「……そう言えば、ようやくモコカが情報紙でマグダの特集を組みたいと言い出した」
「……マグダ、お前、地道にモコカ攻略を続けてたのか…………」
どんだけ羨ましかったんだよ、過去のナタリアフィーバー。
いや、パウラと比べられて客をごっそり持っていかれたことを気にしていたのか……
「……ただ、頭の硬い上層部を納得させる理由が欲しいらしい」
「マグダを特集するに足る理由か?」
「……そう。四十二区というだけで特集が組まれる時期は過ぎた。何かしらの『引き』が必要。たとえば…………『狩猟ギルドを牛耳る美少女狩人』とか」
「テメェなんぞに牛耳らせるか! 四十二区支部の代表は俺!」
「……ウッセを倒せばマグダが一番」
「いやいやいや! 序列あるから! 俺に何かあっても次のヤツ決まってるから!」
「……全部倒せば…………」
「どこまで情報紙に出たいんだ、テメェは!?」
何か手を打たないと、四十二区の狩猟ギルドが壊滅させられそうだ。
とはいえ、『何か』っつってもなぁ。
「けど、前二つの相談がクッソしょーもなかったから、マグダの相談は全力で協力したい気分だぜ!」
「「誰の相談がクッソしょーもないか!?」」
お前らのだよ、クッソしょーもないブラザーズめ。
「あ、そうだ。ウッセ、お前さ、素敵やんアベニューに魔獣の肉の串焼き屋出せよ。あの通り、ダイエットして腹を空かせてる女子が集まってくるだろうし、売れるんじゃね?」
「バカか!? そんなことしたら、狩猟ギルドが女の敵扱いされるだろうが……」
ち。
ウッセはリカルドほど無神経ではないようだ。……ち。
我慢しているところへ肉の焼ける美味そうな匂い……食っても食わなくても恨みが募るだろうなぁ~。やればいいのに。
そして嫌われればいいのに、ウッセが。ウッセ個人が。
「俺は、女性が綺麗になりたいって気持ちを応援するスタンスだからよ」
「……ヤシロ。ウッセがなけなしのモテ要素を必死にかき集めようとしている。……あるかどうかはさておいて、必死さだけがひしひし伝わってくる。モテ要素があるかどうかはさておいて」
「二回もさておいてんじゃねぇよ!」
「マグダ。アレが『下心』ってヤツだ。あーゆー男には近付いちゃダメだぞ」
「……気を付ける」
「間違ってもテメェには手ぇ出さねぇよ!」
ほほう? じゃあマグダじゃないヤツには手を出すつもりなのか、その下心で。たとえば、ジネットとか?
「ウッセ、出禁」
「なんでだ、こら!?」
「陽だまり亭は、下心満載のヤツは出入り禁止なんだよ」
「……ヤシロ。そういうわけらしいから」
「こら、マグダ。なんで俺まで追い出そうとしてんだ? そっと出口を指差すんじゃねぇよ」
「くすくす。ヤシロさんも下心が見え隠れしているようですよ。日頃の言動に気を付けてくださいね」
う~む。
ジネットがこういう冗談に乗ってくるようになった。
こいつに言われると「ねーわ!」って言いづらいんだよなぁ……だって、揺れるんだもん!
「だって揺れるんだもん!」
「ヤシロさん、出口はあちらですよ?」
くすくすと笑って、ジネットが出口を指差す。
あ~、ジネットまでそっち側になっちゃったかぁ。誰のせいだよ、まったく。
……俺のせいじゃねぇよ。たぶん。
「……む」
ジネットが出口を指差した直後、マグダのトラ耳がぴくっと動いた。
「……来る」
呟いて、俺をドアの前へと押し出す。
そして、ジネットを連れて俺の背後へと身を隠す。
その直後。
「えぇぇえ~いゆぅぅうううううう!」
勢いよくドアが開け放たれ、バルバラが弾丸のような勢いで飛び込んできて俺に飛びついてきた。
……こいつ、ニャ○まげみたいに気軽に飛びついてんじゃねぇよ。
つかマグダ? 来るのが分かった上で、なぜ俺をドアの前に押し出した? 楽しんでるのか、この状況を、俺のちっちゃい不幸をさ?
