キングゼロ

〜13人の王〜
朝月桜良
朝月桜良

報酬の決定

公開日時: 2022年2月26日(土) 12:00
文字数:1,950

「決まったよ、例の権利」

「────っ」

 辛い気持ちを堪えるように固く目を瞑り、黙って待つルナリス。

 そんな彼女に告げる。

「俺が欲しいのは、土地だ」

「……そう」

 ルナリスの口から重い溜め息がこぼれた。

 大して表情は崩れなかった。だが、必死に堪えているのは見ただけでもわかる。震えるほど強く拳を握り締めて我慢していた。見ていてあまりにも痛々しい。

 ルナリスは優しいからこそ、割り切れない想いもあるのだろう。

 しかし、シンリが選ぶことを彼女自身が望んだ。ならばシンリもそれに応えるしかない。


「……それでは、私の領地から土地を──」

「それでさ、場所、指定していい?」

 沈痛を押し隠すルナリスの言葉を遮った。

 不安そうに表情が曇る。

「……どうぞ」

「俺が初めてこの世界に来たときに寝てた場所。ここみたいなところで、大きな木が一本だけ生えた場所があるんだけど、そこから家一軒分の土地を指定させてもらうよ」

「……はい?」

「だからさ……何だったっけ? あの、何とか草原?」

「ラシール原野?」

「それ! ラシール原野から家一軒分の土地をくださいな」


 ルナリスが眉間に皺を寄せ、遠慮がちに挙手する。

「……ちょっといいかしら?」

 頷き、発言を許可した。

「私はこれでも十二──いえ、十三人いる王の一人なのよ?」

「うん、わかってるよ? 俺もその一人だし」

「ファルカリアは、世界を約十二等分にした土地と国民を有しているの」

「まぁ、そうだろうね」

「……正確にはもっと少ないけど」

 と、小声でひっそりと付け加える。

「きっと、どちらも貴方の考えている数十倍か数百倍、あるいはもっと多くを有していると思うわ」

「というか端から予想もできないけどね」

「そして、一つのキングゼロでの勝敗で動く権利の規模もまた、貴方の予想を遥かに上回っていると思う」

「へぇ、そりゃ凄いな」

「それで、だから……」

 ルナリスが一瞬言い淀んだ。


 深く息を吐き出し、意を決した様子で言った。

「仮にラシール原野を全部指名されても、まだ足りないということよ」

「まぁ、そうだろうね」

「貴方が言っているのは、得られた権利のほとんどを拒否するようなものなの。わかっているの? 貴方も王の端くれなのよ? 奪えるものは全て奪い、自国をより豊かにすることが王の義務なの。本当にわかっているの?」

 ルナリスが物凄い剣幕で詰め寄る。


 シンリは気圧され、思わず後退った。

「いや、俺、国民どころか一緒に住む人もいないから、そんなに広いスペースはちょっとね。必要ないっていうか、持て余すっていうか……むしろ邪魔になる。広過ぎると落ち着かないしさ。やっぱり俺、王なんて向いてないんだよ」

「だけど今後──」

「いや、俺はいつか元の世界に帰るんだし、王になる気はこれっぽっちもないよ。あっ、帰るときには、ちゃんと奪った土地も返すから安心して」

 シンリは、えっへんと胸を張った。

 この案ならばルナリスに──ファルカリアにあまり損害はないはず。移動の手間が掛かる国民とは違い、土地なら返すのも簡単だろう。これで心置きなく借り受けられるというもの。

 ひとまずの居場所も得られるので一石二鳥だ。


 だが、暴走でもしているかのようにルナリスが止まらない。

「けれど、それじゃあ私の気が済まないわ! 私は嫌がる貴方を無理矢理戦わせた。そして、正々堂々と戦って負けたの。貴方にはもっと得る資格も権利もある」

 もっと要求しないと引くに引けないようだった。

(わざわざ自分の首を絞めることを言うなんて、不器用というか生真面目というか……)


 どうしたものかと、妥協点を探す。

「あっ! だったらさ、代わりに家を建ててもらえないかな? ルナリスの国の大工に頼んでもらってさ。費用はそっち持ちで。これでどう?」

「……でも」

 ルナリスはまだ納得できずに渋る。

 仕方ないと、シンリは言葉を続けた。

「まだ納得いかないっていうんなら、可愛い女の子──メイドの子たちをもらってもいいんだよ。言っとくけど、俺に甲斐性はないから幸せにしてあげられないけど、それでもいいの? 俺のハーレムができちゃうよ?」

 なははっ、と大きく笑っておく。

 もちろん冗談だ。半分は。


 ルナリスは口を噤んだ。

 まだ不服の拭い切れていない様子を見て、シンリはまた一つ冗談を重ねる。

「ちなみにハーレム要員は、ルナリスとシルファも大歓迎ですよ」

 こちらはさすがに混じりっ気なく冗談だった。もしもこの場にシルファがいれば、間違いなく鉄拳が飛ぶだろう。想像するだけでわずかな緊張が走った。

 ルナリスは微笑み、

「そうね、それも悪くないかもね」

 と返した。

「うぇぇぇぇっ!?」

「ふふっ。冗談よ」

「わ、わかってるよ!?」


 そんななんてことないやりとりが嬉しく、自然と笑みがこぼれた。

「なははっ」

「ふふっ」

 シンリが笑う。

 一緒にルナリスも笑う。

 戦いは終わったのだと実感した。

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