「今、素顔を見せよう。……これでいいか?」
そう言って仮面に手をかける――つもりだった。
が、手元が狂ってしまった。
「っ!?」
突然、豪傑の顔色が変わる。
先ほどまでの柔和な空気が一瞬にして消し飛び、怒りに染まる。
「そ、”そこ”を見せろなんて言っていません! やはりあなたは変態ですね!? 戦闘中から疑わしいとは思っていたのです!!」
怒声が轟く。
空気が一気に緊迫する。
「ま、待て待て! 間違えただけだ!! その拳を収めてくれ!!」
俺は慌てて叫ぶ。
焦りで声が裏返る。
完全に俺が悪い。
言い訳の余地はない。
俺が何をしたのか?
全裸に仮面と炎という常識外れの格好で、その肝心の炎を消してしまったのだ。
見た目はもう変質者そのものである。
俺のマグナムは並の攻撃には耐えられる。
だが、この怪力豪傑の拳が炸裂したら、さすがに洒落にならない。
ここは全面謝罪で態勢を立て直す!
「……む? おい、どうした? チラチラ見て……」
「い、いえ。何でもありません」
「嘘つけ、絶対見てたぞ。ひょっとして、他人のアレを見るのは初めてなのか?」
「そんなことありません! ……見覚えのある形かと思ったのですが、元よりまじまじと見たことはありませんし、これだけでは判別できません……」
なぜか視線を逸らしながらそう呟く豪傑。
その態度に、逆にこちらが戸惑う。
「? 何の話だ?」
「な、何でもありません! 忘れてください!」
語気が強くなる。
あからさまに狼狽している。
そこまで慌てる理由がわからない。
「分かった。忘れよう」
ここは深追いしない方がいい。
俺は素直に頷いた。
よく分からないが、剛腕による局部破壊はなんとか回避できたらしい。
「と、とにかく、素顔を見せてください。なんだか妙な胸騒ぎがするのです」
豪傑が急かす。
今度こそ間違えないように、俺は慎重に仮面に手をかけた。
「ああ、分かった」
俺はゆっくりと仮面を外す。
「っ!!」
豪傑が息をのむ音が聞こえた。
仮面越しに彼の瞳が見開かれ、まるで時間が止まったかのように俺を凝視する。
その視線が刺さるほど鋭い。
「た、タカシ様……?」
「ん? 俺の名前をなぜ知って――」
「タカシ様っ! タカシ様ぁあああ!!!」
「うおっ!?」
堰を切ったように叫ぶと、彼女は一気に距離を詰め、抱きついてきた。
凄まじい怪力だが、どこか愛情のこもった加減がある。
懐かしさすら感じさせる、圧倒的な熱量。
なんだ?
どういうことだ?
なぜ、彼は俺の名を知っている?
どうして『様』付けで呼んでいるんだ!?
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