【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう

~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1755話 九龍地方・佐京藩

公開日時: 2025年5月24日(土) 12:10
文字数:2,186

「ちぃっ! まさか、九龍地方の平定にこれほど手こずるとは……! 想定外じゃ!!」


 地図の上で指を走らせるその小さな手に、彼女の怒気が込められていた。

 ここは九龍地方の北部、佐京藩。

 不朽丘藩と隣接している藩だ。


 この地を治めるは、女王『ひみこ』。

 年端もいかぬ――まだ十歳にも満たない――狐耳の可愛らしい少女のように見える。

 だが、ひとたび口を開けば、言葉に重みがあり、目を合わせることすら憚られるような鋭い眼差しをもって、周囲を従わせた。

 年齢も姿も、威厳の前にはただの衣を被った幻にすぎないのだ。


 円卓を囲むようにして立ち並ぶのは、佐京藩の高官たち。

 全員がひみこの言葉に神経を尖らせ、彼女の機嫌を損ねぬよう、慎重に口を開く。


「力士どもを懐柔しようとしたのは失敗でしたな。手心を加えたのが徒となったようです」


 初老の参謀が、眉を顰めて言った。

 語調は冷静だったが、その裏には自責と焦燥が見え隠れする。

 ひみこの計画――否、藩を挙げての戦略が、予想外の抵抗により崩れかけている事実に、幹部たちの誰もが動揺を隠せなかった。


「しかも、何やら強力な治療妖術使いが頭角を現したとか」


 別の武官が、顎に手を当てながら低く呟いた。

 小さな情報も見逃さぬよう、彼らは各地の報告を血眼で読み解いている。

 だが、どうにも手応えが薄い。

 それほどまでに、九龍の情勢は読みづらくなっていた。


「愛智の成り上がり将軍を討ち倒し、大和を統一するのが我らの悲願。そのためには、九龍を平定して土台を盤石にせねばならぬ。それがどうだ、この現状は……」


 張り詰めた空気の中、一人の老臣が苦々しげに語る。

 彼の言葉には、藩としての歴史と誇り、そしてその裏に隠された焦燥と危機感が滲んでいた。


「不朽丘藩の粘りを見て、他の藩も翻意する可能性があります。魅夜裂(みやざき)の地に派遣している大使から、不穏な動きの報告が……。これはまずいですよ」


 重ねられる報告に、場の空気はさらに重く沈む。

 ひみこは唇をかみしめ、肩を震わせた。

 その小さな体に宿る怒りは、まるで烈火のようだ。


「うぐぐ……! あいつらさえ……あの怪物集団さえいなければ! 今ごろは九龍を掌握し、愛智へ策謀と攻勢を仕掛けていたものを……!!」


 思い出すのは、数か月前の出来事だった。

 藩の領海に突如として現れた、異国の船。

 当時のひみこは詳細を把握していなかったが、それはサザリアナ王国からやって来たタカシ一行だった。


 特殊な結界妖術により、ひみこは彼らの行く先を把握した。

 目指す先が『霧隠れの里』と判明すると、機を逃さず排除を命じた。


 しかし、結果は必ずしも万全のものではなかった。

 優秀なはずの忍者や巫女たちをもってしても、散り散りに転移させるのが限界だったのだ。


「……カゲロウやイノリを処罰しなかったのは、無駄に内部を動揺させぬため。侵入者を藩の外に追いやれば、それで済むと……そう考えたのじゃが」


 小さく呟くひみこ。

 その言葉は自分への言い訳でもあり、幹部たちへの苦い報告でもあった。


 ――いくら強いとはいっても、異国の地での個人行動では何もできない。

 当時の彼女はそう判断し、タカシ一行への警戒を解いていたのだ。

 誰もその判断を責めようとはしない。

 だが、その甘さが今、牙となって返ってきている。


「連中め……! 大和中に散らばり、好き勝手に暴れておるようではないか……! おかげで、事前に集めていた情報が役に立たん! 情勢が目まぐるしく動きすぎておる……!!」


 ひみこが声を荒らげる。

 机上に並んだ報告書の山が、その言葉の重みを裏付けていた。

 彼女の顔には皺が刻まれ、その目は疲労と苛立ちの色に濁っている。


 ミリオンズの能力は、ひみこの想定を大きく超えていた。

 まず単純に、それぞれの戦闘能力が想定よりも一回り以上高い。

 そして、戦闘能力以外の分野でも各人がその能力を遺憾なく発揮している。

 各自の高い能力を武器に、彼女たちは瞬く間に各地に影響を及ぼしていった。

 その足跡は、まさに災厄のようだった。


 漢闘地方の東都藩では、一人の武闘家の出現が歴史を塗り替えるほどの衝撃をもたらした。

 彼女は凄まじい速度を伴った雷速武闘を操って道場を開き、そして同時に栄養抜群の料理を普及させていった。

 武闘家たちの技術が向上するばかりか、肉体強度までもが増しているとの話だ。


 中煌地方の不死川藩ではさらに異様な現象が起きていた。

 上級の治療妖術に加え、強力な自己再生能力をも併せ持つ鳥人が確認されたのだ。

 人々はそれを『不死鳥の再来』と呼び、かつて猛威を振るった『不死武士隊』が再び姿を現した。

 彼女の出現により、藩内には畏怖と希望がないまぜになった熱気が渦巻いた。

 かつての英雄譚が再び幕を上げたのだ。


 その他、近麗地方の那由他藩や四神地方の紅炎藩でも、異変は起きていた。

 その土地を守護する大和神が、一個人に肩入れして大きな力を貸し与えているらしい。


 もはや、諜報によって収集された情報など、古びた紙切れにすぎなかった。

 世界が、劇的に動き出している。

 慎重かつ大胆な戦略変更が求められていた。


「奴らを甘く見ましたな……。よもや、異国人にこれほどの適応力があるとは……」


 老将の一人が、口を噛みしめながら言った。


「……単純に連中の能力が適応力が高いこともあるが、転移妖術への抵抗力も関係しておるのじゃろう」


 声の主はひみこ。

 彼女の眼差しは揺るぎなく、真理の一端を見据えていた。

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