「ではではみなさん! ここからは楽しくも可愛い、あたしたちのショーをご覧に入れるです! みなさん! 衣装チェンジです!」
ロレッタのセリフに合わせて、ノーマたち、壇上に上がった女子チームがその場でドレスを脱ぎ捨てる。
「「「ぅぉおおおおおっ!」」」
先ほどの数十倍の歓声が……ほとんど男どもから……湧き起こる。
ドレスの下から姿を現したのは、アイドルが着ていそうなふりふりふわふわしたお揃いのコスチューム。
ミニスカートから伸びる健康的なふとももがまぶしいっ!
「さぁ、みんな! 歌うさねっ!」
「「「はいっ!」」」
ノーマを中心に、女子たちがステージいっぱいに広がり、これから踊りますよと言わんばかりのポーズを取る。
そう、彼女たちはアイドル……それも、各々の職業を極限まで窮めたプロフェッショナル中のプロフェッショナル――マイスターたちが集まって結成されたアイドル、その名も――
アイドル・マイスターなのだっ!
見よこの独自性! 決して何かのパクリではないっ!
マイスター(超一級技術者)たちによるアイドルなのだっ!
これから始まるショーを前に、会場は興奮を孕んだ静寂に包まれる。
そして、音楽が流れ出す――
ズンドコ ドコドコ
ズンドコ ドコドコ
ズンドコ ドコドコ
ズンドコ ドコドコ
♪~ はぁ~ 海辺の女はぁ、海女になぁるぅ~ ~♪
ズンドコ ドコドコ
ズンドコ ドコドコ
ズンドコ ドコドコ
ズンドコ ドコドコ
♪~ あぃ~やっ 山辺の女はぁ、山姥~にぃ~ ~♪
……うん、すまん。
この世界には、ポップなミュージックってもんがなくてな……
今のは、川漁ギルドが漁をする時に歌う歌みたいなんだが……山に住んでも山姥にはならねぇよ……
ちなみに、演奏は『オメロ with 川漁ダンスィ~ズ』だ。
「はぁぁああん! マグダたん、マジ天使ッスー!」
「ネフェリーさん! こっち! こっち見てー! うっしゃぁ! 目が合ったぁぁあー!」
「チアガールリーダー氏ぃぃい! 揺らしてっ、もっと揺らしてでござるぅ!」
「デリアさんっ! デリアさぁぁああん!」
まぁ、どんな曲であれ、ファンにとってはなんだっていいみたいだが……
グーズーヤ、お前まだデリアのファンやってたんだな。お前だけは必要以上に会いに来ないからちょっと影薄かったよ。いや、お前こそが常識人で、あのキツネとタヌキが異常なんだけどな。
「拙者! 拙者! ここに通った日々の中で、新しい自分を見つけ、大会でのチアガールリーダー氏の谷間にて開花したでござるっ! もっと揺らしてでござるっ!」
……ベッコ。お前さっきの、ちょっと感動しそうなスピーチ…………貧乳派から巨乳派へ転身して、新しい世界が開けたって意味だったのか?
つまりあれか? しょっちゅうイメルダと会うようになって、ちょっとずつちょっとずつ、イメルダの巨乳に心奪われてたってことか? やっぱり間近で見る巨乳は凄まじかったって、そういうことなのか!?
「ミリィちゃーん!」
「ミリィィイイイイイイイっ!」
「ミリィ様ぁぁぁああ!」
……なんか、ミリィに変なファンが付いてるな……こいつら、あと10センチでもミリィに近付いたら強制排除してやる。
ミリィは静かに愛でて楽しむのが礼儀ですっ!
「ア、ソーレソレソレソレ!」
「「「FU・TSU・U!」」」
「ア、ドーシタドシタドシタ!」
「「「FU・TSU・U!」」」
あ、これ、ロレッタのファンだな。
「なんだか、あたしの時だけ変な人たち過ぎるです!? 物申したいです!」
まぁまぁ、そう言わずに、カリカリするなよ『FU・TSU・U』
これまで、四十二区の中でなんだかんだとやってきた連中には、いつの間にかファンが付いていた。この前の大食い大会でのチアリーダーが決め手になったのだろう。
アイドル・マイスターの人気ぶりはすごいものがあった。
基本、伴奏が打楽器しかないくせに、この後六曲を熱唱したアイドル・マイスターのメンバーたち。
額にキラキラと輝く汗を浮かび上がらせて、ステージ上から応援してくれたファンたちに手を振っている。
……こういう文化が根付きつつあるのって、俺のせいじゃ……ない、よな?
アイドル・マイスターがステージから降りて、きゃっきゃっと身内で盛り上がり始める。
うむ、この盛り上がりをここで終わらせるのはもったいないな!
