「ヤシロさん」
レジーナと入れ替わるようにベルティーナが俺のもとへやって来た。
「お隣に座っても?」
「どうぞどうぞ」
レジーナでクレームが来なかったんだ。誰が座っても問題ないだろう。
俺の隣に座り、ずらりと居並ぶ壇上のガキどもを見つめるベルティーナ。
すみっこの方に見知った顔がいくつか並んでいる。
若干の田舎臭さはあるものの、みんな精一杯のおめかしをしている。
「ガキどもの衣装は寮母のおばさんたちが作ったのか?」
「そうなんです。一応、希望を聞いて、なるべくそれに添うように……と、思っていたんですが」
頬に手を当て、困ったような微笑ましいような、そんな笑みを浮かべる。
「みんな、ウェディングドレスが着たいと言ってまして。さすがに無理でした」
「あれは、ウクリネスが本気出さなきゃ難しいからな」
「女の子たちは、みんなウェディングドレスに憧れているんですよ」
「結婚する時まで待ってろって言っとけよ」
「そうですね。そうします」
教会のちびっ娘どもが嫁に行くような年齢になる頃、この街はどんな風に変貌してるんだろうな。
ベルティーナは泣いたりするのだろうか?
……というか、教会で育った娘たちは、結婚する気満々なのか?
ジネットみたいに「アルヴィスタンですから~」とか言わないのだろうか。
「誰が最初に嫁に行くのかねぇ」
「ジネットではないでしょうか?」
「………………ガキどもの話をしてるんだよ」
「それは、まだ分かりませんね」
ジネットもまだ分からないけどな。
相手がいるとは聞いてないし、アルヴィスタンだし…………ちぃっ、聞くんじゃなかった、こんな質問。
「もしかしたら……私、かもしれませんけどね」
「…………」
また、そんな人をからかうような目をして……
「『ガキども』の話をしてるんだが?」
「ばぶばぶ。……うふふ」
……オシメ換えるぞ、このやろう。
「あ、見てください、ヤシロさん。テレサさんですよ」
ベルティーナに言われて舞台へ視線を向けると、ふんわりとしたドレスを身に纏ったテレサが壇上にいた。
司会進行役の女性の隣にテレサが立っている。
「それじゃあ、テレサちゃん。自己アピールをしてください」
「ぁい! あーしは、あんじゃん、しましゅ!」
「暗算ですか? すごいですね~」
「もんだい、くだしゃい!」
「じゃあねぇ~、『1+3』は?」
「ぇ…………よん、でしゅ」
「せーいかーい! すごいですねぇ、テレサちゃん!」
「もっと、むじゅかしぃの、できぅ、お!」
「それじゃあ、ちょっと難しいのを。『5+6』は?」
「じゅうぃち……」
「せーいかーい! テレサちゃん、天才!」
「ちぁうの! もっと! むじゅかしぃの! できぅのぉ!」
「「「「かわいい~」」」」
出来るもん出来るもんと、腕をぱたぱたさせるテレサを見て、観客が目尻を下げる。
あ~、信じてないなぁ、あの目は。「そっかそっか、もっと難しいの出来るんだね、すごいね~」みたいな目だ。
マジですごいの出来るんだけどな……
けど、『ミスプチエンジェル』なら、こっちの方が高評価だろう。
いきなり四桁の掛け算とか暗算でやられると逆に引きかねない。
黙っておこう。
「可愛いですね。まさにエンジェルです」
『ミスプチエンジェル』はお子様限定のコンテストだ。
ベルティーナに言わせればみんなエンジェルに見えることだろう。
「み~んな、エンジェルじゃぁああああい!」
「今すぐ口を閉じませんと、力尽くでマナーモードにいたしますわよ?」
……ハビエルに言わせてもみんなエンジェルみたいだな。
『ミス幼女』って名前は避けたのに、しっかりと嗅ぎ取って見に来たんだな、ハビエルのヤツ。
誰より早く衣装に着替えてお目付け役をやっているイメルダに、ちょっと感心と同情をしちゃうよ。しっかり押さえ込んでてくれよ、身内の変態を。
「続きまして、シェリルちゃんで~す! なにをしてくれますか?」
「めかくしで、おやさい、あてるー!」
「それはすごいね~。じゃあ目隠ししよっか」
「うん!」
シェリルが目隠しをすると、壇上に数種類の野菜が運び込まれた。
司会の女がトウモロコシをシェリルに手渡す。
「とーもろこしー!」
「せーいかーい! じゃあ、次はこれです!」
と、トマトを手渡す。
「とーもろこし、いがいー!」
「せ……せいかい? でーす!」
正解かな!?