「聞いてくれよ英雄! 酷いんだぞ!」
「酷いのはいちいち俺を巻き込みに来るお前だ。相談なら親友にでもしてくれ」
「親友?」
モコカがいるだろうが!
え、なに? もう忘れたの!?
運動会したの、ついこの間じゃねぇか!
「英雄とアーシの関係は?」
「他人だ」
「いやいやいや! そんな他人行儀なもんじゃねぇよ!」
誰が教えた、『他人行儀』?
そしてめっちゃ他人ですから。
「アーシと英雄はアレだ、ほら、ネフェリーが言ってた…………あ、そうそう! 友達以上恋人未満!」
「絶対違う!」
妙な言葉ばっかり覚えやがって。
それより先に礼節と品性って言葉を覚えてこい!
「なぁ、英雄……」
「んだよ?」
「……アーシ、さ…………可愛い?」
「…………は?」
ほのかに頬を染め、俯き加減で上目遣い。
……お前、どこでそんなあざとい表情を覚えてきたんだ?
可愛いか可愛くないかで言えば……
「バルバラさんは、とっても可愛い女性ですよ」
「だよなー? やっぱ店長もそう思うだろ?」
「はい」
「なぁー! アーシ可愛いんだよ! うん!」
……そーゆーとこだぞ、バルバラ。
はい、減点。
ったく。折角少しずつ肉が付いてきて、髪型にも気を遣うようになって多少は見られる風貌になってきたってのに……
「なのにさぁ、オックスのヤツがさぁ……!」
「オックスって……お前、ガキの言うことをいちいち気にすんなよ」
「だって、あいつさぁ! アーシよりテレサの方が可愛いって言うんだぞ!」
「その通りじゃねぇか」
「う……っ、ま、まぁ、確かに、テレサは世界一可愛いけどさ……」
じゃあいいじゃねぇか。
お前も認めてることなんだし。
「けどっ、テレサがアーシみたいになりたいって言ったらさ、『ダメだよ! テレサちゃんはもっと素敵な女性にならなきゃ!』って!」
「その通りじゃねぇか」
「えー!? なんでだよ、英雄!?」
将来の目標が現在地より低いんだから、その考え方を正してやるのは正しい行いだろうが。
「テレサはな、アーシに憧れてんだぞ。いっつも『おねーしゃみたいになりたい』って言ってくれるんだぞ! アーシはそれを応援してるんだ!」
「才能ある若者の未来を摘み取るような真似はやめろ!」
「酷ぇよ、英雄!? アーシだって、最近結構頑張ってんだぞ!?」
お前が血反吐を吐くような努力をしようが、現在のテレサはその努力の結果の遙か頭上をスキップで飛び越えていけるくらい高みにいるんだよ。
気付けよ、自分らの立ち位置に。
「テレサはさ、『おねーしゃ、いちばん、ちれぃ!』って言ってくれるんだ」
「テレサ……まだ目がはっきりと見えてないのか……」
「見えてるよ! 最近はアリの行列を眺めるのがすっげぇ好きなんだから! 小さいのもはっきり見えてるよ! そこらへん、すっごくありがとうな英雄!」
急に感謝をぶっ込むなよ。ちょっとびっくりしたわ。
というか、テレサにもそんな子供っぽい一面があるんだな。なんだか和むよ。
「アリの行列を見てな、『移動速度が~』とか、『体積が何倍のエサを持った時にかかる重さと速度の変化が~』とかぶつぶつ言ってんだ」
テレサ……あんまり急いで成長しないでくれ。ちょこっとだけ不安になる。逆に! 子供っぽい一面、なくさないでほしいなぁ!
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