異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

80話 砂糖の行き先 -3-

公開日時: 2020年12月16日(水) 20:01
文字数:2,075

 そんな豪華な馬車に揺られ俺たちは四十二区へと戻ってきた。

 四十二区に入ったところで降ろしてもらい、俺はもう一件用事を済ませてから陽だまり亭へ戻ることにする。

 

 俺が向かった先は……

 

「よぅ、ネフェリー」

「あ、ヤシロ」

 

 ネフェリーの養鶏場だ。

 ケーキを作るには、新鮮な卵が必要だからな。

 早く帰って卵を冷やさなければ。ケーキ作りには冷えた卵が必須だ。冷えていないとメレンゲがうまく泡立たない。

 

「今日はいい卵が採れたんだよ~。自信作」

 

 胸を張ってカゴいっぱいの卵を渡してくれるネフェリー。

 うん。確かに大きくて形のいい卵ばかりだ。

 

「悪いな。お前もあとで陽だまり亭に来いよ。美味いもの食わせてやるから」

「え、なになに!? 何を食べさせてくれるの?」

「ケーキだ」

「ケーキ!? ……ステキ。一度食べてみたかったんだぁ……」

 

 さすが、流行に敏感なオシャレ女子ネフェリーだ。ケーキのことも当然知っていたようだ。だが、お前の思っているそれとは全然別物だから。

 

「あ、あんちゃん! なぁ、あんちゃんって!」

 

 ウィスパーで叫び、パーシーが俺の服を引っ張る。

 

「なんだよ?」

「あ、あ、あぁあ、あの、あの女の子…………知り合いか?」

「ネフェリーか? まぁ、知り合いっつうか……」

「付き合ってるのか!?」

「付き合ってねぇよ! いろいろ、商売する上で協力し合っている、仲間みたいなもんだ」

「……か、彼氏……いるのかな?」

「え…………お前、まさか…………」

「…………マブい」

 

 マジか!?

 えっ!? こいつ、マジかっ!?

 

「な、なんて獣特徴のハッキリした女性なんだ……」

 

 あ、こいつ……自分が獣特徴全然ないから、真逆のタイプに憧れてやがるな。

 つか、獣特徴出まくりなのは男っぽいんじゃなかったっけ?

 すげぇ女っぽいパーシーと、すげぇ男っぽいネフェリーってことだろ?

 いいのか、それで?

 

「あ、ああぁ、あのっ!」

「ん? どなた?」

「パッ、パーシー・レイヤードですっ! 『パー』っと花咲く『シー』ラカンス、パーシーと覚えてくださいっ!」

 

 おいおい。シーラカンスは咲かねぇよ。

 

「あ、あは、あはは、なんだろう……あ、汗、かいちゃって、あははは!」

 

 パーシーの額からダラダラと大量の汗が噴き出し、流れ落ちている。

 ……どんだけ緊張してんだよ…………ニワトリだぞ? よく見ろ。よく見なくてもニワトリだけどな。

 

「オ、オレ……そ、その……いやぁ、今日は暑いですねぇ」

 

 流れ落ちる汗をグリグリと拭い、パーシーが乾いた笑いを零しまくる。

 落ち着け。汗かいてるのお前だけだから……あ~ぁ、ほら、折角のメイクが完全に落ちちまってるぞ。

 

「あれ? その目……」

「え? …………あっ!?」

 

 パーシーは両手についた墨を見て声を上げる。

 目の周りの黒いメイクはすっかり落ち、普通のチャラいややイケメンになっていた。

 

「いや、これは、その……っ!」

「獣特徴全然ないんだねぇ」

「そ、そんなことは…………」

「それでメイク?」

「あ、あの……す、すぐに! 明日にでも獣特徴が『ブワーッ!』って出来るんじゃないかと……」

「私、そういう男っぽくない人、ちょっとダメだなぁ……」

「んがっ!?」

 

 ネフェリー……お前、なんつぅド直球な…………

 

「もっとしっかりしなさいよ。男はやっぱり、男らしくないと」

 

 ネフェリーがパーシーの二の腕をポンポンと叩く。

 ボディータッチもなんか昭和だな、お前は。

 

「……ネフェリーは獣特徴の出ている男子が好み?」

 

 マグダの問いに、ネフェリーは微かに頬を染め、しかし恋バナを楽しむ女子のような楽しげな笑みを浮かべてこくりと頷いた。

 

「そりゃ、やっぱり……女子としては男子には頼り甲斐とか、男らしさを求めちゃうからさぁ」

「……ヤシロは?」

「ふぇっ!? な、なんで、そこでヤ、ヤシロが出てくるのよ!?」

「……ヤシロは獣特徴皆無」

 

 いや、マグダ。それ、当たり前だから。

 

「やだもう。だって、ヤシロは獣人族じゃないもん。獣特徴がないのは当然でしょう」

 

 そうそう。ネフェリーの言う通り。……なんだけど、『獣人族』って俺が作った造語だよな? いつの間に浸透してたんだ?

 

「……ヤシロは、例外?」

「ぅえっ、あ、いや……その…………も、もう! 変なこと言ってないで、早く帰ってケーキ作ってよ! わ、私っ、絶対食べに行くから! じゃ、じゃね! 頑張ってね!」

 

 真っ赤な顔をして、ネフェリーは鶏舎へと駆け込んでいった。

 

「キャー! もうもうもう!」

 

 なんて、女の子らしい悲鳴を上げながら、顔を両手で覆って。……トサカを、揺らしながら。

 

「……そういうわけだから、パーシー」

 

 マグダが、「ドッゴォォォォオオオオン!」と落ち込んでいるパーシーの肩に手を載せる。

 慰めるつもりであんなことを聞いたのか?

 だとしたら、マグダのヤツ……

 

「……完全に脈なし」

 

 ……鬼だな。

 

「オ…………オレッ! 男らしくなってやるぅぅぅぅうっ!」

 

 哀れなり、パーシー。

 まぁ、頑張れ。

 

 つか……後天的に獣特徴って現れるもんなのか?

 ある日突然、全身タヌキになったりすんのかよ?

 そしたら絶対、認識できない自信があるぞ、俺は。

 

 

 おそらく叶わないであろうパーシーの絶叫を聞きながら、俺はそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

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