いや、正解っちゃ正解だけどさ!
「シェリルさんも、すごい得意をお持ちなのですね」
「いや、あれくらいはどこのガキでも出来るだろう?」
「特技と言えるくらいにトウモロコシに愛情があるという点がすごいのですよ」
「褒めようと思えばどんなこじつけでも理由になるんだな」
会場からは「かわいい~」って声が漏れているし、ポイントは稼げているようではあるけどな。
可愛けりゃいいって大会だし。
「てんとうむしさん」
ひょこっと俺の前に現れたミリィは、随分と大人っぽい格好をしていた。
両肩を出して、胸元も結構『攻めて』いる。
スカートはヒザ下丈なのだが、スリットが入っているため左足の太ももが時折ちらりと見える。その太ももに幅の広いレース編みが見え隠れしている。ガーターベルトで留めるストッキングのようだ。おそらく見せているのだろうが、見えちゃいけないものが見えているようでちょっとドキッとする。
「ミリィ、ど、……どうしたんだ?」
「ぇへへ……」
「『ミスプチエンジェル』の予選もう始まってるぞ、早く行かなきゃ!」
「みりぃ、子供じゃないもん! プチエンジェルの部には出ないの!」
ぷんぷんと怒るミリィからは、いつもの可愛らしさが見て取れてほっとする。
しかし、誰がメイクしたのか知らないが……大人っぽく見えるなぁ。
「今日は随分と大人っぽいんだな。見違えたよ」
「ほんと!? ぁの、ね、今日はね……ちょ~っとだけ、ね、ォトナな格好、なの」
「仕掛け人はイメルダか?」
「ぅうん。なたりあさん。みりぃの中の、ォトナな部分を引き出す、って」
ナタリア……ミリィにエロスを求めるとは……
あいつ、匠か!?
よく引き出したな。
きっと、持てる力のすべてを注ぎ込んだに違いない。
……が、それでもやっぱり可愛らしさが勝るのがミリィだよな。
「どぅ、かな? みりぃ、大人っぽい……かな?」
「どう思う、ベルティーナ?」
「はい。とっても可愛いですよ」
「はぅ!? ……かゎ、ぃい? セクシーじゃ、なぃ?」
「えっと…………ヤシロさん?」
返答に困ったのでベルティーナにパスを出したのだが、余計に難しい質問でパスが戻ってきてしまった。
セクシー、か……
「色っぽい吐息とかしてみたら色気が増すかもな」
「色っぽい? えっと…………のーまさんとか、なたりあさんみたいな感じで…………ぁ、ぁはぁ~ん………………今のなし!」
「『会話記録』!」
「読み直さないでぇ~!」
ぴょんぴょんと俺に飛びかかってくるミリィを見てベルティーナが可笑しそうに肩を揺らす。
「くすくす、ミリィさん。とってもかわいいですよ」
「はぅぅ……大人っぽくしたつもりなのにぃ……」
なぁ、ミリィ。
大人っぽい路線を目指したいなら、テントウムシの髪飾りは外した方がいいんじゃないか?
自分で作ったもんだからアレだけどさ、そのテントウムシ、すげぇ可愛さアップしてるからさ。
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