異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

無添加80話 オバケコンペ・午後の部 -4-

公開日時: 2021年4月4日(日) 20:01
文字数:3,599

 といったところで、飛び入り参加のルシアとギルベルタの話が終わった。

 しかし、これで終わりではない。

 最後に俺が、仮装のための話を披露する予定になっているのだ。

 

 ……なんだけど、ちょ~っと空気が重い。っていうか、俺の二の腕のサブイボがまだ収まってないから、ワンクッション挟むとしよう。恐怖は蓄積するからな……

 別に俺は観衆を恐怖に戦かせたいわけじゃない。むしろ「そういう仮装、ありかも!」くらいの感じで聞いてほしい。

 なので、こういう時にうってつけの人材をここで投入する!

 

「ハム摩呂~!」

「はむまろ?」

「お前、なんか適当にしゃべれ」

「はわゎ! 予告なしの無茶ぶりやー!」

 

 大丈夫大丈夫。お前なら出来る。つか、出来ない様を『なごむわぁ~』って見させてほしい。がんばれ、生きる『小動物動画』。癒されたい時についつい見ちゃう感じのヤツ、アレだ。

 

「ん~っと、じゃあ、実はお姉ちゃんだったお話ー!」

 

 わぉっ!?

 オチを先に言っちゃったよ!

 いいぞ! いいぞ、ハム摩呂!

 その調子でどんどんほんわかさせてくれ!

 

「ウチのお姉ちゃん、しょっちゅう外泊するのー! えっと、たしか、とっても大切な人がいる、とか? 昨日も一緒のベッドで寝た、とか?」

「マグダっちょですよー! 陽だまり亭に泊まりに行ってるです!」

 

 観客席からロレッタの声が飛んできた。

 身内からの怪しげな発言は即訂正する。そうでなければ、根深いからなぁ、四十二区での噂って……未だに俺がネフェリーを狙ってるって噂消えないし。

 

「その日も、お姉ちゃんはマグダっちょ(仮)のところへお泊まり行くってお家出てったー!」

「(仮)じゃないですよ! あたしが泊まりに行くのは陽だまり亭かカンタルチカかノーマさんのところくらいですから!」

 

 ノーマのとこにも泊まりに行ってんのか、ロレッタは。

 家にいてやれよ、長女。割と遊び歩いてんだな、あいつ。

 

「けど、夜中にお姉ちゃん帰ってきたー!」

「え? ……そんなこと、あったですかね?」

「こんこん、こんこんって、窓ノックしたー」

「窓!? あたし玄関から入るですよ? 鍵をなくしたとしても窓は叩かないです、玄関叩くです」

「木の窓だから、外見えない、一家総出で、いないいないばーやー!」

「よく分かんない喩え、どーでもいいですから早く先を話すです!」

「ロレッタ……うるさい」

「はぅ!? 審査委員長に怒られたです……」

 

 エステラに釘を刺されて、ロレッタが自分の口を両手で押さえる。

 で、なんでかハム摩呂も一緒に口を押さえている。

 

「いや、お前はしゃべれよ、ハム摩呂」

「はむまろ?」

「お前だ!」

「……え?」

「やめて、このタイミングで後ろ振り返るの! 誰もいないから! いないよね!? 気配とか感じてないよね!?」

「ヤシロ、君もうるさい」

 

 だって、ハム摩呂が怖いことするから!

 

「………………はむまろ?」

「いや、ちょっと待ってハム摩呂!? 今誰も何も言ってなかったよね!? 君にしか見えていない人とかいないよね!?」

「エステラ様、お静かに願います」

「いや、でも!」

「めっ」

 

 騒いでナタリアに怒られるエステラ。

 うんうん。理不尽はやがて自分に返ってくるといういい見本だ。

 もっと寛容な心を持つべきなのだよ、人間という生き物は。

 

「で、実はお姉ちゃんだったー! おわりー!」

「待てハム摩呂! いろいろ途中で茶々入れて悪かったけど、全然話終わってないから! 木窓をノックされたところから話してくれるか?」

「うんー!」

 

 飽きたのか、さっさと終わらせようとしたハム摩呂に、話の続きを促す。

 さすがにそんな終わり方は容認できない。なんかすごくモヤモヤする。

 

「ノックされたから、『誰ー?』って聞いたら、お姉ちゃんだったー! 『あたしです』って言ってたー!」

「本当にロレッタの声だったのか?」

「聞き間違えるはずもなくー!」

「いや、でもお兄ちゃん……あたし、窓をノックしたことなんかないですよ?」

「『開けて、開けて、入れて』って言ってたー!」

 

 ちょっと待って、なんか微妙に怖くなってきてないか?

