇ。
まさか、『妹のことをそういう対象で見てます』的な話じゃないだろうな?
「わ、私はアルヴィスタンですので、そういう話とは無縁なのです!」
「いいえ。ソフィーさん」
シスターよりもシスターっぽいジネットが、現役シスターに精霊神の教えを説く。
「精霊神様は、人を想う気持ちを咎めるようなことはなさいません。むしろ、人を愛することを尊いと思っておられます。生涯を捧げようとする心は素晴らしいですが、無理をしてまでそうすることを、精霊神様は望まれません。あなたにとって、一番幸せな人生を送る。それこそが、精霊神様の望みであり、教会が最も大切とする教えです」
「う…………た、確かに」
シスター対決、ジネットの勝ち~!
ま、シスターじゃないんだけど。
「すごいです、店長さん。なんか、今ならベルティーナさんにも勝てそうです!」
「いえ。こういうのは、勝ち負けではありませんから」
「……おっぱいなら、すでにシスター・ベルティーナにも圧勝」
「そ、そういうのも、勝ち負けじゃありませんよ?」
「ジネット、お前がナンバーワンだ」
「懺悔してください!」
また俺だけ……そういうの、よくないと思うなぁ。
「そういうわけですから、ウサ耳シスターさん! 思い切って告白するです!」
「ぅへぇえ!? こ、告白っ!?」
「……今、時代は告白ブーム。乗るべき、このビッグウェーブに」
「そ、そそ、そんなの……む、無理です! 無理に決まってます!」
くるりと背を向けて頬を押さえるソフィー。
諦めろソフィー。
こと他人の恋愛に関しては、……ウチの三人娘、ちょっとウザいくらいに興味津々なんだわ。
「大丈夫です! きっとなんとかなる気がするです!」
根拠が皆無だけどな。
「……言うだけは、タダ」
玉砕した際の精神的ダメージ、プライスレス。
他人事だと思ってはやし立てるロレッタとマグダ。
ほどほどにしとかないと泣くぞ、ソフィー。
「で、ジネットは後押ししないのか?」
「へ?」
「いや、お前も好きだろ、こういう話?」
「ぅ……た、確かに、興味深いとは思いますが……」
少し照れたような、申し訳ないような、ちょっとだけ俺を非難するような顔でこちらを見る。
「別に、面白がっているわけではありませんよ……」なんて言い訳をぶつぶつと言う。面白がってんだろうが、目をキラキラさせてよ。
「でも、相手の方のこともありますし、こちらの都合だけで行動するのも、部外者が煽り立てるのもよくないのではないかと……」
「まぁ、そうだよな」
「きょ、興味は……あるんですけれど」
やっぱり興味はあるじゃねぇか。
すっごい聞きたそうな顔してるな、恋バナ。
「そ、そうですよ!」
と、ジネットの言葉にソフィーが乗っかる。
そこに乗れば逃げ切れると踏んだらしい。
「私の気持ちを押しつけるような真似は出来ません。そんなことで心労を与えたら……タダでさえ少ないスタミナがなくなっちゃって、倒れてしまいます」
「えっ、ミケルなの!?」
「なっ、なんで分かるんですか!?」
マジか!?
あの、アブラムシ人族の、スタミナが常人の三分の一しかなくてしょっちゅう倒れてる、妹ラブの重度の変態、ミケルか!? モコカの兄の! ここの畑で働いている、運ばれていく時セミの死骸にしか見えない、あのミケルか!?
……一体、アレのどこがいいんだ?
「趣味、悪っ」
「そ、そんなことないですよ! か、可愛いんですよ、アレで! 貧血で倒れている時とか、起きた後に恥ずかしそうに笑う顔とか、『膝枕、いつもすまねぇだぜ』って言ってくれる時の顔とか……」
「膝枕とかしてんのか!?」
「おっ、大きな声で言わないでくださいっ!」
あのエロアブラムシ……許すまじ!
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