【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう

~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1742話 岩石封じ

公開日時: 2025年5月9日(金) 12:10
文字数:1,303

「がはっ! はぁ……はぁ……」


 豪傑は、満身創痍だった。

 荒く呼吸を繰り返しながら、片膝をついてうつむく。

 立ち上がろうとする姿には意志の強さが滲むが、膝は震えている。

 彼の動きは鈍く、疲労や痛みに耐えているのが明らかだった。


「抵抗は無意味だ。素直に負けを認めたらどうだ?」


 そう声をかけた俺の声には、わずかに冷笑が混じっていた。

 勝者の余裕。

 だが、決して驕りではないつもりだ。

 彼の力をそれなりに認めたうえでの、あくまで冷徹な判断である。


「はぁ……はぁ……」


 豪傑は答えない。

 呼吸の音だけが荒く空気を震わせる。

 だが、その無言こそが答えだった。


 諦めていない。

 まだ終わっていない。

 彼は黙して語っていた。


 俺は、彼の元へと歩み寄る。

 足音が静かに響き、彼我の距離を一歩一歩縮めていく。

 しゃがみ込み、仮面越しに目線を合わせた。


「俺の配下になるなら命は助けてやる。どうだ?」


「……お断りです!」


「だろうな」


 俺は、ニヤリと笑う。

 薄笑いには少しばかりの敬意が込められていた。

 もちろん彼の回答は想定内だ。


 彼は自ら『美しき帝王』と名乗っている。

 プライドはかなり高いはず。

 簡単に負けを認めたりしないだろうと思っていた。


「【岩石封じ】」


 俺は、豪傑の四肢を岩で固定する。

 重々しい音を立てて岩が生まれ、彼の手足を掴みとった。

 これで逃げることはできない。

 拘束は完璧だ。


 ……しかし、こうして近くで見ると改めてその背丈の小ささが目立つな。

 地を揺るがすような怪力を持つとは思えない、華奢にすら見える体格。

 あれほどの怪力を持つ豪傑には似つかわしくない。


 だが、それは異世界人である俺の偏見というものだろう。

 この世界には魔力、闘気、聖気、妖力などが存在する。

 力の本質は肉体の大きさに宿るとは限らない。

 外見から推測される筋肉量だけで、腕力ははかれない。


 ……そうだ。

 ちょっと思い出してきた。

 たしか、記憶喪失になる前の俺には剛腕を誇る大切な人が――


「ぐああぁあぁっ!!」


 俺の思考は中断された。

 突如、激しい頭痛に襲われたからだ。

 焼けるような痛みがこめかみから頭蓋の奥にかけて駆け抜ける。

 まるで誰かが脳を釘で打ちつけているようだ。

 これまでにも増して強烈な痛みである。


 落ち着け。

 同じことを何度繰り返す?

 強者との戦闘中では、わずかな隙が致命的になる。

 考え事は厳禁だと、何度も肝に銘じてきたはずだ。


 まして、今の俺は記憶喪失で脳が不安定。

 激しい頭痛に襲われれば、数秒以上の隙を晒すこともあり得る。

 不幸中の幸いだが、俺はつい先ほど土魔法『岩石封じ』で豪傑の四肢を拘束したばかり。

 この状態からなら、多少の隙を晒しても――


「ふんっ!!」


「なにぃっ!?」


 豪傑の拳が俺を襲う。

 迸る闘気と共に放たれたその一撃は、正面からのものとは思えぬほど速く、重く、鋭かった。

 まさに想定外だった。


 油断していたわけじゃない。

 だが、頭痛のせいで『散り桜』の制御に微かな乱れが生じていたのは事実で、その隙を突かれた形だ。

 防ぎ切れなかった衝撃が身体の芯まで染み込み、咄嗟に数歩後退するしかなかった。


 岩で組み上げていたはずの拘束は容赦なく砕かれ、無数の石片が四散して地面にぱらぱらと落ちている。

 その音がやけに耳に残った。

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