春から夏へと移り変わろうとする季節、少し暖かくカラッとした風が吹き抜けていく。
スキル修行を決意してから1週間ほど経ったある日、俺はとある本を抱えて庭にやってきた。
――仕組みもある程度分かったし、そろそろ実践してもいい頃合いだと思う。
なぜあそこまで意気込んでいた人が修行を始めるのに一週間もかかっているのか。
別に時間がなかったわけでも、面倒だったわけでもないぞ。単純に魔法を発動させる方法が全く分からなかっただけだ。
例えるならば操作方法も分からない状態でゲームをプレイしようとするようなものである。
だからそのゲームを全力で楽しむためにも、わざわざ一週間もかけて別言語で書かれている説明書を翻訳しながら読み込んでいたのだ。
スキルはすでに習得済みだから俺にはすでに魔法を発動させる能力は備わっている……はず。
こういうものは理論的には分からなくとも、感覚さえつかめてしまえば大丈夫だ。身体で覚えるスポーツと同じ、きっとそうに違いない。
俺は抱えていた本こと入門魔導書のページを開き、もう一度魔法の発動方法に目を通す。
魔法を発動させるには主に4つのプロセスが必要らしい。
1.マナ誘導
2.属性指定
3.想像構築
4.具現化
これらの処理を順に行っていけば、ひとまず魔法の発動自体には成功する。ただし魔法が発動しても、現象が発現するとは限らないらしい。
魔導書をすべて翻訳したわけではないから原因はまだ良くわかっていないが、ゲームで例えるとおそらく魔法レベルが低くて成功率が低くなっているような感じだろう。
まあ、処理やらプロセスやら言っているがすべて感覚次第だと魔導書には書いてあるがな。
ただし感覚だけではなく、想像力も魔法発現と密接な関わりがあるという。
3番目のプロセスで工夫すると効率的に魔法を発現させられる。しかし、逆に言えばそこがもっとも重要なプロセスであるとも言えるだろう。
マナと想像力で作り上げる科学的に証明することのできない超常現象、まさに俺の知っている魔法そのものだ。
「とりあえず……ほんのとおりにやってみよう」
頭で考えるよりは実際にやってみて学んだほうが早いしな。
俺は魔導書に書いてある通り、静かに息を吐きだし呼吸を整えながら両手をお椀のように丸める。
そして身体中を流れている血液のような“なにか”に意識を集中させた。
まず、マナ誘導――身体中を流れているマナを魔法を発動させる部位に集中させる。
身体の中をぐるぐると渦巻いている“なにか”の流れを制御することなんてできるのか、と思ってしまうがともかくやってみよう。
次に属性指定だが……これは初心者には難しい工程らしいので飛ばすことにする。
次に想像構築――今回発動させる予定の魔法は【魔弾生成】のため、FPSゲームなどでよく見る銃弾を正確に頭の中で思い浮かべる。
形はシンプルなもので構わない、というか芸術点の高い銃弾を作ったところで打ち出せなければ意味はないからな。
最後に具現化だ。直射日光に照らされているかのように熱くなった両手からその“なにか”を放出するため、全身に力を入れた。
すると両手に鈍い白色の輝きが宿り、次の瞬間……小さな白い円柱のようなものが掌の上にコロンと落ちた。
「おお……っ!」
俺は感動のあまり声を上げた。
さきほどまではなにもなかったはずの両手の中に、白く輝く銃弾が生成された……。
この目で見た、全身で感じた! 科学の世界で生まれ育ち、転生した俺が魔法を発動させたのだ!
興奮で頬が上気するのを感じながら俺はその銃弾を優しくつまんでみた。
しかしそこでふと違和感を覚える。今まで本物の銃弾に触れたことはなかったが、そんな俺でも感じるほどの違和感だ。
――これ、思っていた以上に形がいびつだな。
遠目に見れば綺麗な弾丸の形をしているが、目に近づけて見てみるとその粗悪さがはっきりと分かる。
こんな凸凹な銃弾じゃ、敵を撃ち抜くどころか発射できずに銃身を傷つけてしまいかねない。
それに……魔法でできているからなのか、色がとても薄い。奥の景色が透けて見えるくらい半透明なのだ。
加えて、古びたアパートに取り付けられていそうな消えかけた蛍光灯と似た輝きを放っている。
もっと魔法的なオーラが溢れ出るものを想像していたんだが……、まさかここまでひどいとはな。
これは恐らく、魔法使用者の実力があまりにもなさすぎるからだな。でなければ、こんな粗悪品が生成されるわけがない。
けれど……裏を返せば、これからの伸びしろに期待できるとも考えられるな。
そもそも初期ステータスな上に、十分の一というおぞましいデバフがかかっている状態で、まともに魔法を行使できないだろう。
魔法が失敗せず、物体として手の中に現れただけでも十分な成果だ。
「……いちおう、そうてんしてみようかな?」
例のごとく、俺は床下から銀色に光る拳銃を取り出し、回転式弾倉のロックを外した。
そしてあまりにも粗悪すぎる魔法の銃弾をおそるおそる、その弾倉の中へと入れようとする。
しかし結果は目に見えて失敗。
銃弾のサイズ感は思ったよりあっていたが、表面が凸凹なあまり、弾倉に入りすらしなかった。
これは――弾の大きさを気にする以前に出来ばえを気にしたほうが良さそうだな。
「うぅん、さきはながそうだなぁ」
筋力に銃弾の調整、この引き金を引く前にやるべきことはまだまだ沢山ありそうだ。
それと魔法を使ったのだから……あれも確認しておくべきだ。
草むらの上に置いてあったステータスキューブを拾い上げ、真ん中のマスに指を押し付ける。すると、目の前に簡易ステータスが表示された。
本来ならステータスは全て回して表示するのだが、簡易ステータス画面のみこうやって表示できる。ショートカットキーのようなものだな。
【名 前】 ゼッタ
【職 業】 魔法銃師
【レベル】 1
【生命力】 6/6
【マ ナ】 2/3
【ライフ】 ♥♥♥♥♥
うん、予想通りマナが消費されたか。
ゲームではMPを消費して魔法を撃つのが定番だが、これはこの世界でも変わりないようだ。
違いがあるとすれば……恐らく消費マナも整数ではないことくらいか?
ステータス画面ではほとんどの項目に小数点以下が存在する。なら消費するマナの量にもそれは存在するだろう。
調べることが山のように増えていく……やっぱり一筋縄ではいかないかぁ。
とりあえず、まずはこの魔法が使えなくなるまでの回数を数えてみるとしよう。
――しかしその数分後。
俺はその浅はかな考えをひどく後悔する羽目になったのだ。
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