 

「最初、『こんこん』だったのが『どんどん』になって、『開けて』が『開けろ! 入れろ! 言うことをきけぇぇええ!』になったー!」

「それ確実にあたしじゃないですよね!?」

「声も、お姉ちゃんの声からどんどん低く汚くなって、知らないオッサンの声になってたー!」

「その時点で気付くべきですよ、あたしじゃないって!」

「お姉ちゃんなら出来るー!」

「なんの根拠もない期待寄せないでです!」

「ウチのお姉ちゃんは、なんだって出来るすごいお姉ちゃんだからー!」

「はぅうっ! 弟の無垢な羨望を裏切るわけにはいかないです……っ! それ、あたしです!」

「絶対違うだろ、ロレッタ!?」

「けどお兄ちゃん! 弟があんなキラキラした目で『お姉ちゃんすごい』って! 言えるですか!? 『それ、あたしじゃないです』なんて!?」

「確実に違うんだから違うでいいだろうが!」

「いいや、あたしである可能性は否定できないです! オッサンの声とか、きっと気付かないうちに出ちゃってる時があるです!」

「それはそれでお前が心配になるよ!」

 

 取り憑かれたり乗り移られたりしちゃってるかもよ、YOU!?

 

「けど、お姉ちゃんのくせに命令口調だったから無視してやったー!」

「ふぉう!? 急に見下されたです!? 『くせに』ってなんですか!?」

「タケノコと鰹節の入った煮物ー!」

「それ『くせに』じゃなくて『土佐煮』です! 店長さんの作る美味しいヤツです! 興味のある方は是非陽だまり亭に食べに来てです!」

「お姉ちゃんの、土佐煮ー!」

「話がブレてるですよ!? 結局、外の声はどうなったです!?」

「叫び過ぎて、最後の方『げほっ』ってなってたー」

「意外と虚弱です!? そこはもっと怨念とか呪いとか、なんらかのパワーで無敵ぶっててほしかったです!?」

「気付いたら寝てたー!」

「窓ドンドン叩かれて、すぐ外で叫ばれてたのにですか!?」

「慣れると、少々元気な子守歌ー!」

「度胸があり過ぎて、姉でありつつちょっとどん引きですよ!?」

「寝て起きたらいなかったー!」

「諦めて帰ったですね」

「けど、窓の外にはべっとりと血がー!」

「無邪気な声で恐ろしい事実ぶっ込んでこないでです!?」

「で、実はお姉ちゃんだったー!」

「違うですよ!? 最初の一歩であたしは容疑者から外れてるはずですよ!」

「でもお姉ちゃんの声だったよ?」

「その後知らないオッサンの声になったですよね!?」

「ウチのお姉ちゃんならそれくらい出来るー!」

「はぁあう! ウチの弟が無邪気可愛いですっ!」

「お前ら、もういいから姉弟揃って黙れ」

 

 怖い話なんだか、漫才なんだか、身内自慢なんだか分かんなくなってきた。

 ただ、起こった事実だけを淡々と並べて想像すると…………普通に怖いよな? 開けてたらどうなっちゃってたんだろう系の怖いヤツじゃん!

 

 くっそ、今日マジで窓に近付かねぇ!

 板で補強して絶対開かなくしてやる!

 っていうか、まぁ? 俺の部屋は二階だし? さすがに窓を叩かれるようなことなんて……

 

「あの、ちょっといいッスか、ハム摩呂?」

「はむま……いいよー!」

「言うなら言い切るッスよ!?」

「ろ?」

「足りない分追加しなくていいッス!」

「むずかしい……しゅん」

「そこまで反省するほどのことでもないッスよ!?」

「反省しなーい!」

「こいつは……はぁ、もういいッス。それよりハム摩呂、お前の部屋って、二階だったッスよね?」

「うんー!」

「……どうやって二階の窓を外から叩くんッスか?」

「ん~? …………がんばってー!」

「おぉう……『どうやって』の答えが精神論だったッス……」

 

 そうかそうか、ハム摩呂の寝室は二階なのか。

 ウーマロ。

 

 余計な情報寄越してんじゃねぇよ!

 

 あーもう、窓見ない! 聞かない! 歌わなぁ~い!

 

「よぉし、イラストが描けたぞー!」

 

 全身がゾワゾワするのでさっさとイラストを描いてやった。

 とっても可愛らしく描けたぞ、うん。

 

 ハム摩呂の証言通り、ロレッタにそっくりな三頭身キャラだ。

 ただし、口の周りには泥棒髭を生やし、吹き出しの中に『ぼへぇ~』っとガラガラのだみ声っぽいフォントでセリフを書き足しておいた。

 

「ちょーっと、お兄ちゃん!? あたしに似た顔でそーゆーのやめてです! 可愛いロレッタちゃんのイメージ台無しですよ!?」

「え? 『ぼへ~』なんだって?」

「『ぼへ~』言ってないです!」

「色付け終わったでござる!」

「やけに仕事が早いですね、ござるさん!? 悪意ですか!? あたしへの挑戦ですか!? 受けて立ってやるですよ!?」

 

 ロレッタが舞台へ『とん、とん、とーん!』と駆け上がってベッコへと詰め寄る。

 会場からは笑い声が漏れてはいるが、そんな声も少々固い。

 やっぱ、何気に怖かったんだろうな。

 ……ハム摩呂…………がっかりだよ!

 いや、企画意図的には申し分ないんだけれども!

 

 あぁ、もうどうしようか、俺の話をしてさっさと終わりにしてしまおうかと、そんなことを思った時、ヤツは現れた。

 

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