異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

257話 一年で一番ヒートアップする日 -3-

公開日時: 2021年4月27日(火) 20:01
文字数:2,424

 深紅の水着姿のレジーナという、世にも珍しい生き物を一目見ようと、河原にいた者が殺到した。

 

「レジーナさん、こっち向いてです!」

「……ファンサービスは必須」

「やかましいな! 見んといてんか!」

「そうやって顔だけ隠していると、イケナイお店のお姉さんみたいだぞ」

「自分だけはホンマ心底やかましいわ。懺悔してきたらえぇのに」

 

 俺にだけ冷た~い視線が向けられる。

 お前も不公平すんのかよ。どっちかって言えばこっち側の人間のくせに。

 

「みなさん、レジーナさんと一緒に遊べるのが嬉しいんですよ」

「嬉しいっちゅう顔ちゃうやん。絶対面白がっとるんや」

 

 涙目でジネットに絡むレジーナ。

 いじける姿も珍しく、女子たちはみんなにやにやした顔で眺めている。

 

「けどすげぇなぁ」

 

 レジーナをまっすぐ見つめて、デリアがぽつりと呟く。

 

「エステラの乳パット、全然分からない」

「うるさいよ! いいお店の高級品なの! 当然だろう!?」

 

 怒るポイントが分からねぇよ。

 つか、俺レベルになるとどこからがニセモノか一目瞭然だから。

 

「も~う、自棄や! 食ぅたるねん!」

 

 体を屈めて、皿に盛られたバーベキューをがっつくレジーナ。

 だがそれは、恥ずかしくて顔を上げられないことを誤魔化すための行動だというのがバレバレで、見守る女子たちの顔が一層緩むことになるのだった。

 

「ここ空気悪いわ! 窓開けてんか!?」

「外だっつの」

 

 引きこもり時間が長過ぎるから、感覚がバカになってんじゃねぇのか?

 

「もう、誰でもえぇから、なんか楽しい話してんか! ウチ、これからしばらく一言もしゃべらんとご飯食べるさかいに!」

 

 恥ずかしさが限界なのだろう、真っ赤な顔で目尻に涙を浮かべるレジーナ。

 もっと苛めたくなるが、そろそろやめてやるべきだろう。

 ジネットがみんなに目配せをしている。そろそろやめろってよ。

 

「じゃあ、じゃあ~、私が楽しみなお話してもいいかな~☆」

 

 水槽ではなく岩に腰掛けて、マーシャが挙手をする。

 マーシャが楽しみなことと言えば……

 

「明日――」

 

 お泊まりの話はルシアの前では厳禁!

 マーシャには伝わってなかったのか!? エステラめ抜かりやがって!

 

「明日からの豪雪期が終われば年末だな!」

「へ? そ、そう、だね?」

 

 急に話題を掻っ攫われて、マーシャが目を丸くする。

 危ない……間一髪だった。

 

「マーたんは年末が楽しみなのか?」

「ん~、年末というか~☆」

 

 蒸し返すなルシア!

 

「年末じゃなくて、年明けだろ、マーシャ」

 

 お願い、気付いて!

 と、ウィンクを飛ばしておく。

 

「年明けから、四十二区の港の工事が始まるからな」

「あ、うん! そうだね。すごく楽しみ☆」

 

 年が明ければ港の工事が始まる。

 揉めに揉めた各区への根回しもようやく一段落し、ついに四十二区に港が出来るのだ。

 すでに港を持っている三十五区と三十七区の領主とは、話は付いている。

 マーシャが直々に、四十二区に港が出来ても、各港で水揚げされる魚の量は減らさないという約束をしていた。

 税収が減るわけではない。

 そもそも、四十二区の港は本当に小さなものになる予定で、魚の水揚げというよりも、マーシャが四十二区へ遊びに来るための近道的な意味合いが強い。

 その辺を強調して納得させた。

 

 まぁ、魚も譲ってもらうけどな。

 

『BU』の連中は、多数決の一件以降、まともに会談が出来るようになった。

 三十五区、三十七区と隣接する二十五区、二十六区から若干の不満が出たが、ニューロードの誕生や豆の生産量の増大による税収アップを受けて了承を取り付けてある。

 

 連中は学習したのだ。

『四十二区とうまく付き合っていくことが、利益に繋がる』とな。

 

 そんなわけで、『BU』も比較的すんなりと話がまとまった。

 

 一番難航したのは三十区だ。

 

 ニューロードの誕生にもいい顔をしておらず、四十二区のせいで税収が落ちたらどう責任を取るんだ的なことを遠回しにねちねちと言われ続けていた。

 というか、まだぶつぶつ言っているらしい。

 

 むしろ、ニューロードを目当てにした新たな商人たちが増えて税収はアップしているはずなのに。

 これは三十区と隣接する二十九区と二十三区の領主からの情報なので確かなはずだ。明らかに商人の数が増えている。

 四十二区にも、見たことがない商人が増えている。

 光るレンガを買い付けていく商人も多く、四十二区にも利益が落ちてきている。

 ……たぶん、それが気に入らないのだろう。

 自分の利益が減るわけでもないのに、他人が儲けているとなんとなく損したような気分になって難癖を付けてくる『しみったれ』はどこにでもいた。

 

「アイツばっかり目立って、気に入らねぇ」ってヤツだ。

 他人を蹴落とす前に、自分を上げる努力をしろと言いたい。

 

 始末に負えないのが、その港の工事というのが、三十区の下の崖を少し削らなければいけないという点だ。

 

 四十二区の外側は深い森で、西側は絶壁になっている。

 海なんてどこにもないように見えるのだが、実はその絶壁の下に海があるのだ。

 マーシャ曰く、四十二区の外にある絶壁の下は鍾乳洞のようになっており、崖の中は結構大きな空洞なのだそうだ。

 船が入るには少し狭いが、ちょっと広げれば航行も可能となる。

 ただし、出口は狭い。だからこそ、これまで誰もそこに海があると気が付けなかった。

 

 そこだけは結構な大工事が必要になる。

 

 で、そこに噛みついてくるんだよ、三十区の領主が。

 やれ「本当に大丈夫なのか」「崖が崩れたりしないのか」「削るのは領地の外だといっているが本当か? もしわずかにでも三十区の領地の地下を掘るようなことがあれば領土侵略と見做すぞ」とかな。

 

 掘るのは、三十区の街門から200メートルほど離れた場所になる。

 だから、まかり間違っても三十区の下を掘るようなことはないのだが……まぁ、要するに難癖を付けて少しでも利益を吸い取ってやろうって腹づもりなんだろうな。

 

 実に面倒くさいヤツだ。

『BU』がこちらについている以上、滅多なことは行ってこないとは思うが。

 

 はてさて、どうなることやら。

 頼むから大人しくしとけよもう。

 

 

 

 

 

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