「よし、次はウーマロ! 何か一発芸をやれ!」
「はぁぁ!? 聞いてないッスよ!?」
「今言った! ほら、ステージに上がれ」
「そんな、急に言われても困るッスよぉ~! ……まぁ、とりあえずステージには上がるッスけど」
この前向きな姿勢が、ウーマロなのだ。
とりあえずやってみる! だからこそ、こいつは今の地位にいるのだ!
俺の、ベスト・オブ・弄りキャラの地位にっ!
言われるまま、ステージに立つウーマロ。
しかし、なんの準備もしていないだろうから、出来ることなどほとんどない。
耳に漆とか山芋をたっぷり塗り込んで、かぶれるだけかぶれさせて、パンパンに膨れ上がったところで、「耳がデッカくなっちゃった!?」とかやらせてみるか? デッカくなった耳は元の大きさには戻らないけどな。
あ、そうだ。
「ウーマロ! 木こりギルドのギルド長、スチュアート・ハビエルのモノマネとかどうだ? よく見てたから知ってるだろう?」
「そりゃ、知ってはいるッスけど…………いや。他にいい案がない以上、ここはヤシロさんに乗っておくべきッスね! オイラやるッス!」
まゆ毛をキリッと吊り上げて、ウーマロがステージ中央に立つ。
そして俺はさり気なくナタリアとアイコンタクトを取っておく。こくりと頷き、ナタリアが静かにその場を離れていく…………
「それでは、究極の無茶ぶりに応えたいと思うッス! 木こりギルドのギルド長、スチュアート・ハビエルの真似!」
イメルダが苦笑いをしながらも、少し興味深そうに視線を送る。
会場にも、ハビエルを知る者は数名ばかりいる。
なんとも微妙な期待を一身に受け、ウーマロはボディービルダーのようなポーズを取り「ウッシャッシャッシャッシャ!」と笑い出した。
「『ワシは、実の娘と、つるぺた幼女がだ~い好きじゃぁ~!』」
ぶふっ!
と、思わず吹き出してしまった。
……くそ、ウーマロのくせに、いいところを突いてくるじゃねぇか!
だが、見所はこれからだっ!
「だ~れが、幼女好きじゃ、このキツネ野郎がぁ!」
「のょ!? こ、この声は!?」
ステージ上で身を固くして、どこかから聞こえてきた声に怯えるウーマロ。
そう、この声の主は……
「ワシじゃー!」
「スチュアート・ハビエルッ!?」
まさかのご本人様登場に、会場は熱狂の渦に巻き込まれる。
へぇ、やっぱり盛り上がるもんなんだな、ご本人様登場。異世界でも通用するのかぁ。
「な、ななな、なんであんたがここにいるッス!?」
「娘のパーティーに父親が来て、何が悪いっ!?」
「何もこんなタイミングで来なくてもいいじゃないッスか!? 心臓止まるかと思ったッス!」
「お前が人のことを、陰でこそこそ笑いものにしようとしたからだろうがっ!」
「むむむ……とにかくっ! これだけは言っておくッス!」
「なんじゃいっ!?」
「ごめんなさいッス!」
素直だな、オイ!?
とにかく謝っておくのがいいよね、うん!
「お父様っ!」
「お~、イメルダ! 来てやったぞ~!」
「ご招待しておりませんわっ」
「そりゃねぇだろ、イメルダぁ!?」
会場からドッと笑いが漏れる。
とにかく、イメルダが驚きそうなことを詰め込めるだけ詰め込んだサプライズパーティーだ。
イメルダが驚き、ついでに招待客どもが大いに盛り上がってくれればありがたい。
「オオバ君。ようやく外に出られてホッとしたよ」
デミリーがにこやかな笑みを浮かべて歩いてくる。
サプライズゲストのハビエルと一緒に、会館に身を潜めていてもらったのだ。
イメルダに見つからないようにな。
「すごい盛り上がりだね」
「おう。お前もステージでなんか笑い取ってこいよ」
「オオバ君……それね、他の区の領主に言うセリフじゃないと思うんだ。いや、もう別に君ならなんだっていいんだけどさ……」
頭をツヤツヤさせてデミリーは嘆息する。
しかし、実にナイスな照り返しだ。
年齢の割に瑞々しく、まるで輝いているような……
「お前は炊きたてのお米粒か!?」
「どういうことかな、オオバ君!?」
そんなくだらないことを繰り返し、パーティーは賑やかに進行していく。
パーティーというか、もはや宴会だ。気品なんてものとは無縁の、大騒ぎだ。
今日という日は、その場にいる者みんなが、嫌なことや不安なことをすべて忘れて大騒ぎをする。
いつの間にか、そういう日になっていた。
そして、気が付けば――空はすっかり暗くなっていた。
いよいよ、仕上げか……
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